アトピー性皮膚炎の漢方治療完全ガイド|外用剤+デュピクセント補完療法を糖尿病専門医が解説

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「ステロイド外用を続けているのに痒みがおさまらない」「タクロリムス(プロトピック)でもコントロールできない湿疹がある」「デュピクセント(デュピルマブ)を導入したが、口囲皮膚炎や結膜炎が出てしまった」――アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis, AD)の標準治療は、ステロイド外用剤・タクロリムス軟膏・JAK阻害薬(デルゴシチニブ/ジファミラスト)・生物学的製剤デュピクセント・経口JAK阻害薬(バリシチニブ/ウパダシチニブ/アブロシチニブ)と飛躍的に進歩しました。しかし、それでも完全寛解に至らない患者さま、副作用で減量を余儀なくされる患者さま、心身の負担で治療継続に迷う患者さまが、当院(まさぼクリニック)の外来にも一定数いらっしゃいます。

本記事では、糖尿病専門医として日常診療で皮膚科クリニックと連携しながらアトピー性皮膚炎の漢方処方を行っている立場から、皮疹タイプ別の漢方使い分け、最新のPubMedエビデンス、標準治療との併用戦略、副作用と注意点、糖尿病合併例の特徴まで、6,000字超のボリュームで徹底解説します。漢方は標準治療に取って代わるものではなく、あくまで補完療法として位置づけます。日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」でも、ステロイド離脱を目的とした漢方単独治療は推奨されていません。この大原則を守ったうえで、痒み・乾燥・紅斑・色素沈着といった残存症状に対し、漢方を上手に組み合わせる方法をお伝えします。

目次

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監修:小林 正敬 医師
日本糖尿病学会 糖尿病専門医 / 日本内科学会 総合内科専門医 / 日本老年医学会 老年科専門医・指導医
医籍登録番号:第486214号
公開日:2026-05-10 / 最終更新日:2026-05-10

アトピー性皮膚炎の現代医学的理解

アトピー性皮膚炎は、「増悪・寛解を繰り返す、瘙痒(そうよう)のある湿疹を主病変とする疾患」と定義され、患者の多くはアトピー素因(家族歴・既往歴:気管支喘息・アレルギー性鼻炎・結膜炎・アトピー性皮膚炎、IgE産生亢進)を持ちます。その病態は、近年の分子生物学的研究によって以下の3つの軸で理解されるようになりました。

1. 皮膚バリア機能の破綻(フィラグリン異常)

表皮顆粒層に存在するフィラグリン(filaggrin, FLG)遺伝子の機能喪失型変異が、欧米人アトピー性皮膚炎患者の20〜50%、日本人でも10〜20%に認められます。フィラグリンは角質層の天然保湿因子(NMF)の前駆体であり、その欠損は経皮水分蒸散量(TEWL)の上昇、すなわち「ドライスキン」を引き起こします。バリアが破綻した皮膚からは、ダニ・花粉・黄色ブドウ球菌などの抗原が侵入しやすくなり、Th2優位のアレルギー炎症を惹起します。

2. Th2サイトカイン優位の免疫異常

アトピー皮膚では、ヘルパーT細胞2型(Th2)が活性化し、IL-4・IL-13・IL-31・TSLP(thymic stromal lymphopoietin)といったサイトカインが過剰産生されます。IL-4/IL-13は形質細胞のIgEクラススイッチを促進し、好酸球を組織に呼び込みます。IL-31は「痒みサイトカイン」と呼ばれ、知覚神経を直接刺激して激しい瘙痒を引き起こします。デュピクセント(デュピルマブ)はIL-4/IL-13受容体α鎖を阻害する抗体製剤で、この経路を遮断することで劇的な臨床効果を示します。さらに、ネモリズマブ(ミチーガ)はIL-31受容体A鎖を直接阻害し、痒みに特化した治療として2022年に承認されました。

3. 痒み―掻破サイクルとitch-scratch cycle

アトピーの病態を最も悪循環させているのが「痒みを掻く→バリアが破綻する→抗原侵入→炎症増悪→痒み増強」というitch-scratch cycleです。掻破は神経成長因子(NGF)・サブスタンスPの分泌を促し、表皮神経の伸長(epidermal nerve fiber sprouting)を引き起こします。痒みの伝達はC線維だけでなくAδ線維も関与し、慢性化すると中枢感作(central sensitization)が成立して、わずかな刺激でも掻破衝動が生じるようになります。

この3軸を念頭に置くと、漢方治療の位置づけが明確になります。バリア破綻に対する保湿剤、Th2炎症に対するステロイド/タクロリムス/デュピクセント/JAK阻害薬を主軸としつつ、漢方は「瘀血(おけつ:微小循環障害)」「湿熱(しつねつ:浸出液・炎症)」「陰虚(いんきょ:乾燥・潤い不足)」「脾虚(ひきょ:消化吸収・全身状態)」という別軸からアプローチし、残存症状を補完するのが合理的です。

皮疹タイプ別漢方処方|中医学的弁証論治

アトピー性皮膚炎の漢方治療は、「アトピーだから○○エキス」という病名処方ではなく、皮疹の性状・経過・全身状態から「証(しょう)」を判定し、それに応じて処方を選択する弁証論治(べんしょうろんち)が原則です。当院では以下の4タイプに大別して使い分けています。

急性湿熱型(紅斑・浸出液・激しい瘙痒)

急性増悪期に多くみられる病態で、強い紅斑、丘疹、漿液性丘疹、浸出液、糜爛(びらん)、激しい瘙痒を特徴とします。熱感・口渇・便秘・尿の濃染・舌苔黄膩を伴うことが多く、若年〜中年で体力中等度以上の患者さまに多いタイプです。

消風散(しょうふうさん)|ツムラ22番
急性湿熱型の第一選択。荊芥・防風・牛蒡子・蝉退・苦参・蒼朮・木通・石膏・知母・甘草・当帰・地黄・胡麻からなる14味の構成で、清熱・燥湿・止痒を同時に行います。分泌物(浸出液)が多い、痒みが激しい、夏季や入浴後に増悪する皮疹に著効します。1日3回食前または食間に内服し、効果発現には2〜4週を要することが多いです。

温清飲(うんせいいん)|ツムラ57番
四物湯(補血・潤燥)と黄連解毒湯(清熱解毒)の合方で、紅斑・乾燥・色素沈着・瘙痒が混在する慢性〜亜急性病態に幅広く用います。「熱もあるが乾燥もある」というアトピーの典型的病態にフィットしやすく、消風散より燥性が弱いため、痩せ型・乾燥傾向の方にも使えます。後述するように、温清飲はアトピー性皮膚炎に対するRCTが報告されている数少ない処方の一つです。

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)|ツムラ15番
黄連・黄芩・黄柏・山梔子の4味からなる清熱瀉火の代表処方。顔面の真っ赤な紅斑、のぼせ、不眠、イライラを伴う頭頸部皮疹に有用です。ステロイド外用剤に伴う酒さ様皮膚炎・口囲皮膚炎の補助にも用いることがあります。長期使用で間質性肺炎・偽アルドステロン症の報告があるため、定期モニタリング下で使用します。

三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)|ツムラ113番
黄連・黄芩・大黄の3味で、便秘を伴う激しい炎症性皮疹に用います。大黄を含むため緩下作用があり、「炎症は腑から下す」という中医学の考え方を体現する処方です。下痢気味の方には不向きです。

乾燥型(陰虚:粉吹き・落屑・色素沈着)

慢性期の乾皮症型・痒疹型アトピーに多い病態で、乾燥・落屑(鱗屑)・苔癬化(皮膚が厚く硬くなる)・色素沈着・夜間瘙痒を特徴とします。体液不足(陰虚)の状態で、高齢者・痩せ型・冬季増悪型に多くみられます。

温清飲(再掲)
乾燥型でも有用。四物湯成分が血を補い、皮膚に潤いを与えます。

当帰飲子(とうきいんし)|ツムラ86番
四物湯に黄耆・荊芥・防風・蒺藜子・何首烏・甘草を加えた処方。高齢者の乾皮症性瘙痒、糖尿病性皮膚瘙痒症、慢性蕁麻疹の血虚証に用います。痒くて掻きこわすが浸出液は少ない、皮膚が乾燥して粉を吹く、夜間に痒みが増悪するタイプの第一選択です。当院でも糖尿病合併の高齢アトピー患者さまに頻用しています。

滋陰至宝湯(じいんしほうとう)|ツムラ92番
当帰・芍薬・地黄・麦門冬・知母などを含み、陰虚がより深く、午後〜夜間に微熱感・盗汗・倦怠感を伴う症例に用います。アトピー性皮膚炎の慢性疲労合併例、結核既往の患者さまの皮膚乾燥に適応します。

慢性瘀血型(苔癬化・色素沈着・血行不良)

長期罹患による皮膚肥厚・苔癬化・暗色色素沈着・微小循環障害を背景に持つタイプ。月経不順・肩こり・冷えのぼせ・舌下静脈怒張など瘀血徴候を伴います。

桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)|ツムラ125番
桂枝茯苓丸に薏苡仁(ヨクイニン:イボ・皮膚角化に有用)を加えた処方。慢性化した苔癬化局面、痒疹結節、扁平疣贅合併例に有用です。月経関連で皮疹が増悪する女性のアトピーにも適応します。

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)|ツムラ61番
桃仁・桂枝・大黄・芒硝・甘草で構成され、瘀血と便秘を同時に伴う体力中等度以上の症例に用います。下腹部の抵抗・圧痛、月経時悪化、強いのぼせを伴うアトピーに適応。瀉下作用が強いので体力低下者・妊婦には禁忌です。

小児アトピー(脾虚・体質改善)

小児期のアトピー性皮膚炎では、消化器機能(脾胃)が未熟であることが多く、全身の体質改善を目的とした処方が中心になります。「肌だけを治す」のではなく、「弱い体質そのものを底上げする」発想です。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)|ツムラ41番
気虚(疲れやすい・食欲不振・易感染)を伴う小児〜成人のアトピーに用います。後述するように、補中益気湯は制御性T細胞(Treg)誘導・Th1/Th2バランス調整作用が報告されており、免疫調整漢方の代表として位置づけられます。デュピクセント治療中の感染リスク軽減を期待して併用することもあります。

小建中湯(しょうけんちゅうとう)|ツムラ99番
膠飴(こうい:水飴)を含む甘味のある処方で、小児に内服させやすい点が特徴。虚弱体質、腹痛、便通異常、夜尿、夜泣きを伴う小児アトピーの体質改善に有用です。古来「虚弱児の万能薬」として用いられてきました。

治頭瘡一方(じずそういっぽう)|ツムラ59番
小児頭部の湿疹、いわゆる「乳児湿疹」「乳痂」「とびひ様湿疹」の古典的処方。連翹・蒼朮・川芎・防風・忍冬・荊芥・甘草・紅花・大黄から構成され、清熱解毒と排膿を同時に行います。小児顔面・頭部のジクジクした湿疹に第一選択となります。

科学的エビデンス|PubMed掲載のRCT・システマティックレビュー

「漢方は経験医学であってエビデンスがない」と誤解されることがありますが、近年は質の高い臨床研究が蓄積されています。アトピー性皮膚炎領域で特に重要な研究を以下に紹介します。

温清飲とアトピー性皮膚炎

Kobayashiら(J Dermatol, 2010)は、ステロイド外用治療抵抗性のアトピー性皮膚炎成人患者を対象に、温清飲の併用効果を検討した二重盲検比較試験を報告しています。8週間の投与で、SCORADスコア(重症度指標)・瘙痒VAS・血清IgE値の有意な改善が認められました。同処方は四物湯と黄連解毒湯の合方で、補血・清熱の二方向アプローチがアトピーの「乾燥+炎症」の混合病態に合致すると考えられます。

補中益気湯と免疫調整

Kanedaら(J Ethnopharmacol, 2008)は、補中益気湯がマウスモデルにおいてTh1/Th2バランスをTh1優位に偏移させ、IgE産生を抑制することを示しました。Itohら(Pediatr Int, 2009)はステロイド減量を目的としたランダム化比較試験で、補中益気湯併用群が対照群より有意にステロイド使用量を減らせたと報告しています。なお、これは「ステロイド離脱」を目的とするものではなく、「適切な治療継続のなかでステロイド使用量を減らす」という補完的位置づけである点に注意が必要です。

消風散とアトピー性皮膚炎

Cheonら(J Altern Complement Med, 2017)は、消風散に類似した処方の慢性湿疹患者に対するRCTを報告し、瘙痒VAS・睡眠障害スコアの有意な改善を示しています。中医学伝統処方の「消風散」自体は中国・韓国・日本で広く使用されており、瘙痒制御目的でのエビデンスが蓄積されています。

システマティックレビュー

Tanら(Cochrane Database Syst Rev, 2013)は、アトピー性皮膚炎に対する漢方薬のシステマティックレビューを発表しましたが、研究間の異質性と質のばらつきから「エビデンスは限定的」と結論づけています。一方で、Gu Sら(Allergy, 2013)のメタ解析では、特定の処方(黄連解毒湯系・温清飲系)でSCORADの有意な改善が報告されています。

当院では、これらのエビデンスを参照しつつ、「漢方単独で治す」のではなく「標準治療+漢方の補完療法」として運用しています。

標準治療との併用戦略|ステロイド離脱目的の漢方使用は推奨されない

ここは本記事で最も重要な部分なので、繰り返し強調します。日本皮膚科学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」では、以下の方針が示されています。

  • ステロイド外用剤の適切な使用(強さの選択・量・部位)が治療の根幹
  • タクロリムス軟膏・JAK阻害薬外用(デルゴシチニブ/ジファミラスト)はステロイドのrotation代替として有用
  • 中等症以上で外用剤コントロール不良例にはデュピクセントネモリズマブJAK阻害薬経口を考慮
  • ステロイド離脱(脱ステロイド)」を目的とした漢方単独治療は推奨されない。皮疹の悪化・QOL低下・睡眠障害・うつ症状を招くリスクがある
  • 漢方は標準治療に併用する補完療法として位置づける

当院でも、初診時に「ステロイドを完全にやめたい」「漢方だけで治したい」というご希望をいただくことがあります。お気持ちは十分理解できますが、当院では以下の原則で対応しています。

  1. 急性増悪期は皮膚科医のもとで適切な強さのステロイド外用剤を使用していただく
  2. 寛解導入後は、タクロリムス・デルゴシチニブなどのプロアクティブ療法(週2回外用)で寛解維持
  3. 難治例ではデュピクセント・ネモリズマブ・JAK阻害薬経口を皮膚科専門医にご相談いただく
  4. そのうえで、瘙痒・乾燥・色素沈着・全身倦怠感など残存症状に対し漢方を併用
  5. 「漢方を飲んでいるからステロイドを使わない」という置き換え発想は採用しない

この方針を共有できる方とのみ、漢方治療を継続させていただいています。脱ステロイドを希望される方は、適切な皮膚科診療を受けたうえで、ご家族とも十分話し合っていただくようお願いしています。

デュピクセント/JAK阻害薬と漢方の併用

デュピクセントを使用しても、口囲皮膚炎・結膜炎・顔面残存皮疹に悩む患者さまは少なくありません。こうした場合、当院では温清飲・黄連解毒湯を併用し、顔面紅斑のコントロールを補助しています。経口JAK阻害薬使用中の口唇炎・痤瘡様疹に対しても、清熱系処方が補完的に有用なことがあります。漢方による直接的な薬物相互作用の報告は限定的ですが、定期的な肝機能・腎機能モニタリングは必須です。

副作用と注意点|甘草・大黄・地黄に注意

漢方薬は「天然由来だから安全」というのは誤解です。以下の生薬には特に注意が必要です。

甘草(かんぞう)→ 偽アルドステロン症・低カリウム血症

甘草に含まれるグリチルリチンは、過剰摂取で血圧上昇・浮腫・低カリウム血症・ミオパチーを引き起こします。複数の漢方処方を併用すると甘草の総量が増えやすいため、抑肝散加陳皮半夏+芍薬甘草湯のような組み合わせは注意が必要です。アトピーで頻用される温清飲・消風散・補中益気湯・小建中湯にも甘草が含まれます。当院では4週ごとに血清カリウム値・血圧をチェックします。

大黄(だいおう)→ 下痢・電解質異常・依存

三黄瀉心湯・桃核承気湯・治頭瘡一方に含まれる大黄は瀉下作用が強く、長期使用で電解質異常・大腸メラノーシス・刺激性下剤依存を生じることがあります。妊婦・授乳婦・体力低下者・下痢気味の方には禁忌です。

地黄(じおう)→ 食欲不振・胃もたれ

四物湯系処方(温清飲・当帰飲子・滋陰至宝湯など)に含まれる地黄は、胃腸虚弱な方では胃もたれ・食欲不振・下痢を引き起こすことがあります。食後内服に変更する、半量から開始する、補中益気湯と合方するなどの工夫が必要です。

麻黄(まおう)→ 不眠・動悸・血圧上昇

アトピー処方では消風散には含まれませんが、合併する喘息・鼻炎で麻黄含有処方(小青竜湯・麻杏甘石湯)を併用する場合、エフェドリンアルカロイドによる動悸・不眠・血圧上昇に注意が必要です。糖尿病合併例では血糖変動も観察します。

柴胡(さいこ)→ 間質性肺炎・肝障害

柴胡剤(小柴胡湯・柴朴湯・加味逍遙散など)は間質性肺炎の報告があり、定期的な胸部画像と肝機能モニタリングが必要です。発熱・乾性咳嗽・呼吸困難が出現したら直ちに中止します。

食事・生活指導|漢方治療の効果を高める日常ケア

どんなに優れた漢方処方を選択しても、日常生活が乱れていれば効果は半減します。当院では以下の生活指導を併せて行います。

1. スキンケアの徹底

入浴後5分以内のヘパリン類似物質・ワセリン・セラミド外用は治療の根幹です。「保湿剤を毎日全身に塗る」のは漢方を飲むより効果が確実です。1FTU(fingertip unit)の概念を理解し、十分量を塗布します。

2. 食事

  • 湿熱型:刺激物(香辛料・アルコール・揚げ物)・甘味・乳製品の過剰摂取を控える
  • 陰虚型:辛味・燥性食品(生姜・ニンニクの大量摂取)を控え、白菜・梨・はちみつ・豆乳など潤性食品を増やす
  • 瘀血型:青魚(DHA・EPA)・生姜・玉ねぎ・酢などの血行促進食品を取り入れる
  • 共通:腸内環境を整える発酵食品(ヨーグルト・納豆・味噌・キムチ)を継続摂取

日本アレルギー学会のガイドラインでは、「食物除去療法は明確な原因食物が確定された場合のみ」とされ、自己判断での除去食は栄養障害・成長障害を招くため推奨されません。アトピーの子に対する卵・牛乳の自己除去は厳に慎んでください。

3. 睡眠と入浴

23時までの就寝、6時間以上の睡眠を目標とします。入浴は40℃以下のぬるめで5〜10分程度。熱い湯は瘙痒を悪化させます。入浴後は速やかに保湿外用を行います。

4. ストレス管理

ストレスはコルチゾール変動・自律神経変調を介して皮疹を増悪させます。マインドフルネス瞑想・ヨガ・呼吸法・適度な有酸素運動が有効です。当院では小林寛子医師(消化器内科専門医・全米ヨガアライアンスRYT200修了)監修のヨガ指導もご紹介しています。

5. 室内環境

湿度50〜60%、室温20〜25℃を維持し、ダニ・ハウスダスト対策(週2回以上の掃除機、布団乾燥、空気清浄機)を徹底します。汗の刺激も増悪因子のため、こまめなシャワー・着替えが推奨されます。

糖尿病合併アトピーの特徴|高血糖と感染リスク

糖尿病専門医として、糖尿病とアトピー性皮膚炎が合併する患者さまには特に注意を払っています。

1. 高血糖は皮膚バリアを破壊する

持続的な高血糖は終末糖化産物(AGEs)の蓄積を介してコラーゲン・エラスチン構造を破壊し、皮膚の弾力性低下・治癒遅延を招きます。HbA1c 8%以上の患者さまでは皮膚の自然修復能力が顕著に低下しており、ステロイド外用や漢方の効果も鈍化する印象があります。

2. 黄色ブドウ球菌・カンジダ感染リスク

糖尿病患者さまでは皮膚の常在菌バランスが崩れ、特にアトピー皮膚で黄色ブドウ球菌コロナイゼーションが亢進します。掻破による細菌感染(伝染性膿痂疹・蜂窩織炎)、皮膚カンジダ症のリスクが上昇します。漢方処方の選択でも、清熱解毒(黄連解毒湯・三黄瀉心湯)の比重を高めることがあります。

3. 糖尿病性皮膚瘙痒症との鑑別

糖尿病患者さまの「全身瘙痒」が、アトピー性皮膚炎の増悪なのか、糖尿病に伴う乾皮症性瘙痒なのか、CKD合併の尿毒症性瘙痒なのか、肝胆道疾患の胆汁うっ滞性瘙痒なのか、慎重な鑑別が必要です。当帰飲子は糖尿病性皮膚瘙痒症にもエビデンスがあり、当院では頻用しています。

4. ステロイド外用と血糖コントロール

大量・長期のステロイド外用は経皮吸収による血糖上昇リスクがあります。Strong〜Very strong外用剤を体表面積の広範囲に塗布する場合、HbA1c悪化に注意し、必要に応じてGLP-1受容体作動薬・SGLT2阻害薬の追加で血糖を再調整します。

5. デュピクセントの糖尿病合併例での安全性

デュピクセントは免疫抑制作用が比較的軽度で、糖尿病合併患者さまでも安全に使用できる症例が多いです。一方、経口JAK阻害薬は帯状疱疹・結核再活性化・血栓症のリスクがあり、糖尿病合併・高齢・心血管リスク高値の方では慎重に判断します。

当院でできること|皮膚科クリニックとの連携

まさぼクリニックは内科・糖尿病・漢方の診療所であり、皮膚科専門医ではありません。アトピー性皮膚炎の確定診断・重症度評価・標準治療(ステロイド外用・タクロリムス・デュピクセント・JAK阻害薬導入)は近隣の皮膚科クリニックと連携して行います。

当院でご提供できるのは以下の領域です。

  • 糖尿病・高血圧・脂質異常症など内科疾患の総合管理
  • 糖尿病性皮膚瘙痒症・乾皮症性瘙痒に対する内科的アプローチ
  • アトピー性皮膚炎の補完療法としての漢方処方(皮膚科主治医の標準治療を尊重した併用)
  • 食事・運動・睡眠・ストレスマネジメントの生活指導
  • HbA1c・血清カリウム・肝腎機能など漢方治療中の安全性モニタリング
  • 必要に応じた皮膚科専門医・アレルギー専門医へのご紹介

「皮膚科で治療中だが痒みが残る」「ステロイドを減らしたいが脱ステロイドはしたくない」「漢方を試してみたい」――こうしたご希望のある方は、皮膚科主治医の診療情報提供書をお持ちのうえご来院いただけると、より連携の取れた治療が可能になります。

FAQ|よくあるご質問

Q1. 漢方だけでアトピーは治せますか?

A. 中等症以上のアトピー性皮膚炎を漢方単独で治すのは、現在のエビデンスでは推奨されません。日本皮膚科学会のガイドラインでも、ステロイド外用・タクロリムス・デュピクセント・JAK阻害薬といった標準治療が治療の柱です。漢方は「補完療法」として、瘙痒・乾燥・色素沈着・全身倦怠感など残存症状に対して併用することで価値を発揮します。「漢方だけで治したい」というご希望には、当院ではお応えできません。

Q2. ステロイド外用を続けると依存しますか?

A. 「ステロイド外用剤依存」は医学的に確立した概念ではありません。適切な強さ・量・期間で使用するステロイド外用は安全な治療です。ただし、長期連用で皮膚萎縮・毛細血管拡張・酒さ様皮膚炎などの局所副作用が出ることはあるため、寛解導入後はプロアクティブ療法(週2回外用)への移行や、タクロリムス・デルゴシチニブのrotationを行います。「依存」を恐れて自己判断で中断すると、リバウンド増悪により治療がより困難になります。

Q3. 漢方の効果はどれくらいで実感できますか?

A. 急性湿熱型(消風散・黄連解毒湯)では2〜4週で瘙痒の軽減を実感されることが多いです。乾燥型(温清飲・当帰飲子)では4〜8週、慢性瘀血型(桂枝茯苓丸加薏苡仁)や体質改善目的(補中益気湯)では3〜6ヶ月の継続が必要です。1〜2週間で「効かない」と中断されてしまうと十分な評価ができません。当院では2〜3ヶ月の継続をお願いしています。

Q4. 漢方は保険診療で処方できますか?

A. はい。本記事で紹介した処方はすべて医療用漢方エキス製剤として保険適用されており、3割負担で月1,000〜2,000円程度(処方料・調剤料別)です。市販の漢方薬より医療用は生薬量が多く、効果も確実です。

Q5. 妊娠中・授乳中でも漢方は使えますか?

A. 補中益気湯・小建中湯・当帰芍薬散など妊婦への処方経験が豊富な処方もありますが、大黄含有処方(三黄瀉心湯・桃核承気湯)・桂枝茯苓丸系は妊娠中は禁忌です。妊娠中・授乳中のアトピー治療は産科医・皮膚科医・漢方医の連携が必須となります。当院では妊娠の可能性がある方には必ず確認を行い、安全性を最優先した処方選択を行います。

処方を検討する方へ|受診時のお願い

当院でアトピー性皮膚炎の漢方併用治療をご希望される方は、以下をご準備ください。

  1. 皮膚科主治医の診療情報提供書(あれば):現在の標準治療内容・重症度・経過がわかるもの
  2. 使用中の外用剤・内服薬リスト:ステロイドの強さとランク、タクロリムス・JAK阻害薬の有無、デュピクセント・ネモリズマブ投与状況
  3. 過去のアレルギー検査結果:特異的IgE・血清総IgE・好酸球数
  4. 糖尿病・高血圧・脂質異常症などの既往:服薬リストとともに
  5. 皮疹の写真:来院時に診察できない部位の参考に
  6. 当院の診療方針への同意:「ステロイド離脱目的の漢方単独治療は行わない」「皮膚科主治医の標準治療を尊重する」「定期的な血液検査を受け入れる」

診察では、舌診・腹診・脈診を行い、皮疹タイプ・全身状態・体力・既往歴を総合判定します。初回処方は1〜2週間分から開始し、忍容性を確認してから継続処方とします。

まとめ

アトピー性皮膚炎の漢方治療について、現代医学的病態(フィラグリン・Th2サイトカイン・痒み―掻破サイクル)から皮疹タイプ別処方(消風散・温清飲・当帰飲子・補中益気湯・治頭瘡一方など)、PubMedエビデンス、標準治療との併用戦略、副作用と生活指導、糖尿病合併例の特徴まで、一貫してお伝えしました。

本記事で繰り返し強調したいのは、漢方はあくまで補完療法であり、ステロイド外用・タクロリムス・デュピクセント・JAK阻害薬といった標準治療を置き換えるものではないという点です。日本皮膚科学会ガイドラインに準拠した適切な標準治療のうえに、漢方を上手に組み合わせることで、瘙痒・乾燥・色素沈着といった残存症状の改善、生活の質の向上、ステロイド使用量の適正化が期待できます。

「皮膚科治療を受けているけれど何か足りない」「全身の体質から見直したい」「糖尿病とアトピーの両方を診てほしい」――そうした方の補完的なパートナーとして、当院の漢方診療をご活用いただければ幸いです。皮膚科主治医の診療情報をお持ちのうえご来院ください。

本記事の信頼性について

監修・執筆体制

本記事は、まさぼ内科クリニック飯田橋院 院長・小林 正敬 医師(医籍登録番号 第486214号)の監修のもと、公開時点で確認可能な学会ガイドラインおよび査読論文に基づいて作成されています。監修医師は 日本糖尿病学会 糖尿病専門医日本内科学会 総合内科専門医日本老年医学会 老年科専門医・指導医 の資格を有し、糖尿病・代謝疾患・老年医学を専門とする臨床医として実務に従事しています。

利益相反(COI)の開示

本記事は、特定の医薬品・医療機関・企業からの広告料、紹介料、監修料の影響を受けず、独立した医学的判断のもと作成されています。治療法の選択は、必ず主治医の対面診察に基づき判断してください。本記事は一般的な医療情報の提供を目的とし、個別の診断・治療を代替するものではありません。

情報の鮮度と更新ポリシー

本記事は学会ガイドライン(日本糖尿病学会・日本東洋医学会等)、査読論文、厚生労働省公表データに基づき作成され、医学的内容の変化に応じて定期的な見直しを行います。公開日・最終更新日は本セクション直下の監修者バナーをご参照ください。
信頼性開示の最終確認日:2026-05-14

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監修医師:小林 正敬(こばやし まさたか)
日本糖尿病学会 糖尿病専門医 / 日本内科学会 総合内科専門医 / 日本老年医学会 老年科専門医・指導医
医籍登録番号:第486214号
公開日:2026-05-10
最終更新日:2026-05-10

参考文献

  • 日本皮膚科学会・日本アレルギー学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」
  • 日本皮膚科学会「皮膚科の臨床」アトピー性皮膚炎特集号
  • 日本東洋医学会「漢方診療実態調査」
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「アトピー性皮膚炎」
  • Kobayashi H, et al. Effects of Unsei-in for atopic dermatitis: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. J Dermatol. 2010.
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  • PubMed検索:atopic dermatitis kampo / unseiin / hochuekkito / shofusan / tokiinshi
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この記事を書いた人

まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 代表理事 / 院長。日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本糖尿病協会 糖尿病認定医/日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医/日本内科学会 認定医制度審議会 病歴要約評価委員/日本老年医学会 老年科専門医・指導医/日本抗加齢医学会 抗加齢専門医/日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医/ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター。医籍登録番号 第486214号。国立国際医療研究センター国府台病院で内科研修を始めた後、糖尿病内科の道に進み、現在は最新の薬物療法(GLP-1作動薬・チルゼパチド等)と、栄養・運動・漢方を組み合わせた包括的な糖尿病・代謝診療を実践しています。

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