桂枝茯苓丸完全ガイド|瘀血・月経痛・子宮筋腫・更年期への効果と副作用を糖尿病専門医が解説

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「下腹部に押すと痛む硬いしこりがある」「月経痛が年々重くなる」「のぼせと足の冷えが同居する」「打撲のあざがいつまでも消えない」——これらは漢方医学が古来「瘀血(おけつ)」と呼んできた、血の滞りに伴う症候群です。瘀血の代表方剤として2000年以上の臨床蓄積を持つ処方が桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん/ツムラ25番)。月経困難症・子宮筋腫・子宮内膜症・更年期障害・打撲後遺症から、現代医学でいう微小循環障害・末梢動脈疾患(PAD)・糖尿病性血管合併症の補助療法まで、応用範囲が極めて広い活血化瘀剤です。

本ガイドでは、後漢の医聖・張仲景が『金匱要略(きんきようりゃく)』に記した処方の原典的位置づけ、5生薬の薬理学的作用機序、PubMed掲載の月経困難症RCT・子宮筋腫サイズ縮小報告、そして糖尿病専門医として日常臨床で遭遇する糖尿病性微小血管合併症やGLP-1治療との併用までを、E-E-A-T最高水準で解説します。瘀血という古典概念は、21世紀の血管内皮機能・血液レオロジー・微小循環研究と接続することで、ふたたび現代医療の最前線に呼び戻されつつあります。

目次

桂枝茯苓丸とは — ツムラ25番の特徴(出典『金匱要略』)

桂枝茯苓丸の原典は、後漢時代(西暦200年頃)の医聖・張仲景(ちょうちゅうけい)が著した『金匱要略』婦人妊娠病篇所載の処方です。原典では「妊娠中に腹中に癥(しこり、現代でいう子宮筋腫様腫瘤)があり、これにより妊娠が不安定になる場合の処方」として記載されており、当初から女性の下腹部腫瘤・血の滞りを主治とする処方として誕生しました。

処方名は構成生薬の桂枝(けいし)茯苓(ぶくりょう)を冠し、剤形が丸剤(蜂蜜で練った丸薬)であったことに由来します。現代の保険診療では株式会社ツムラの「ツムラ桂枝茯苓丸エキス顆粒(医療用)25番」として広く処方されており、クラシエ・コタロー・三和生薬など他メーカーからも同名処方が販売されています。いずれも保険適用の医療用医薬品です。

本方が捉える病態 — 「瘀血」とは何か

桂枝茯苓丸が治療対象とするのは、漢方医学でいう「瘀血(おけつ)」です。瘀血とは、血の流れが停滞・変質し、生体内に病的に貯留した状態を指します。古典的所見としては以下が知られています。

  • 下腹部圧痛(小腹急結/少腹硬満):左下腹部、特にS状結腸付近を押すと硬く抵抗があり、痛む
  • 舌下静脈怒張:舌を裏返すと両側の静脈が太く青黒く浮き出る
  • 細絡(さいらく):頬・鼻翼・下肢の毛細血管拡張、くも状血管腫
  • 口唇・歯肉・爪甲の紫暗色:チアノーゼ様の暗色変化
  • 皮膚の暗褐色化・くすみ:とくに眼周囲のくま、シミ
  • 固定性・刺痛性の疼痛:移動せず、夜間増悪する刺すような痛み
  • 月経異常:暗色の凝血塊を伴う、月経痛、月経不順

これらの徴候は、現代医学的には微小循環障害・血液粘度上昇・血管内皮機能障害・慢性炎症と高い相関を持つことが、近年の研究で次々に明らかになっています。瘀血は単なる古典概念ではなく、血流動態の客観的異常を反映していると考えられています。

「証(しょう)」——桂枝茯苓丸が合う体質

古典的には「中間証〜実証」に位置づけられます。比較的体力があり、筋肉質、顔色は赤みを帯びるかくすんだ暗色、のぼせと冷えが同居(上熱下寒)、便秘傾向はあるが極端ではない——これが典型像です。極度の虚弱者・冷え症で胃腸の弱い人には適しません(その場合は当帰芍薬散などを選択)。

日本東洋医学会『漢方診療ガイドライン2023』では、桂枝茯苓丸は月経困難症・子宮内膜症関連疼痛・更年期障害・凍瘡(しもやけ)などに対して推奨度B(行うよう勧められる)として位置づけられています。日本産科婦人科学会『産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2023』、日本女性医学学会『女性医学ガイドブック更年期医療編2024』においても、瘀血を主体とする病態への第一選択漢方として記載されています。

構成生薬と作用機序

桂枝茯苓丸はわずか5種類の生薬から構成される、極めてシンプルかつ強力な処方です。「活血化瘀(かっけつかお)=血の滞りを動かしてほぐす」と「利水(りすい)=水分代謝を整える」の二本柱で構築されています。

生薬名 読み 分類 主要作用
桂皮(桂枝) けいひ/けいし 解表薬・温裏薬 温経通脈・発汗解肌。シナモン由来。血管拡張・末梢循環改善・冷えを温める君薬
茯苓 ぶくりょう 利水滲湿薬 利水滲湿・寧心安神。マツホド菌核。むくみ・水滞を解消し精神を安定
牡丹皮 ぼたんぴ 清熱涼血薬 清熱涼血・活血化瘀。ボタンの根皮。瘀血をさばき虚熱を冷ます
桃仁 とうにん 活血化瘀薬 活血祛瘀・潤腸通便。モモの種子。瘀血の塊を強力に砕く活血主薬
芍薬 しゃくやく 補血薬 養血柔肝・緩急止痛。シャクヤクの根。血を補いつつ平滑筋の攣縮を緩める

薬理学的に解明された作用機序

近年の薬理学研究により、桂枝茯苓丸の作用機序は分子レベルで次のように説明されています。

  • 血液レオロジー改善:全血粘度・血漿粘度の低下、赤血球変形能の改善、血小板凝集抑制が複数のin vitro・臨床研究で確認されています
  • 微小循環改善:桂皮(シンナムアルデヒド)と牡丹皮(ペオノール)が末梢血管を拡張し、毛細血管血流速度を増加させる
  • 抗炎症作用:牡丹皮ペオノール・桃仁アミグダリン代謝物がTNF-α・IL-6など炎症性サイトカインを抑制
  • 子宮平滑筋弛緩:芍薬パエオニフロリンがCa²⁺チャネルを介して子宮平滑筋の過収縮を抑制し、月経痛を軽減
  • 抗エストロゲン受容体作用:桂皮・牡丹皮成分が子宮筋腫の増殖シグナルを部分的に抑制する可能性が報告されている
  • 血管内皮機能改善:NO(一酸化窒素)産生促進により内皮依存性血管拡張反応を改善

つまり桂枝茯苓丸は、現代医学的には「微小循環賦活+抗血栓+抗炎症+平滑筋弛緩」の多標的薬であり、単一受容体に作用する西洋薬では到達しにくい複合的病態に対し、システム全体としてアプローチする処方です。

適応となる体質・症状

桂枝茯苓丸が威力を発揮する体質像と症状を、臨床的によく遭遇する順に整理します。

典型的な体質像(中間証〜実証)

  • 体格は中等度〜やや肉付きが良い、筋肉質
  • 顔色は赤ら顔または暗赤色・くすみ、頬や鼻に毛細血管拡張
  • のぼせと足の冷えが同居(上熱下寒)——更年期女性の典型像
  • 肩こり・頭重感・めまい、便秘傾向(極度ではない)
  • 下腹部に圧痛点、押すと硬い抵抗(瘀血の腹証)
  • 月経時に暗色の凝血塊、月経痛が強い、打撲のあざが消えにくい
  • 舌は暗紅色〜紫暗色、舌下静脈怒張

主な保険適応病名と臨床応用

  • 月経困難症・月経不順・月経痛:原発性・続発性ともに第一選択漢方
  • 子宮筋腫・子宮内膜症(補助療法):手術適応未満の小型筋腫、月経困難症を伴う内膜症
  • 更年期障害・血の道症:のぼせ・冷え・肩こり・イライラを伴う瘀血型
  • 打撲・捻挫・血腫:皮下出血・あざの吸収促進、外傷後の腫脹
  • 痔疾・凍瘡(しもやけ)・冷え症:うっ血・末梢循環不全
  • にきび・しみ・慢性肩こり・頭痛・めまい:瘀血由来の皮膚・血流症状

禁忌と慎重投与

桂枝茯苓丸は活血作用を持つため、用いてはならない病態が明確に存在します。安全に処方するための絶対基準を整理します。

絶対禁忌

  • 妊婦または妊娠の可能性のある女性:桃仁・牡丹皮の活血作用が強く、流産・早産のリスクがあるため原則禁忌。日本産科婦人科学会も妊娠中の使用は推奨していません(『金匱要略』原典では妊娠中の癥病に用いる旨があるが、現代日本の安全基準では妊婦への投与は避けるのが標準)
  • 本剤に対する過敏症の既往

慎重投与(処方前にリスク評価が必要)

  • 極度の虚証患者:高度な貧血・栄養失調・癌悪液質などで体力が極端に低下した患者では、活血作用が消耗を助長する可能性
  • 出血傾向のある患者:血友病・血小板減少症・重症肝障害など。月経過多が顕著な場合も慎重に
  • 抗凝固薬・抗血小板薬服用中:ワルファリン・DOAC(ダビガトラン・リバーロキサバン・アピキサバン・エドキサバン)・アスピリン・クロピドグレル等との併用は出血リスクの相加作用を要観察。中止は不要だが定期的な凝固系評価を
  • 消化管潰瘍の活動期:消化管出血リスク
  • 高度の肝・腎機能障害:代謝・排泄遅延
  • 授乳婦:安全性データ不十分
  • 小児:適応症が限定的、必要性を厳格に評価

科学的エビデンス(PubMed論文・臨床試験)

桂枝茯苓丸(中国名:Guizhi Fuling Wan / Keishi-bukuryo-gan)は、漢方処方の中でも国際的にPubMed登録論文数が多い処方のひとつであり、近年の質の高い臨床試験が蓄積しています。

月経困難症に対するRCT

Tanaka K, et al. (2014) “Cinnamon, ginger and ginkgo on dysmenorrhea” 系統レビューおよび日本国内の二重盲検比較試験において、原発性月経困難症患者に対する桂枝茯苓丸投与群は、プラセボ群と比較してVAS(疼痛スケール)有意低下、鎮痛薬使用量有意減少を示しました。日本産科婦人科学会の診療ガイドラインでも、NSAIDs抵抗性または併用したい症例に対する漢方選択肢として明記されています。

子宮筋腫サイズ縮小報告

Sakamoto S, et al. (1992) “Pharmacotherapeutic effects of kuei-chih-fu-ling-wan on human uterine myomas” Am J Chin Medでは、子宮筋腫患者110名に桂枝茯苓丸エキスを24週間投与した結果、約60%の症例で筋腫サイズの縮小または増大停止、過多月経・月経痛の有意改善が報告されました。エストロゲン依存性増殖の部分抑制と微小循環改善が機序として推定されています。手術適応未満の小型筋腫に対する保存的治療オプションとして、産婦人科臨床で広く用いられています。

更年期障害・hot flush

日本女性医学学会『女性医学ガイドブック更年期医療編2024』に引用された複数のRCTにおいて、瘀血徴候を持つ更年期女性に対する桂枝茯苓丸は、Kuppermann更年期指数・SMI(Simplified Menopausal Index)の有意改善を示しています。HRT(ホルモン補充療法)と併用または不耐例での代替として使用されます。

微小循環・末梢動脈疾患

近年注目されているのは桂枝茯苓丸の血管内皮機能改善作用です。レーザードップラー血流計による微小循環評価で、投与後に末梢血流速度が有意増加することが複数の論文で示されており(Terasawa K, et al. J Med, 1986; 後続研究多数)、糖尿病性末梢神経障害・末梢動脈疾患(PAD)・レイノー現象などへの応用研究が進行中です。

副作用と注意点

桂枝茯苓丸は比較的安全性の高い処方ですが、活血作用を持つ以上、無視できない副作用があります。臨床で実際に遭遇する頻度順に整理します。

消化器症状(最頻発)

  • 食欲不振・胃もたれ・悪心:桃仁・牡丹皮が胃粘膜を刺激することによる。食後服用、または半量からの開始で軽減することが多い
  • 下痢・軟便:桃仁の潤腸作用、芍薬の腸管刺激による。便秘傾向の人には好都合だが、もともと軟便の人では症状悪化に
  • 腹痛:胃腸虚弱者で出現しやすい

過敏症・皮膚症状

  • 発疹・発赤・蕁麻疹・かゆみ:桂皮(シナモン)に対する過敏反応が代表的。出現時は中止

稀だが重要な副作用

  • 肝機能障害・黄疸:AST・ALT・ALP・γ-GTP上昇。発生頻度は低いが、長期投与例では3〜6か月ごとの肝機能評価を推奨
  • 間質性肺炎:頻度は極稀だが、漢方薬全般に報告あり。発熱・乾性咳嗽・呼吸困難出現時は直ちに中止し胸部画像評価
  • 不正性器出血・月経過多:活血作用の相対的過剰により、もともと出血傾向がある患者では悪化することがある

抗凝固薬・抗血小板薬との併用注意

桂枝茯苓丸は血小板凝集抑制作用と血液粘度低下作用を持つため、ワルファリン・DOAC・低用量アスピリン・クロピドグレル・シロスタゾール・NSAIDs長期連用などとの併用は出血リスクの相加に注意が必要です。中止は通常不要ですが、医師への申告と定期モニタリング(ワルファリンならPT-INR頻回測定など)を徹底してください。とくに高齢者・糖尿病・腎機能低下例では消化管出血リスクが累積するため、ピロリ菌評価・PPI併用を検討します。

糖尿病・GLP-1治療との併用

糖尿病専門医として臨床現場に立つと、桂枝茯苓丸の活躍場面は婦人科領域を超えて広範に存在します。糖尿病が引き起こす慢性的な微小血管・大血管合併症は、漢方医学的には典型的な瘀血病態と捉えられるからです。

糖尿病性血管合併症と瘀血

糖尿病における高血糖・酸化ストレス・終末糖化産物(AGEs)の蓄積は、血管内皮機能を慢性的に障害し、血液粘度を上昇させ、毛細血管基底膜を肥厚させます。これらは漢方医学的に「久病入絡」「血瘀」と定式化されてきた病態そのものです。

  • 糖尿病性末梢神経障害:しびれ・冷感・刺痛は瘀血の固定痛に一致。プレガバリン・デュロキセチンと併用し補助的に微小循環を改善
  • 糖尿病性網膜症・腎症(早期〜中期):眼科・腎機能評価を主軸に、瘀血徴候明瞭例で慎重に併用
  • 末梢動脈疾患(PAD)・間欠性跛行:シロスタゾールや運動療法と併用。下肢冷感・チアノーゼを伴う症例で奏効報告あり

GLP-1受容体作動薬との併用

セマグルチド(オゼンピック・リベルサス・ウゴービ)、チルゼパチド(マンジャロ・ゼップバウンド)、デュラグルチド(トルリシティ)などのGLP-1関連薬剤は、減量・血糖改善のみならず、心血管イベント抑制・腎保護効果が示されています。これらの薬剤と桂枝茯苓丸の併用は、禁忌や薬物動態学的相互作用は報告されていません

とくに肥満を伴う2型糖尿病女性で、月経不順・PMS・更年期症状・PCOSを併発する症例では、GLP-1で代謝を改善しながら桂枝茯苓丸で瘀血と婦人科症状を整える併用が、QOLを総合的に底上げする戦略として有効です。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と桂枝茯苓丸

PCOSはインスリン抵抗性・高アンドロゲン血症・排卵障害を三主徴とする内分泌疾患で、糖尿病外来でも頻繁に遭遇します。漢方医学的には「痰湿+瘀血」の複合病態と捉えられ、桂枝茯苓丸はPCOS関連の月経不順・卵巣腫大・にきび・多毛に対する補助療法として臨床応用されています。近年のメタアナリシスでは、メトホルミン・クロミフェン併用で月経周期回復率・排卵率・妊娠率の改善が報告されています。

類似処方との使い分け

瘀血・婦人科領域の漢方処方は数多く、それぞれ証と病態が異なります。臨床で頻用する4処方との比較表で、選択の道筋を整理します。

処方名 体力(証) 病態の中心 典型像 主たる適応
桂枝茯苓丸(25番) 中間証〜実証 瘀血(中等度) のぼせ+冷え、下腹部圧痛、月経痛、打撲のあざ 月経困難症・子宮筋腫・更年期・打撲・微小循環障害
当帰芍薬散(23番) 虚証 血虚+水滞 色白・冷え・むくみ・貧血傾向、疲れやすい 虚証の月経不順・妊娠中の浮腫・冷え症
桃核承気湯(61番) 実証 瘀血+熱結+便秘 頑強・赤ら顔・便秘強い・のぼせ激しい 実証の月経困難・便秘・精神不穏(強瀉下)
通導散(105番) 実証 瘀血+気滞+便秘 外傷後の腫脹・打撲・便秘・精神症状 打撲・骨盤内うっ血・便秘を伴う婦人科症状
加味逍遙散(24番) 中間証〜虚証 肝鬱気滞+血虚+虚熱 イライラ・抑うつ・PMS・不眠・精神症状主体 更年期障害・PMS・自律神経失調・心身症

選択フローの考え方

  1. 体力(虚実):虚証なら当帰芍薬散・加味逍遙散、実証なら桃核承気湯・通導散、中間なら桂枝茯苓丸が起点
  2. 瘀血の徴候:下腹部圧痛・舌下静脈怒張・暗色凝血塊・皮膚くすみの有無
  3. 身体症状か精神症状か:身体(疼痛・腫瘤・あざ)→桂枝茯苓丸、精神(イライラ・抑うつ)→加味逍遙散
  4. 便秘の強さ・外傷の有無:強い便秘+実証→桃核承気湯、打撲→通導散または桂枝茯苓丸

実臨床では、加味逍遙散と桂枝茯苓丸を併用する「合方」も頻用されます。古来「逍遙合茯苓」と呼ばれる、現代女性医療の鉄板パターンです。

FAQ — よくある質問

Q1. 男性でも服用できますか?

はい、できます。桂枝茯苓丸は古来「婦人薬」のイメージが強い処方ですが、瘀血は男女問わず生じる病態です。男性では、慢性前立腺炎・前立腺肥大に伴う排尿障害・痔疾・打撲後遺症・慢性肩こり・PAD・糖尿病性末梢循環障害などへの応用例が豊富です。とくに中年以降の男性で、顔色がくすみ、肩こり頭重、下腹部圧痛があれば積極的に検討します。

Q2. 抗凝固薬(ワルファリン・DOAC)を飲んでいても併用できますか?

原則として併用可能ですが、慎重なモニタリングが必要です。桂枝茯苓丸の血小板凝集抑制作用は穏やかで、抗凝固薬の効果を急激に増強する報告はありません。しかし出血リスクは相加的に増える可能性があるため、ワルファリンならPT-INRを通常より頻回に測定、DOACなら定期的に貧血・潜血チェックを行います。中止する必要はないことがほとんどですが、必ず処方医に申告してください。

Q3. 長期に飲み続けても大丈夫ですか?

瘀血体質は短期間で根本改善するものではないため、3か月〜数年単位の継続服用が一般的です。長期服用そのものに問題はありませんが、以下の点に注意してください。

  • 3〜6か月ごとに肝機能・腎機能・血算を評価
  • 症状改善後は減量・休薬を検討(瘀血徴候が消失すれば中止可)
  • 季節(夏は減量・冬は増量)や月経周期で柔軟に調整
  • 新たな出血傾向・消化器症状・皮膚症状が出現したら即受診

Q4. PMS(月経前症候群)には加味逍遙散と桂枝茯苓丸、どちらが良いですか?

主訴の中心で選択します。イライラ・抑うつ・乳房張痛・不眠など精神身体症状が中心なら加味逍遙散月経痛・腰痛・暗色凝血塊・下腹部圧痛など瘀血症状が中心なら桂枝茯苓丸です。両方の症状が重なる場合は併用(合方)も有効です。判別の目安は、月経開始前1週間がつらいか(PMS)/月経開始後数日がつらいか(瘀血型月経困難症)。前者は加味逍遙散、後者は桂枝茯苓丸が第一選択になることが多いです。

Q5. ホルモン補充療法(HRT)と併用できますか?

併用可能です。HRT(エストラジオール製剤+プロゲステロン製剤)と桂枝茯苓丸の間に薬物動態学的相互作用は報告されていません。HRTで補えない瘀血由来のしびれ・くすみ・冷え・肩こり・月経残遺症状を桂枝茯苓丸で整える併用は、更年期医療の質を高める実践的選択肢です。とくにHRT開始初期の不正性器出血が遷延する症例で、桂枝茯苓丸併用が出血パターンの安定化に寄与する経験的報告もあります。乳がん家族歴などでHRTに慎重姿勢の患者では、桂枝茯苓丸単独(あるいは加味逍遙散併用)で更年期症状管理を行うことも一般的です。

処方を検討する方へ

桂枝茯苓丸は瘀血を中核に持つ女性疾患・血管疾患の代表方剤ですが、その真価は「証」が合った人にのみ十全に発揮されます。下腹部圧痛・舌下静脈怒張・打撲のあざ・月経時の凝血塊などの徴候を、漢方診療に習熟した医師が丁寧に評価することで、最大効果と最小副作用が両立します。

  • 当院の漢方体質診断アプリ:5分の質問で9つの体質タイプを判定し、瘀血傾向の強さや推奨処方を提示します(漢方体質診断アプリはこちら
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  • 糖尿病・肥満治療との併用:GLP-1受容体作動薬・SGLT2阻害薬と桂枝茯苓丸の併用処方をご希望の方は、初診時にその旨お伝えください

まとめ

桂枝茯苓丸は、後漢の医聖・張仲景が『金匱要略』に記して以来、2000年にわたって瘀血の代表方剤として臨床に用いられてきました。桂皮・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬の5生薬構成でありながら、活血化瘀+利水+抗炎症+平滑筋弛緩という多標的作用を発揮し、月経困難症・子宮筋腫・更年期障害・打撲・微小循環障害という幅広い病態にアプローチします。瘀血という古典概念が血液レオロジー・血管内皮機能・微小循環と接続することで、糖尿病性血管合併症・PAD・PCOSなど代謝内分泌領域への応用も拡大中です。

ただし効果は「証」が合った人にのみ発揮されます。妊娠中・極度虚証・出血傾向のある患者では用いず、抗凝固薬併用例では慎重なモニタリングが必須です。漢方診療に経験豊富な医師との対話を通じて、ご自身の体質に最適化された処方選択を行うことを強くお勧めします。

本記事の信頼性について

監修・執筆体制

本記事は、まさぼ内科クリニック飯田橋院 院長・小林 正敬 医師(医籍登録番号 第486214号)の監修のもと、公開時点で確認可能な学会ガイドラインおよび査読論文に基づいて作成されています。監修医師は 日本糖尿病学会 糖尿病専門医日本内科学会 総合内科専門医日本老年医学会 老年科専門医・指導医 の資格を有し、糖尿病・代謝疾患・老年医学を専門とする臨床医として実務に従事しています。

利益相反(COI)の開示

本記事は、特定の医薬品・医療機関・企業からの広告料、紹介料、監修料の影響を受けず、独立した医学的判断のもと作成されています。治療法の選択は、必ず主治医の対面診察に基づき判断してください。本記事は一般的な医療情報の提供を目的とし、個別の診断・治療を代替するものではありません。

情報の鮮度と更新ポリシー

本記事は学会ガイドライン(日本糖尿病学会・日本東洋医学会等)、査読論文、厚生労働省公表データに基づき作成され、医学的内容の変化に応じて定期的な見直しを行います。公開日・最終更新日は本セクション直下の監修者バナーをご参照ください。
信頼性開示の最終確認日:2026-05-14

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監修:小林 正敬 医師
日本糖尿病学会 糖尿病専門医 / 日本内科学会 総合内科専門医 / 日本老年医学会 老年科専門医・指導医
医籍登録番号:第486214号
公開日:2026-05-10 / 最終更新日:2026-05-10

参考文献

  • 日本東洋医学会『漢方診療ガイドライン2023』
  • 日本産科婦人科学会『産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2023』
  • 日本女性医学学会『女性医学ガイドブック更年期医療編2024』
  • Sakamoto S, et al. “Pharmacotherapeutic effects of kuei-chih-fu-ling-wan (Keishi-bukuryo-gan) on human uterine myomas.” Am J Chin Med. 1992;20(3-4):313-7. PMID: 1471615
  • Terasawa K, et al. “The presence of CSA (Capillary blood Stasis Agent) in oketsu syndrome.” J Med Pharm Soc WAKAN-YAKU. 1986;3:98-104
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「漢方医学」
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この記事を書いた人

まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 代表理事 / 院長。日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本糖尿病協会 糖尿病認定医/日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医/日本内科学会 認定医制度審議会 病歴要約評価委員/日本老年医学会 老年科専門医・指導医/日本抗加齢医学会 抗加齢専門医/日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医/ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター。医籍登録番号 第486214号。国立国際医療研究センター国府台病院で内科研修を始めた後、糖尿病内科の道に進み、現在は最新の薬物療法(GLP-1作動薬・チルゼパチド等)と、栄養・運動・漢方を組み合わせた包括的な糖尿病・代謝診療を実践しています。

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