毎月の月経のたびに寝込むほどの痛みに悩まされる――。月経のある女性のおよそ4人に1人が、日常生活に支障をきたすレベルの月経困難症を抱えているとされます。NSAIDs(ロキソプロフェンなど)でなんとかしのいでいるものの、効きが悪くなってきた、胃が荒れる、月経のたびに何錠も飲むことに不安がある――そうした声を外来でもよく耳にします。
低用量ピル(LEP製剤)は第一選択薬の一つですが、血栓症リスクや副作用、ホルモン剤への心理的抵抗から踏み切れない女性も少なくありません。子宮内膜症や子宮腺筋症が背景にある続発性月経困難症では、治療の長期化が避けられず、その間の症状コントロールに苦慮する場面も多いものです。
こうしたNSAIDs抵抗性・ピル忌避例・子宮内膜症合併例において、漢方薬は古くから女性の月経トラブルに用いられてきた歴史があり、近年は質の高い臨床研究によるエビデンスも蓄積されつつあります。本稿では、糖尿病・内分泌代謝を専門とする内科医の視点から、原発性と続発性の鑑別、体質タイプ別の処方選択、NSAIDsやピルとの併用戦略、副作用と注意点、PMSへのアプローチ、産婦人科との連携体制まで整理します。
月経困難症の分類――原発性と続発性、子宮内膜症・腺筋症との関連
月経困難症(dysmenorrhea)とは、月経に随伴して起こる病的症状のうち、日常生活に支障をきたすほど強いものを指します。痛みの主座は下腹部や腰部ですが、頭痛・吐き気・下痢・冷や汗・倦怠感などの全身症状を伴うことも多く、QOLを著しく損なう疾患です。
原発性月経困難症――器質的疾患を伴わない
原発性月経困難症は、子宮や卵巣に明らかな器質的異常を認めない月経痛で、思春期から20代前半に多くみられます。病態の中心は、子宮内膜から放出されるプロスタグランジン(PGF2α、PGE2)による子宮筋層の過剰収縮と虚血で、これがNSAIDsが第一選択となる薬理学的根拠です。
典型的な経過は、初経から2〜3年経って排卵性月経が確立した頃から痛みが顕在化し、月経開始数時間前から1〜2日目にピークを迎え、3日目以降は軽減します。骨盤内の所見は正常で、超音波検査でも異常を認めません。
続発性月経困難症――器質的疾患が背景にある
続発性月経困難症は、子宮内膜症・子宮腺筋症・子宮筋腫・骨盤内炎症性疾患(PID)などの器質的疾患を背景にもつ月経痛で、20代後半以降に発症することが多く、年齢とともに増悪する傾向があります。
とくに重要なのが子宮内膜症と子宮腺筋症です。子宮内膜症は内膜組織が卵巣・腹膜・ダグラス窩などに迷入する疾患で、月経のたびに病巣でも出血が起こり、慢性炎症と癒着を引き起こし、月経痛・性交痛・排便痛・不妊を伴います。子宮腺筋症は内膜組織が子宮筋層内に存在する病態で、過多月経と強い月経痛を呈します。続発性月経困難症が疑われる場合は、漢方治療を始める前に必ず婦人科での精査(経腟超音波、必要に応じてMRI、CA125測定)を経ることが原則です。
東洋医学的な月経困難症の捉え方
東洋医学では月経痛を「気・血・水」の流れの失調として捉えます。とくに「瘀血(おけつ)」――血の流れが滞った状態――は月経痛の中心的病態で、「不通則痛」という古典的概念で説明されます。これに「血虚(血の不足)」「気滞(気の流れの停滞)」「寒凝(冷えによる凝滞)」が加わって個々の病態が形成されます。これらは単独で存在することもあれば複合型を呈することも多く、適切な処方選択にはこの「証」の見極めが鍵となります。
体質タイプ別の漢方処方――瘀血・血虚+寒証・気滞・寒凝
ここからは、月経困難症で頻用される漢方処方を、体質タイプ別に整理していきます。実際の臨床では複数の証が混在することが多く、また月経周期のどのフェーズで使うかによっても処方を使い分けます。
瘀血型――桂枝茯苓丸・桃核承気湯・通導散
瘀血型は、月経困難症の漢方治療における主要なターゲットです。特徴的所見として、月経血にレバー状の塊(凝血塊)が混じる、月経色が暗紫色である、刺すような固定痛、舌の色が暗紫色で舌下静脈が怒張している、皮膚のくすみや色素沈着、下腹部の圧痛(小腹急結・小腹硬満)などが挙げられます。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は、瘀血型月経困難症の第一選択薬といえる処方です。桂皮・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬の5生薬から構成され、瘀血を駆逐する作用(駆瘀血作用)を中心に、抗炎症・血流改善作用をもちます。子宮筋腫・子宮内膜症・卵巣嚢腫といった器質的疾患を背景にもつ月経困難症に広く用いられ、後述するように国内のRCTで子宮筋腫の縮小効果や月経症状の改善が示されています。比較的体力のある実証~中間証の方に向き、長期連用にも適します。
桃核承気湯(とうかくじょうきとう)は、桂枝茯苓丸より瀉下作用が強く、より実証で便秘傾向の強い方に用います。桃仁・桂皮・大黄・甘草・芒硝から構成され、強い駆瘀血作用と瀉下作用を併せもちます。月経前のイライラ・のぼせ・頭痛が強く、便秘がちな方に著効することがあります。ただし大黄を含むため、軟便傾向や妊娠中、授乳中には使用を避けます。
通導散(つうどうさん)は、より重度の瘀血、とくに打撲後の瘀血や慢性骨盤痛にも応用される処方です。当帰・大黄・芒硝・枳実・厚朴・陳皮・木通・紅花・蘇木・甘草から成り、桃核承気湯よりさらに駆瘀血作用が強力です。難治性の続発性月経困難症や、子宮内膜症術後の慢性骨盤痛に試みる価値があります。
血虚+寒証型――当帰芍薬散・温経湯・当帰四逆加呉茱萸生姜湯
血虚+寒証型は、若年の痩せ型・冷え性・貧血傾向の女性に多くみられるタイプです。月経痛は刺すような痛みではなく、シクシクと持続する鈍痛、温めると軽快する性質をもちます。月経色は薄く、量は少なめで、めまい・立ちくらみ・顔色不良・足腰の冷えを伴います。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、女性の月経トラブルに最も広く使われる処方の一つで、血虚と水滞(むくみ)を併せ持つ虚証タイプに最適です。当帰・芍薬・川芎・茯苓・蒼朮・沢瀉から構成され、補血・活血・利水作用をバランスよくもちます。原発性月経困難症の若年女性に対するRCTで有効性が示されており、妊娠初期のつわりや切迫流産にも用いられる比較的安全性の高い処方です。長期連用に向き、月経時だけでなく月経周期を通じての服用が推奨されます。
温経湯(うんけいとう)は、より明確な「冷え+瘀血+血虚」の複合型に適します。麦門冬・半夏・当帰・甘草・桂皮・芍薬・川芎・人参・牡丹皮・呉茱萸・生姜・阿膠から成る12生薬の処方で、子宮を温めながら瘀血を除き、血を補う作用をもちます。手のひらのほてり・口唇の乾燥・下半身の冷えが共存するような、いわゆる「上熱下寒」のパターンに著効することがあります。不妊治療領域でも黄体機能不全への応用が試みられている処方です。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)は、強い冷えに伴う激しい月経痛に用います。当帰・桂皮・芍薬・木通・細辛・甘草・大棗・呉茱萸・生姜から成り、四肢末端の冷えが強く、しもやけができやすく、温めると痛みが緩和するタイプの月経困難症に向きます。冬季に症状が増悪する患者さんで効果を実感しやすい処方です。
気滞型――加味逍遙散・四逆散
気滞型は、ストレスや精神的緊張で月経痛が増悪するタイプで、月経前の情緒不安定・イライラ・抑うつ・胸脇苦満(胸や脇腹の張り)・乳房の張痛などを伴います。痛みは脹痛(張った痛み)の性質をもち、月経の進行とともに変動することが特徴です。
加味逍遙散(かみしょうようさん)は、気滞+血虚+軽度の熱(虚熱)を併せ持つPMS・月経困難症に最も広く使われる処方です。当帰・芍薬・白朮・茯苓・柴胡・牡丹皮・山梔子・甘草・生姜・薄荷から構成され、疏肝解鬱(肝の気の流れを整える)・補血・清熱の作用をもちます。月経前のイライラ・のぼせ・不眠・頭痛を主訴とする働く女性に著効することが多く、PMSに対するRCTでも症状改善が示されています。
四逆散(しぎゃくさん)は、より明確な気滞主体のタイプに用います。柴胡・芍薬・枳実・甘草の4生薬から成るシンプルな処方で、肝気の鬱滞による胸脇苦満・腹直筋の緊張・四肢末端の冷えを目標とします。加味逍遙散よりも実証寄りで、ストレスによる胃腸症状(過敏性腸症候群様症状)を併発する月経困難症によい適応があります。
寒凝型――当帰芍薬散・温経湯
寒凝型は、外的な冷え(冬季・冷房・冷飲食)で誘発される月経痛のタイプで、温めると速やかに軽快することが診断的特徴です。下腹部や下肢の冷えが顕著で、湯たんぽや入浴で症状が和らぎます。処方としては前述の当帰芍薬散・温経湯が中心となりますが、より強い冷えには当帰四逆加呉茱萸生姜湯を、冷えに加えて瘀血が強ければ桂枝茯苓丸との併用や合方を検討します。
科学的エビデンス――RCTと国内研究
漢方薬は伝統医学であると同時に、近年は質の高い臨床研究のエビデンスも蓄積されつつあります。
桂枝茯苓丸は子宮筋腫を有する女性で月経過多・月経痛の改善と筋腫体積の縮小傾向が報告されています。子宮内膜症ではジエノゲストや低用量ピルとの併用で月経痛VASスコアを有意に低下させたとの報告があり、基礎研究では病巣のVEGF発現抑制・血管新生阻害作用が示唆されています。
当帰芍薬散は原発性月経困難症の若年女性を対象とした二重盲検RCTで、プラセボに比してVASスコア・全身症状スコアを有意に改善することが報告されており、とくに冷え性・むくみを伴う「水血兼虚」の証に適合する症例で効果が顕著でした。
加味逍遙散はPMSの精神症状(イライラ・抑うつ・不安)に対するRCTで対照群に比して有意な改善を示し、SSRIを使うほどではないが日常生活に支障をきたすPMSの第一選択候補として産婦人科ガイドラインにも取り上げられています。
Cochrane Reviewなどでは研究の質の異質性・サンプルサイズの課題も指摘されますが、個々の処方については一定のエビデンスが確立しつつあると評価できます。
NSAIDs・低用量ピルとの併用戦略
漢方薬は西洋薬と対立するものではなく、適切に併用することでより質の高い症状コントロールが可能になります。
NSAIDsとの併用
NSAIDsは原発性月経困難症の第一選択薬であり、漢方薬との併用に薬理学的問題はありません。漢方薬を月経周期を通じて服用してベースの病態(瘀血・血虚・冷え)を改善し、結果としてNSAIDs使用量を減らすアプローチが現実的です。具体的には、月経開始3日前頃から月経3日目までNSAIDsを頓用、それ以外の期間は漢方薬を継続服用するパターン。NSAIDs使用量が月経1サイクル10錠超や胃腸障害・腎機能低下が懸念される例で、漢方併用の意義が大きくなります。
低用量ピル・ジエノゲストとの併用
低用量ピルは強力な治療選択肢ですが、頭痛・乳房痛・不正出血・気分変動などの副作用が問題となります。ピル副作用緩和目的の漢方併用は実用的で、頭痛には桂枝茯苓丸や当帰芍薬散、気分変動には加味逍遙散がよく用いられます。ピル禁忌例(35歳以上喫煙者・片頭痛持ちなど)における代替療法としての漢方単独療法も重要な選択肢です。
子宮内膜症治療薬のジエノゲスト(ディナゲスト®)は不正出血が高頻度に出現しアドヒアランス低下の要因となりますが、桂枝茯苓丸や芎帰膠艾湯の併用が不正出血の頻度・量を減少させたとする報告があり、実臨床で有用な併用パターンとなっています。
副作用と注意点――妊娠中の使用・抗凝固薬併用
漢方薬は天然由来であっても薬剤であり、副作用や薬物相互作用が存在します。
妊娠中・授乳中の使用
妊娠希望周期や妊娠初期の女性には、駆瘀血作用の強い桃核承気湯・通導散は流産・子宮収縮誘発のリスクから原則使用を避けます。桂枝茯苓丸も妊娠が判明した時点で中止するのが一般的です。一方、当帰芍薬散は妊娠中の貧血・浮腫・切迫流産に長年使われてきた処方で、安全性データが比較的豊富です。自己判断ではなく、必ず妊娠中であることを医師に伝えてください。
抗凝固薬との併用
ワルファリン・DOAC・抗血小板薬服用中の方では、駆瘀血作用をもつ漢方薬(桂枝茯苓丸・桃核承気湯・通導散など)の併用に注意が必要です。理論的に出血傾向を増強する可能性があり、PT-INRのモニタリング強化や、当帰芍薬散など補血方向の選択を検討します。
甘草・大黄含有処方と一般的注意
四逆散・加味逍遙散など甘草を含む処方では、長期連用で偽アルドステロン症(低カリウム血症・浮腫・血圧上昇)が起こることがあり、定期的な血清カリウム測定と血圧モニタリングが必要です。桃核承気湯・通導散など大黄含有処方は軟便・下痢を起こしやすく、漫然と継続しないことが原則です。漢方薬全般で稀に肝機能障害や間質性肺炎の報告があり、3か月以上の継続服用例では半年に1回程度の血液検査(肝・腎機能・電解質)が望まれます。
PMS(月経前症候群)への漢方アプローチ
PMS(premenstrual syndrome)は、月経開始3〜10日前から始まる身体的・精神的症状群で、月経開始とともに軽快することを特徴とします。月経のある女性の70〜80%が何らかのPMS症状を経験するとされ、そのうち日常生活に明確な支障をきたす重症型がPMDD(月経前不快気分障害)として区別されます。
症状別の漢方選択
PMSの症状は身体症状(乳房張痛・頭痛・むくみ・腹部膨満・倦怠感)と精神症状(イライラ・抑うつ・不安・集中力低下)に大別されます。精神症状主体型には加味逍遙散が第一選択で、イライラ・怒りっぽさが強いタイプに効果的です。むくみ・体重増加主体型には当帰芍薬散が適し、月経前に2〜3kg体重が増え片頭痛を伴うパターンで効果が出やすい処方です。乳房張痛・胸脇苦満主体型には加味逍遙散または四逆散、頭痛主体型には桂枝茯苓丸(瘀血性)・呉茱萸湯(冷え性片頭痛)・釣藤散(高血圧傾向)などを使い分けます。
PMDDの診断基準を満たすほどの重症例では漢方単独では限界があり、SSRI(黄体期投与または持続投与)や低用量ピルとの併用、精神科との連携が必要です。漢方薬は軽症〜中等症のPMSや、SSRI併用での補助療法として位置づけるのが現実的です。
当院でできること――産婦人科との連携体制
糖尿病・内分泌代謝を専門とする内科クリニックである当院では、月経困難症やPMSの漢方相談をお受けしていますが、診療には明確な役割分担があります。
当院で対応できる範囲
原発性月経困難症と診断済みの方、婦人科で器質的疾患の精査が済み継続フォロー中の方、PMS・PMDDの症状緩和を希望される方、低用量ピルやジエノゲストの副作用緩和を希望される方――こうしたケースへの漢方処方と継続フォロー、ならびに糖尿病・脂質異常症・甲状腺疾患など内分泌代謝疾患の合併症管理を主に担当します。漢方治療開始後の血液検査(肝機能・腎機能・電解質)、甘草含有処方による血圧・カリウムのモニタリング、長期連用例の安全性評価といった内科的フォローは当院の得意領域です。
産婦人科への紹介を要するケース
以下のようなケースでは初期段階で婦人科への紹介を行います。
- 20代後半以降発症で月経痛が年々増悪(続発性の疑い)
- 性交痛・排便痛・不妊を伴う(子宮内膜症の疑い)
- 過多月経で貧血を伴う(子宮筋腫・腺筋症の疑い)
- 骨盤内腫瘤を超音波で疑う所見
- 低用量ピル・ジエノゲストの新規導入希望
- 不妊治療を並行して進めたい・子宮内膜症の手術適応評価
近隣の信頼できる産婦人科医療機関と連携し、診療情報提供書を発行のうえスムーズに専門診療につなげる体制を整えています。漢方治療と婦人科治療は対立するものではなく、それぞれの強みを活かした並行診療が患者さんの利益になると考えています。
FAQ――よくあるご質問
Q1:漢方薬は効果が出るまでどのくらいかかりますか?
月経関連症状への漢方薬は、急性期の疼痛緩和を目的とする頓用と、月経周期を通じての体質改善を目的とする継続服用で時間軸が異なります。月経痛そのものの軽減効果は1〜2サイクル目から実感する方が多いですが、基礎となる瘀血・血虚・冷えの改善には3〜6か月程度の継続が必要です。即効性ではなく、月経のたびに少しずつ楽になっていく――というイメージで取り組まれるとよいでしょう。
Q2:低用量ピルを服用していても漢方薬を併用できますか?
はい、併用可能です。むしろピルの副作用(頭痛・乳房痛・気分変動・不正出血)の緩和目的で漢方薬を併用するパターンは臨床的によく行われています。当院でもピル処方医(産婦人科)と連携しながら、漢方併用の方針を共有して診療しています。
Q3:漢方薬で子宮内膜症や子宮筋腫は治りますか?
「治る(病巣が消える)」という意味では、現時点で漢方薬単独に器質的病変を完治させるエビデンスは確立していません。ただし、症状の緩和(月経痛・過多月経の軽減)、QOLの改善、ホルモン療法の副作用緩和、術後の慢性骨盤痛コントロールといった面では明確な役割があります。器質的疾患そのものへのアプローチは婦人科治療を主軸に、漢方は補完的に位置づけるのが現実的です。
Q4:妊娠を希望していますが漢方薬を続けても大丈夫ですか?
妊娠希望の周期では、駆瘀血作用の強い桃核承気湯・通導散は中止します。桂枝茯苓丸も妊娠が判明した時点で中止するのが一般的です。一方、当帰芍薬散は妊娠中の安全性データが豊富で、むしろ切迫流産や妊娠中の貧血に用いられる処方です。妊娠を希望される方は必ず医師にその旨をお伝えください。
Q5:市販の漢方薬と病院処方の漢方薬は何が違いますか?
主成分(生薬の組成)は同じですが、市販品は1日量のエキス含量が医療用の半量〜2/3程度に設定されている製品が多く、効果がマイルドです。また、市販で長期連用すると、本来必要な処方変更(証の変化への対応)の機会を逸する可能性があります。月経困難症のように長期管理を要する病態では、医療機関で処方を受け、定期的に経過を診てもらうほうが治療として完結度が高いといえます。
処方を検討する方へ
当院での漢方相談をご検討いただく場合、以下の準備があるとスムーズです。第一に、可能であれば3か月程度の月経記録(月経開始日・期間・出血量・痛みの強さ・随伴症状)をメモまたはアプリで記録してきてください。第二に、過去の婦人科受診歴・現在のピル服用状況・既往歴・常用薬・サプリメントの情報。とくに抗凝固薬・抗血小板薬は処方選択に直接影響します。第三に、ご自身の月経症状で何にいちばん困っているか――痛み・量・PMSのイライラ・不正出血など――を整理してきていただけると、限られた診察時間で焦点を絞った対応ができます。
当院は完全予約制で、初診時には30分程度の時間枠を確保しています。婦人科受診歴のない方で続発性月経困難症が疑われる場合は、まず婦人科受診をお勧めしてからの漢方処方となることをご了承ください。
まとめ
月経困難症は原発性と続発性に大別され、それぞれ病態と治療戦略が異なります。漢方治療は瘀血・血虚・気滞・寒凝といった東洋医学的病態把握に基づいて処方を選択することで、NSAIDsやピルでは届きにくい体質ベースの改善を図ることができます。瘀血型には桂枝茯苓丸・桃核承気湯・通導散、血虚+寒証型には当帰芍薬散・温経湯・当帰四逆加呉茱萸生姜湯、気滞型には加味逍遙散・四逆散、寒凝型には当帰芍薬散・温経湯――こうした体質タイプ別の処方選択が治療の骨格となります。
科学的エビデンスとしても桂枝茯苓丸の子宮筋腫・子宮内膜症への有用性、当帰芍薬散の原発性月経困難症への効果、加味逍遙散のPMSへの有効性が複数のRCTで示されており、NSAIDsやピル・ジエノゲストとの併用戦略で症状コントロールを最適化することも可能です。続発性月経困難症が疑われる場合は漢方開始前に婦人科精査を経ることが原則で、当院では産婦人科と連携した並行診療体制を整えています。
毎月の月経痛で人生のクオリティが削られている――そんな状態を「仕方ないこと」と諦めずに、一度漢方治療という選択肢を検討してみていただければと思います。NSAIDsとピル以外にも、選べる道はあります。
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監修:小林正敬(こばやし まさのり)/医学博士・糖尿病専門医・内分泌代謝科専門医・日本東洋医学会会員。糖尿病・内分泌代謝を専門としつつ、内科領域における漢方診療を実践。月経困難症・PMSの漢方相談も対応し、産婦人科との連携診療を行っている。
参考文献
- 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン――婦人科外来編」
- 日本東洋医学会編「漢方治療エビデンスレポート(EKAT)」
- Kotani N, et al. Tokishakuyakusan for primary dysmenorrhea RCT. J Obstet Gynaecol Res.
- Yamada K, et al. Kamishoyosan for premenstrual syndrome. Evid Based Complement Alternat Med.
- Cochrane Review: Chinese herbal medicine for primary dysmenorrhoea.
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル――偽アルドステロン症」
本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療を保証するものではありません。症状や治療方針については、必ず医師の診察を受けてご相談ください。
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本記事は、まさぼ内科クリニック飯田橋院 院長・小林 正敬 医師(医籍登録番号 第486214号)の監修のもと、公開時点で確認可能な学会ガイドラインおよび査読論文に基づいて作成されています。監修医師は 日本糖尿病学会 糖尿病専門医、日本内科学会 総合内科専門医、日本老年医学会 老年科専門医・指導医 の資格を有し、糖尿病・代謝疾患・老年医学を専門とする臨床医として実務に従事しています。
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信頼性開示の最終確認日:2026-05-14
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監修医師:小林 正敬 医師(日本糖尿病学会 糖尿病専門医 / 日本内科学会 総合内科専門医 / 日本老年医学会 老年科専門医・指導医)
医籍登録番号:第486214号
所属:まさぼ内科クリニック飯田橋院 院長 / 一般社団法人代表理事
公開日:2026-05-10 / 最終更新日:2026-05-10

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