eGFR は腎臓の働きを示す最も重要な指標であり、その値によって CKD(慢性腎臓病)は G1 から G5 までの 6 段階に分類されます。各ステージで求められる食事管理は大きく異なり、特に 塩分・蛋白質・カリウム・リン の 4 つを段階的に調整することが、透析導入を遅らせる最大の鍵となります。本記事では腎臓内科専門医の視点から、ステージ別の食事戦略を実臨床ベースで解説します。
eGFR とは何か — 計算式と日本人補正
eGFR(estimated Glomerular Filtration Rate、推算糸球体濾過量)は、血清クレアチニン値・年齢・性別から算出される腎機能の指標で、単位は mL/分/1.73㎡ です。日本人の eGFR は欧米人と筋肉量・体格が異なるため、日本腎臓学会が 日本人係数(0.741) を組み込んだ補正式を採用しています。
具体的には、男性では eGFR = 194 × Cr⁻¹·⁰⁹⁴ × 年齢⁻⁰·²⁸⁷、女性ではさらに 0.739 を乗じて算出します。簡易計算は当院の CKD・腎機能管理ツール で確認できます。なお筋肉量が極端に少ない高齢者やボディビルダーでは血清クレアチニンが実態を反映しにくいため、シスタチン C ベースの eGFRcys を併用することが望まれます。
CKDステージ G1〜G5 完全解説
CKD のステージは eGFR 値と尿蛋白(アルブミン尿) の 2 軸で分類されます。日本腎臓学会 CKD 診療ガイドライン 2023 では、G1〜G5 の eGFR 区分に加え、A1(正常)・A2(微量アルブミン尿)・A3(顕性蛋白尿)の組み合わせで重症度を「緑・黄・オレンジ・赤」のヒートマップに当てはめます。
G1(eGFR ≥ 90):正常または高値
腎機能は保たれていますが、尿蛋白や画像検査で腎障害が確認されている状態です。食事の自由度は高く、塩分 6g/日未満を意識すれば十分です。蛋白質は通常量(1.0〜1.2g/kg/日)を摂取し、肥満があれば BMI 22 を目標に総エネルギーを調整します。糖尿病性腎症の場合は HbA1c 7.0% 未満を目指します。
G2(eGFR 60〜89):軽度低下
軽度の機能低下が見られる段階です。塩分 6g/日を継続し、蛋白質は標準量(1.0g/kg/日前後)を維持します。この段階で 過剰な蛋白制限を行うとサルコペニアを誘発する ため、自己判断での極端な制限は避けます。高血圧合併例では塩分 5g/日へさらに踏み込むこともあります。
G3a(eGFR 45〜59):軽度〜中等度低下
本格的な腎保護療法を始めるステージです。塩分 6g/日を厳守し、蛋白質は 0.8〜1.0g/kg/日 へ緩やかに低減します。エネルギーは 25〜35kcal/kg/日を確保し、蛋白制限による低栄養を防ぎます。カリウムは血清値が 5.0mEq/L 未満であれば過度な制限は不要です。
G3b(eGFR 30〜44):中等度〜高度低下
透析回避戦略の正念場です。塩分 6g、蛋白質 0.6〜0.8g/kg/日、カリウム 2,000mg/日 以下を目安にします。血清カリウム 5.5mEq/L 以上では生野菜・果物・芋類の制限と、必要に応じてカリウム吸着薬(ポリスチレンスルホン酸 Ca、パチロマー等)を併用します。リンは血清値が上昇し始めた段階で意識します。
G4(eGFR 15〜29):高度低下
透析準備期の入り口です。塩分 6g、蛋白質 0.6g/kg/日、カリウム 1,500mg/日、加えて リン 700〜800mg/日 以下を厳守します。低蛋白でエネルギー不足になりやすいため、でんぷん・MCT オイル・治療用特殊食品(低蛋白米、エネルギー調整食品)を積極活用します。シャント造設のタイミング検討もこの段階で始まります。
G5(eGFR < 15):末期腎不全
透析導入間近のステージです。蛋白 0.6g/kg/日(場合により 0.5g)、カリウム 1,500mg/日厳守、塩分 6g、水分は尿量+500mL を目安にします。心不全・高カリウム血症・代謝性アシドーシスのコントロールが優先され、栄養士とのこまめな食事調整が必須です。
| ステージ | eGFR | 塩分 | 蛋白質 | カリウム | リン |
|---|---|---|---|---|---|
| G1 | ≥90 | 6g | 1.0-1.2g/kg | 制限なし | 制限なし |
| G2 | 60-89 | 6g | 1.0g/kg | 制限なし | 制限なし |
| G3a | 45-59 | 6g | 0.8-1.0g/kg | 必要時 | 必要時 |
| G3b | 30-44 | 6g | 0.6-0.8g/kg | 2,000mg | 必要時 |
| G4 | 15-29 | 6g | 0.6g/kg | 1,500mg | 700-800mg |
| G5 | <15 | 6g | 0.6g/kg | 1,500mg | 700mg |
塩分制限のリアル — 6g/日をどう実現するか
厚生労働省「日本人の食事摂取基準 2020 年版」では成人男性 7.5g、女性 6.5g 未満が目標値ですが、CKD 患者では 6g/日未満 がガイドライン推奨です。実臨床では、味噌汁を 1 日 1 杯(塩分約 1.2g)に抑え、漬物・佃煮・梅干しは「食べる日」を週 2 日に絞るだけで 2g 程度の減塩が可能です。
外食では 麺類のスープを残す(1.5〜2g 削減)、丼物より定食、ドレッシングは別添えにする、を徹底します。コンビニ食では栄養成分表示の「食塩相当量」を必ず確認し、1 食 2g 以内を選びます。減塩醤油・減塩味噌は通常品の半量塩分で、味の差を香辛料・出汁・酸味(酢、レモン、柚子)で補うのが王道です。DASH 食(PubMed 多数の RCT で降圧効果が実証)の考え方も参考になります。
カリウム制限のリアル — 野菜・果物の選び方と茹でこぼし
カリウムは野菜・果物・芋類・豆類に豊富で、加熱しても減りにくい特徴があります。茹でこぼし(たっぷりの湯で 5 分茹で、湯を捨てる)でカリウムは 20〜40% 減少 します。水さらし(細く切って 2 時間水に浸す)も有効です。
果物では バナナ・メロン・キウイ・アボカド が高カリウムで G3b 以降は要注意。逆にりんご・ブドウ・パイナップル(缶詰)は比較的低カリウムです。生野菜サラダは見落とされがちな高カリウム源で、トマト 1 個で約 200mg を含みます。芋類はじゃがいも・里芋ともに茹でこぼしが必須です。
蛋白質制限のリアル — 筋肉量を落とさず腎臓を守る
蛋白制限の鍵は 「量を減らしつつ質を上げる」 こと。アミノ酸スコア 100 の動物性蛋白(肉・魚・卵・乳)を中心に据え、植物性蛋白の比率を下げます。体重 60kg・G4 患者なら 1 日 36g(0.6g/kg)が上限で、これは 卵 1 個+鮭半切れ+鶏むね 60g 程度です。
同時に エネルギーを 30〜35kcal/kg/日確保 しないと、体蛋白が分解され BUN が上昇し、結果的に腎負担が増えます。低蛋白米(通常米の 1/25 蛋白)、でんぷん麺、MCT オイルなどの治療用特殊食品を活用し、糖質と脂質でカロリーを補います。これらは医療機関経由または専門通販で入手可能です。
リン制限のリアル — 加工食品・乳製品の見極め
リンには 有機リン(肉・魚・乳製品)と無機リン(食品添加物) があり、無機リンは吸収率 90% 以上と極めて高いのが特徴です。ハム・ソーセージ・練り物・インスタント麺・プロセスチーズ・コーラに含まれる「リン酸塩」「ポリリン酸」が要注意成分です。
乳製品はリン/蛋白比が高く、牛乳 200mL でリン 180mg・蛋白 6.6g。G4 以降は 1 日 100mL 程度に留めます。透析患者向けにはリン吸着薬(炭酸 Ca、セベラマー、炭酸ランタン、クエン酸第二鉄)が処方されますが、食事と同時服用 が必須です。
ステージ別 一日の献立例
G3a(蛋白 0.9g/kg、60kg 男性想定:54g)
- 朝:ご飯 150g、卵 1 個、味噌汁(具のみ)、ほうれん草おひたし(茹でこぼし)、りんご 1/4
- 昼:低塩蕎麦(つゆ半量)、鶏ささみ 60g、きゅうりの酢の物
- 夕:ご飯 200g、鮭塩焼き 1 切れ(80g)、煮物(じゃがいも茹でこぼし、人参、こんにゃく)、白菜サラダ
G4(蛋白 0.6g/kg:36g)
- 朝:低蛋白パン 1 個、ジャム、卵 1/2 個、コーヒー(牛乳なし)、りんご 1/4
- 昼:低蛋白米 200g、鶏むね 50g(茹で)、なすの揚げ浸し、わかめスープ(具少量)
- 夕:低蛋白米 200g、白身魚 60g、大根の煮物、もやしのナムル、ぶどう 8 粒
サルコペニアと腎機能 — 蛋白制限と筋肉維持のジレンマ
高齢 CKD 患者では サルコペニア(筋肉減少症)が透析導入後の死亡リスクを 2 倍以上に上げる ことが報告されています(J-CKD-DB ほか)。蛋白制限を機械的に押し付けると筋萎縮を加速させ、ADL 低下・転倒・入院・要介護化の悪循環に陥ります。
当院では 75 歳以上の G3 患者には蛋白 0.8g/kg を下限とし、レジスタンス運動(週 2 回・スクワット・椅子立ち上がり) と ロイシン強化アミノ酸 を併用します。栄養士・理学療法士・腎臓内科医のチーム介入が、長期予後を最も大きく左右します。自治医科大学附属病院・芳賀赤十字病院での保存期管理経験からも、「制限一辺倒」ではなく「個別最適化」が透析回避の本質と痛感しています。
透析を遅らせる 5 つの生活習慣
- ① 血圧 130/80mmHg 未満を維持:家庭血圧の朝晩記録、減塩、ARB/ACE 阻害薬の服薬遵守
- ② HbA1c 7.0% 未満(糖尿病合併例):SGLT2 阻害薬は CKD 進行抑制エビデンスが豊富
- ③ 禁煙:喫煙は eGFR 低下速度を年 1〜2mL/分加速
- ④ NSAIDs を避ける:市販のロキソニン・イブプロフェンの常用は禁忌、痛みはアセトアミノフェンへ
- ⑤ 適正体重と運動:BMI 22〜25、週 150 分の中等度有酸素運動
よくある質問
Q1. eGFR が下がっています。すぐ透析ですか?
eGFR が 60 を下回っても、適切な食事・血圧・血糖管理により 10〜20 年以上透析を回避できる方は多数います。G4(15〜29)に入った段階でシャント造設準備を相談しますが、即透析ではありません。
Q2. プロテインを飲んでも大丈夫?
G3a までは運動と組み合わせて少量(10〜15g/日)なら許容されますが、G3b 以降は原則控えます。総蛋白量で計算してください。
Q3. カリウムサプリは?
CKD 患者では カリウム入りサプリ・健康食品(青汁、野菜ジュース、低ナトリウム塩)は厳禁 です。低ナトリウム塩は塩化カリウムが主成分で、急性高カリウム血症の原因になります。
Q4. 水分はどれくらい飲めば?
G3 までは 1.5〜2L/日が目安。G4〜G5 で浮腫・心不全がある場合は 尿量+500mL に制限します。利尿薬服用中は主治医と相談してください。
まとめ
CKD ステージ別の食事管理は、G1〜G2 では塩分 6g、G3a で蛋白 0.8〜1.0g/kg、G3b でカリウム制限追加、G4 でリン制限追加、G5 で全項目厳守 という階段状の戦略が基本です。同時にサルコペニア予防・血圧/血糖コントロール・薬剤管理を並行することで、多くの患者さんが透析導入を 10 年単位で先送りできます。eGFR 値や塩分・カリウム・蛋白の数値管理には CKD・腎機能管理ツール をご活用ください。自己判断での極端な制限は逆効果のため、必ず腎臓内科医・管理栄養士と二人三脚で進めましょう。
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監修医師:常松 大帆 医師(日本内科学会 総合内科専門医、医籍登録番号 第537442号)
公開日:2026-05-10 / 最終更新日:2026-05-10
参考文献
- 日本腎臓学会 CKD診療ガイドライン2023
- 日本透析医学会 透析療法に関するガイドライン
- 日本糖尿病学会 糖尿病性腎症の食事療法
- Levey AS et al. KDIGO 2012 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of CKD
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「慢性腎臓病」
- 日本食品標準成分表2020年版(八訂)
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監修医師:小林 正敬 医師(日本糖尿病学会 糖尿病専門医 / 日本内科学会 総合内科専門医 / 日本老年医学会 老年科専門医・指導医)
医籍登録番号:第486214号
所属:まさぼ内科クリニック飯田橋院 院長 / 一般社団法人代表理事
公開日:2026-05-10 / 最終更新日:2026-05-10

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