減塩食完全ガイド|高血圧・腎臓病・心不全のための実践食事戦略を糖尿病専門医が解説

low sodium diet guide
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日本人の食塩摂取量は1日平均約10gと、WHO(世界保健機関)が推奨する5g未満、日本高血圧学会(JSH)が推奨する6g未満という目標を大きく上回っています。減塩は単なる「血圧対策」にとどまらず、脳卒中・心不全・慢性腎臓病(CKD)・胃がん・骨粗鬆症といった多くの疾患リスクを下げる、エビデンスの厚い予防医療戦略です。糖尿病専門医として外来診療を行うなかでも、HbA1cと並んで「塩分」を主訴に来院される方は年々増えています。本記事では、糖尿病・高血圧・腎臓病・心不全それぞれの病態に合わせた減塩戦略を、最新ガイドラインに基づき体系的に解説します。明日の食卓から実践できる具体的レシピと外食対策も含めてお届けします。

目次

塩分摂取量の現状と目標値

厚生労働省「国民健康・栄養調査(令和元年)」によれば、日本人成人の食塩摂取量は男性10.9g/日、女性9.3g/日。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」が示す男性7.5g未満、女性6.5g未満という目標を、いずれも超過しています。WHOが提唱する5g未満まで下げると、収縮期血圧が平均5mmHg程度低下し、脳卒中による死亡が約23%、虚血性心疾患による死亡が約17%減少すると推計されています。

主要な目標値を整理すると以下の通りです。

  • WHO(世界保健機関):成人 食塩5g/日未満(ナトリウム2g/日未満)
  • 日本高血圧学会(JSH2019):高血圧者 6g/日未満
  • 日本人の食事摂取基準(2020):男性7.5g未満、女性6.5g未満
  • 慢性腎臓病ガイドライン(CKD診療ガイド2018):3g以上6g未満
  • 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017改訂版):軽症で6g未満、重症ではより厳格に

つまり日本人の現状値(約10g)からみると、健常者でも「3〜4g減らす」、高血圧・CKD・心不全患者では「4〜5g減らす」必要があるということです。これは決して非現実的な数字ではなく、後述するコツを押さえれば段階的に達成可能です。

塩分過多の健康リスク

塩分(ナトリウム)の過剰摂取は、以下のように複数の臓器・疾患に悪影響を及ぼします。糖尿病専門医の立場からは特に、糖尿病性腎症の進行を加速させる点が見逃せません。

1. 高血圧

ナトリウムは血管内に水分を引き込み循環血液量を増やすため、直接的に血圧を上昇させます。INTERSALT研究(52地域・10,079人)では、ナトリウム摂取量と血圧の有意な正相関が確認されています。日本人を含む東アジア人は欧米人より食塩感受性が高いとされ、減塩の効果が出やすい人種でもあります。

2. 脳卒中

NIPPON DATA80(日本人約1万人を24年追跡)では、食塩摂取量が多いほど脳卒中死亡リスクが上昇することが示されました。1日あたり食塩摂取量が1g増えるごとに、循環器疾患死亡リスクが約3〜5%上昇すると報告されています。

3. 心不全

ナトリウム過多は体液貯留を招き、心臓への前負荷を増大させます。慢性心不全患者では、塩分過剰による浮腫・呼吸困難の急性増悪(再入院の主要因)が問題となります。

4. 胃がん

高塩分食は胃粘膜を傷害し、ヘリコバクター・ピロリ感染と相乗して胃がんリスクを高めます。JPHC研究では、塩辛い食品(塩蔵魚・漬物等)を毎日摂取する群で胃がんリスクが約2倍に上昇しました。

5. 骨粗鬆症

ナトリウム排泄に伴いカルシウムが尿中に喪失(尿中Ca排泄増加)するため、長期的に骨密度低下の一因となります。閉経後女性では特に注意が必要です。

6. 慢性腎臓病(CKD)の進行

塩分過多は糸球体内圧を上昇させ、蛋白尿を悪化させます。糖尿病性腎症のステージ進行を抑制する上で、減塩は血糖管理・血圧管理と並ぶ三本柱の一つです。

減塩の段階的アプローチ(10g→8g→6g→3g)

外来でしばしば経験するのは、「いきなり6g未満を目指して挫折する」パターンです。味覚は2〜4週間で順応するため、段階的に下げる戦略のほうが定着率は圧倒的に高いことが報告されています。

ステップ1:10g→8g(最初の2〜4週間)

  • 味噌汁を1日2杯から1杯に
  • 漬物・梅干し・佃煮を半量に
  • 醤油は「かける」から「つける」へ(小皿に出す)
  • ラーメン・うどんのスープは飲み干さない

ステップ2:8g→6g(次の1〜2か月)

  • だしを濃く取り、味噌の量を2/3に
  • 減塩醤油・減塩味噌に切り替え
  • 加工食品(ハム・ソーセージ・練り物)の頻度を週2回まで
  • 外食を週3回以下に制限

ステップ3:6g→3g(CKD進行例・重症心不全のみ)

3g台の超減塩は、医師・管理栄養士の指導下でなければ低ナトリウム血症や食欲低下、栄養障害を招くリスクがあります。CKDステージG3b以降や重症心不全で必要となる場合がありますが、自己判断での実施は避けてください。

高血圧者向け減塩戦略

高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)では、減塩は薬物治療と並ぶ第一選択です。減塩6g/日の達成で、収縮期血圧が平均4〜5mmHg、拡張期血圧が2〜3mmHg低下します。これは降圧薬1剤分に相当する効果です。

高血圧者の優先順位

  1. 味噌汁・漬物・干物を減らす(日本人の塩分源トップ3)
  2. 麺類のスープを残す(ラーメン1杯のスープに約4〜6g)
  3. カリウムを増やす(野菜・果物・海藻でNa排泄促進。ただしCKDがある場合は要注意)
  4. 家庭血圧を朝晩測定し、減塩の効果を可視化(モチベーション維持)

DASH食(果物・野菜・低脂肪乳製品中心)を併用すると、減塩単独より大きな降圧効果(収縮期8〜14mmHg)が得られます。

CKD・透析患者向け減塩

慢性腎臓病(CKD)では、ステージに応じて塩分・蛋白質・カリウム・リンの管理が必要です。糖尿病性腎症は日本の透析導入原因の第1位(約4割)であり、糖尿病患者の減塩は腎保護の要です。

CKDステージ食塩蛋白質カリウム
G1〜G23〜6g/日過剰摂取しない制限なし
G3a3〜6g/日0.8〜1.0g/kg制限なし
G3b〜G53〜6g/日0.6〜0.8g/kg2,000mg/日以下
透析(HD)6g/日未満0.9〜1.2g/kg2,000mg/日以下

透析患者では「塩分6g/日未満かつ水分管理(ドライウェイト+体重増加3%以内)」が、心不全合併・透析間体重増加抑制の鍵です。減塩を怠ると喉が渇き、結果として水分過剰摂取につながり、透析中の血圧低下・心負荷増大を招きます。

心不全患者向け減塩

急性・慢性心不全診療ガイドライン(日本循環器学会)では、軽症〜中等症で6g/日未満、重症ではさらに厳格な管理を推奨します。心不全による再入院の最大の引き金は「塩分・水分過剰」であり、入院患者の3〜4割は食事管理の乱れが契機と報告されています。

心不全減塩の重点ポイント

  • 毎日同じ時間に体重測定(増加2kg/3日で受診目安)
  • 味噌汁・漬物の頻度を週3回以下に
  • 水分制限がある場合(重症例)は1.5L/日程度を目安に
  • カリウム保持性利尿薬使用中は高カリウム血症に注意(バナナ・トマトジュース等の過剰に注意)

減塩のコツ(だし・酸味・香辛料・温度)

「薄味=まずい」は誤解です。塩味以外の5つの軸を活用すれば、減塩しても満足感のある食事は十分作れます。

1. だし(うま味)を濃く

昆布・かつお・煮干し・椎茸のうま味成分(グルタミン酸・イノシン酸・グアニル酸)は、相乗効果で塩味を補強します。だしを濃く取れば、味噌の量を半分に減らしても満足度は変わりません。

2. 酸味(酢・柑橘・梅)

酢・レモン・すだち・ゆず・梅干しの酸味は、塩味の代替になります。焼き魚に醤油の代わりにレモンを絞る、煮物に酢を少量加える、サラダにバルサミコ酢を使うなど。

3. 香辛料・香味野菜

胡椒・唐辛子・カレー粉・生姜・にんにく・大葉・みょうが・ねぎ。これらは塩を使わずに「味の輪郭」を作ります。

4. 油・コク

少量のごま油・オリーブオイルやナッツ・ごまの油脂分は、満足感を高め減塩を助けます(カロリーには注意)。

5. 温度

熱々または冷たい料理は塩味を強く感じます。ぬるい味噌汁は薄く感じるので、必ず熱いうちに提供する工夫を。

減塩しても失敗しないレシピ例

レシピ1:減塩鮭の塩麹焼き(塩分0.8g/人)

  • 生鮭2切れ、塩麹大さじ1、レモン1/4個、大葉2枚
  • 鮭に塩麹を塗り30分置き、フライパンで焼く。レモンと大葉を添える
  • 塩麹のうま味とレモンの酸味で塩を一切使わずに満足感

レシピ2:減塩豚汁(塩分1.2g/杯)

  • 豚薄切り60g、大根・人参・ごぼう・里芋・こんにゃく各適量
  • 昆布とかつおの一番だし500mL、味噌大さじ1(通常の2/3量)、おろし生姜少々
  • 具だくさん×濃いだし×生姜の香りで、味噌少なめでもコク十分

レシピ3:減塩トマト煮込みチキン(塩分1.0g/人)

  • 鶏もも肉200g、トマト缶1/2、玉ねぎ・にんにく・オリーブオイル・バジル・黒胡椒
  • 塩は最後にひとつまみ。トマトの酸味とハーブの香りで満足度高い

外食・コンビニでの減塩

外食は1食で6〜10gの塩分を含むことも珍しくありません。完全に避けるのではなく、選び方とテクニックで2〜3g減らす工夫をしましょう。

外食の鉄則

  • 麺類のスープは残す:ラーメン・うどんのスープを残すだけで2〜4g削減
  • 定食 > 丼 > 麺類:定食はおかずを残しやすい
  • 漬物・佃煮・ドレッシングは半量
  • 醤油・ソースは「つける」:かけずに小皿に
  • 味噌汁は半分残すか、最初から「なし」で注文

コンビニ活用術

  • サラダチキン・ゆで卵・冷奴・サラダ(ドレッシング半量)を組み合わせる
  • おにぎりは塩むすび・梅より、鮭・昆布など中身が薄味なものを
  • カップ麺は「スープ全部捨てる」前提で(粉末スープを半分しか入れない裏技も)
  • 食品表示の「食塩相当量」を必ずチェック。1食2g以下が目安

糖尿病者の減塩(DASH食・地中海食)

糖尿病患者は高血圧・脂質異常症・腎症を合併しやすく、減塩は血糖管理と同等に重要です。糖尿病診療ガイドライン2019(日本糖尿病学会)も、食塩6g/日未満を推奨しています。

DASH食

米国NIHが開発した食事法。果物・野菜・低脂肪乳製品・全粒穀物・ナッツを増やし、飽和脂肪酸・赤肉・甘味飲料を減らします。減塩との併用で収縮期血圧を最大14mmHg低下させた試験もあり、糖尿病・高血圧合併例には強くおすすめできます。

地中海食

オリーブオイル・魚・野菜・果物・全粒穀物・ナッツ中心。PREDIMED試験では、心血管イベントを約30%減らしました。日本人にも応用しやすく、和食の「魚・大豆・野菜」を軸にオリーブオイルとナッツを足すアレンジが現実的です。

糖尿病者の注意点

  • カリウム摂取増加は基本的に有益だが、糖尿病性腎症G3b以降は要制限
  • 果物は血糖を上げるので、1日150〜200g(小ぶり1個分)まで
  • 減塩で食欲が落ちた場合、低血糖(インスリン・SU薬使用者)に注意

FAQ

Q1. 減塩を始めると最初は味気なく感じますが、いつ慣れますか?

個人差はありますが、味覚の順応は2〜4週間が目安です。最初の2週間が最もつらいですが、その後は薄味の方が美味しく感じるようになります。だし・酸味・香辛料を活用して乗り切りましょう。

Q2. 減塩醤油・減塩味噌は使い放題ですか?

いいえ。一般的に減塩醤油は通常の50%、減塩味噌は20〜30%の塩分カットですが、量を倍使えば意味がありません。「使う量は変えない」ことが鉄則です。

Q3. 汗をかくスポーツや夏場は塩分を多めに摂るべき?

炎天下での長時間運動・大量発汗時は塩分補給が必要ですが、健常な日常生活レベルでは追加摂取は不要です。むしろ熱中症対策として「水+経口補水液」を必要量だけ取る方が安全です。

Q4. 高齢者の極端な減塩はかえって危険と聞きました

その通りです。フレイル・低栄養傾向の高齢者では、極端な減塩で食欲低下・低ナトリウム血症をきたすリスクがあります。8g程度から始め、6gまで様子を見て下げるなど、個別調整が必要です。必ず主治医・管理栄養士と相談してください。

Q5. 家族と同じ食事で減塩はできますか?

可能です。基本の調理は薄味で作り、家族が物足りない場合は卓上で個別に醤油・ソースを足してもらう方式が現実的。家族全員にとって減塩は健康投資なので、家族ごと薄味化を目指すのが理想です。

判定後の次の一歩

当院(まさぼ内科クリニック)では、糖尿病・高血圧・脂質異常症・慢性腎臓病の患者さまに対して、管理栄養士による個別栄養指導を実施しています。減塩・カロリー・蛋白質・カリウム・リンを病態に応じて調整し、外食・中食を含む現実的な食事プランを一緒に作成します。家庭血圧手帳・血液検査・尿検査を組み合わせて、減塩の効果を「見える化」しながら継続をサポートします。

「自分の塩分摂取量を知りたい」「家族の食事改善で迷っている」「腎機能が下がってきたと言われた」という方は、お気軽にご相談ください。糖尿病専門医として、血糖・血圧・腎機能を総合的に管理する診療を提供しています。

まとめ

減塩は、降圧薬1剤分に匹敵する血圧低下効果をもち、脳卒中・心不全・腎症進行・胃がん・骨粗鬆症リスクを下げる、最もエビデンスの厚い食事療法の一つです。

  • 日本人の現状は約10g/日。WHO5g・JSH6g・日本人の食事摂取基準7.5g/6.5gが目標
  • 段階的アプローチ(10g→8g→6g)で味覚順応を待ちながら下げる
  • 高血圧者は味噌汁・漬物・麺類スープを優先的に減らす
  • CKD・心不全患者は3〜6g/日の厳格管理+蛋白質・カリウム・水分を病態に合わせて
  • だし・酸味・香辛料・油・温度の5軸で「薄くても美味しい」を実現
  • 糖尿病者にはDASH食・地中海食の併用が有効
  • 外食・コンビニは「スープ残す」「食塩相当量チェック」「醤油つける」が三原則

明日の一食、味噌汁の味噌を半量にすることから始めてみてください。2週間後、味覚はあなたの味方になっています。

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監修者:小林正敬(こばやし まさたか)/医師・医学博士/日本糖尿病学会専門医・指導医/日本内科学会総合内科専門医/まさぼ内科クリニック代表理事

参考文献

  • 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」
  • 日本腎臓学会「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」
  • 日本循環器学会/日本心不全学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」
  • 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2019」
  • 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
  • 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査」
  • WHO「Guideline: Sodium intake for adults and children」(2012)
  • NIPPON DATA80, INTERSALT, JPHC, PREDIMED, DASH-Sodium Trial 各臨床研究

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監修医師:小林 正敬 医師(日本糖尿病学会 糖尿病専門医 / 日本内科学会 総合内科専門医 / 日本老年医学会 老年科専門医・指導医)
医籍登録番号:第486214号
所属:まさぼ内科クリニック飯田橋院 院長 / 一般社団法人代表理事
公開日:2026-05-10 / 最終更新日:2026-05-10

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この記事を書いた人

まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 代表理事 / 院長。日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本糖尿病協会 糖尿病認定医/日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医/日本内科学会 認定医制度審議会 病歴要約評価委員/日本老年医学会 老年科専門医・指導医/日本抗加齢医学会 抗加齢専門医/日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医/ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター。医籍登録番号 第486214号。国立国際医療研究センター国府台病院で内科研修を始めた後、糖尿病内科の道に進み、現在は最新の薬物療法(GLP-1作動薬・チルゼパチド等)と、栄養・運動・漢方を組み合わせた包括的な糖尿病・代謝診療を実践しています。

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