糖尿病は古典中国医学の世界では「消渇(しょうかつ)」と呼ばれ、後漢の張仲景『金匱要略』にすでに病態描写が登場します。多飲・多尿・多食・体重減少という三多一少の症候は、現代2型糖尿病高血糖期の臨床像とほぼ完全に一致し、紀元2世紀の医学が今なお有効な処方学的遺産を残しています。一方で令和の糖尿病診療はHbA1c・eGFR・LDLコレステロールを軸とした厳格な数値管理と、SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬・インスリンによる標準治療が前提。漢方薬は単独治療ではなく、現代医療と併用してQOLと合併症マネジメントを高める「統合医療」の文脈で活用されます。
本稿では糖尿病専門医として、糖尿病とその合併症に対する漢方処方の臨床的役割・体質別アプローチ・科学的エビデンス・現代薬との併用注意点を体系的に解説します。糖尿病をお持ちの方、ご家族、漢方併用を検討中の医療従事者の参考になれば幸いです。
糖尿病における漢方の役割 — HbA1c低下効果は限定的、合併症緩和とQOL改善が主目的
最初に明確に述べておくべきは、漢方薬を服用してもHbA1cが大きく低下するわけではないという事実です。SGLT2阻害薬で0.7-1.0%、GLP-1受容体作動薬で1.0-1.5%、インスリンで2-3%といったHbA1c低下幅と比較すると、漢方薬の血糖降下作用はメタアナリシスでも0.2-0.5%程度にとどまり、しかも研究ごとのばらつきが大きく、現代薬の代替にはなり得ません。糖尿病診療ガイドライン2024でも、漢方薬は血糖管理の主軸ではなく、糖尿病性末梢神経障害に対する牛車腎気丸という限定的な文脈で唯一名前が登場するのみです。
では漢方薬は糖尿病診療において何を担うのか。臨床的に意義のある役割は次の四つに整理できます。第一は合併症症状の緩和。神経障害のしびれ、自律神経症状、便秘、易感染、サルコペニアなど、現代薬の効きにくい領域でのQOL改善です。第二は糖尿病薬の副作用ケア。SGLT2阻害薬による脱水傾向、GLP-1受容体作動薬による悪心、メトホルミンによる消化器症状などへのサポートです。第三は体質改善的アプローチ。気虚・陰虚・瘀血といった東洋医学的体質を整えることで、肥満・冷え・疲労感など随伴症状を改善し服薬アドヒアランスを高める働きです。第四は口渇・夜間頻尿などの古典的消渇症状に対する対症的処方です。
逆に、漢方薬で対応すべきでない領域もはっきりしています。新規発症1型糖尿病、ケトアシドーシス、HbA1c 9%以上の高血糖緊急、増殖性網膜症、透析期腎不全、糖尿病足壊疽といった重症・緊急病態は、漢方治療の出る幕ではありません。標準治療の遅延は患者の不利益に直結するため、漢方併用はあくまで標準治療を尽くした上での補完として位置づけてください。
糖尿病合併症別おすすめ漢方処方
糖尿病の合併症は多岐にわたります。細小血管合併症(神経障害・腎症・網膜症)、大血管合併症(心血管・脳血管・末梢動脈)、その他(易感染・歯周病・サルコペニア・認知症・うつ)と整理されますが、漢方薬が臨床的に意義を持つのは主に細小血管合併症と「その他」の領域です。以下、症状別に保険収載エキス製剤を中心に整理します。
糖尿病性末梢神経障害 — 牛車腎気丸(107番)・八味地黄丸(7番)
糖尿病性末梢神経障害(DPN)は2型糖尿病患者の30-50%に合併し、糖尿病足病変・転倒・QOL低下の主要因です。標準治療はミロガバリン・プレガバリン・デュロキセチン・三環系抗うつ薬ですが、眠気・浮動性めまい・体重増加といった副作用で継続困難な症例が少なくありません。牛車腎気丸はこの領域で糖尿病診療ガイドラインに名前が記載される唯一の漢方処方であり、第一選択として検討する価値があります。
牛車腎気丸は『済生方』を出典とする補腎剤で、八味地黄丸に牛膝・車前子を加えた構成です。下肢のしびれ・冷え・浮腫・夜間頻尿といった「腎陽虚+水滞・血滞」の症候に対し、神経保護・血流改善・鎮痛作用を発揮します。下肢症状が前景でない比較的軽症例では八味地黄丸(7番)から開始する選択肢もあります。いずれも地黄を含むため胃もたれが起こることがあり、消化機能の弱い方では食後服用や減量で対応します。
糖尿病性自律神経障害 — 補中益気湯(41番)・人参養栄湯(108番)
自律神経障害は起立性低血圧・胃不全麻痺・無自覚性低血糖・便秘下痢交代・発汗異常など多彩な症候を呈し、現代薬で対応しきれない領域です。気虚(エネルギー不足)と脾虚(消化吸収機能低下)の体質をベースとする症例が多く、補中益気湯が第一選択になります。倦怠感・食欲不振・易疲労が主訴の症例で、立ちくらみや食後のもたれ感を伴う場合に好適です。
サルコペニアを伴う高齢者・低栄養傾向の症例では、補中益気湯に滋陰補血作用を加えた人参養栄湯がより適合します。フレイル研究領域でも認知機能・骨格筋量・倦怠感への効果が報告されており、自律神経症状+全身衰弱の合併例で力を発揮する処方です。
糖尿病性腎症 — 八味地黄丸(7番)・牛車腎気丸(107番)
糖尿病性腎症は本邦における透析導入原疾患の第1位で、CKDステージG3以降の進行抑制が最重要課題です。中核治療はSGLT2阻害薬・ARB/ACEI・MRブロッカー・GLP-1受容体作動薬で、漢方薬はあくまで補助です。下肢浮腫・夜間頻尿・腰下肢倦怠が前景になる時期には、八味地黄丸または牛車腎気丸が選択されます。
注意点として、地黄を含む処方は腎機能が極端に悪化した症例で消化器症状を増悪させることがあるため、eGFR 30未満では慎重に開始し、悪心・食欲不振が出現すれば中止します。また甘草を含む処方(小柴胡湯・芍薬甘草湯など)は浮腫を悪化させるリスクがあるため、腎症の浮腫管理中は併用を避けるのが原則です。
糖尿病性網膜症(補助) — 八味地黄丸(7番)
糖尿病性網膜症の標準治療は厳格な血糖管理・血圧管理・抗VEGF硝子体内注射・網膜光凝固であり、漢方薬は治療の主軸にはなり得ません。ただし古典中医学では「腎は耳目に開竅する」とされ、視力低下・かすみ目・眼精疲労を腎虚症候として捉え、八味地黄丸を補助的に併用する伝統があります。あくまで眼科標準治療を遵守した上での補完として、視機能QOLの改善目的で検討する位置づけです。
易感染・低栄養 — 補中益気湯(41番)・十全大補湯(48番)
糖尿病患者は細胞性免疫低下により尿路感染症・皮膚感染症・歯周病・結核・新型コロナ重症化のリスクが高いことが知られています。反復する感染症・易疲労・食欲不振がある症例では、補中益気湯が標準的な選択肢です。NK細胞活性・好中球機能改善が報告されており、再発性膀胱炎・帯状疱疹後QOL低下などにも応用されます。
低栄養・貧血・術後回復遅延を伴う症例では、補中益気湯より補益作用の強い十全大補湯が適しています。特に高齢糖尿病患者・がん治療併用例での全身状態改善目的で頻用される処方です。
糖尿病性便秘 — 大柴胡湯(8番)・麻子仁丸(126番)・潤腸湯(51番)
糖尿病性便秘は自律神経障害と腸内環境変化の合成産物で、メトホルミンによる下痢と表裏の関係にあります。実証(体力充実型)で腹部膨満・上腹部の張りを伴う症例では大柴胡湯、虚証(体力低下型)で兎糞状便・コロコロ便・乾燥傾向の高齢者には麻子仁丸または潤腸湯を選択します。
麻子仁丸はナッツ系生薬を含み、酸化マグネシウム・ルビプロストン・リナクロチドといった現代下剤でも改善しない便秘の高齢糖尿病患者で著効することがある処方です。大黄を含むため長期連用での耐性形成・電解質異常には注意し、定期的に減量を試みます。
三多症状(口渇・多飲・多尿) — 白虎加人参湯(34番)・麦門冬湯(29番)
古典中医学では消渇は上消(肺燥)・中消(胃熱)・下消(腎虚)に分類されます。熱症状の強い口渇・多飲・煩渇には白虎加人参湯、乾燥性の咳・口腔乾燥を伴う高齢者には麦門冬湯。ただし三多症状はまず高血糖の直接症候として理解されるべきで、HbA1c・血糖・脱水・尿崩症の鑑別を尽くした上での対症処方として位置づけてください。
糖尿病性サルコペニア・フレイル — 人参養栄湯(108番)・補中益気湯(41番)
2型糖尿病は加齢以上のスピードで骨格筋量を低下させることが報告されており、糖尿病性サルコペニアは超高齢糖尿病社会の中核課題です。レジスタンス運動・たんぱく質摂取・ビタミンDが標準対応ですが、食欲不振・倦怠感で運動・栄養介入が困難な症例で漢方薬が補助的に活躍します。
人参養栄湯はフレイル研究で骨格筋量増加・認知機能改善・倦怠感軽減のエビデンスが蓄積している処方で、虚弱高齢糖尿病患者の第一選択です。比較的若年でも倦怠感・食欲不振が前景の症例には補中益気湯が好適。両者は方剤系譜が近く、虚弱の重症度で使い分けます。
体質別アプローチ — 五つの体質ベクトル
東洋医学では同じ「2型糖尿病」でも、患者の体質(証)によって最適処方が変わります。糖尿病臨床で頻出する五つの体質ベクトルを整理します。
気虚(ききょ) — エネルギー不足型
倦怠感・易疲労・食後の眠気・声に力がない・汗をかきやすい・食欲不振が中核症状。糖尿病患者では血糖変動・自律神経障害・サルコペニアの基盤体質として頻出します。第一選択は補中益気湯(41番)、虚弱重症例では人参養栄湯(108番)または十全大補湯(48番)。
陰虚(いんきょ) — 潤い不足・虚熱型
口渇・口腔乾燥・乾燥肌・寝汗・ほてり・便秘・舌の赤味と苔の少なさが中核症状。古典消渇の中核体質で、上消・中消の高血糖性脱水傾向と重なります。第一選択は白虎加人参湯(34番)、慢性化・高齢者では八味地黄丸(7番)や麦門冬湯(29番)。
瘀血(おけつ) — 血行不良型
顔のくすみ・舌下静脈怒張・打撲痕様の皮膚色・固定性疼痛・夜間増悪する痛み・月経異常が中核症状。糖尿病性末梢神経障害・足部血行障害・糖尿病性ED・脳梗塞リスクの基盤体質です。第一選択は桂枝茯苓丸(25番)、下肢症状では牛車腎気丸(107番)。
湿熱(しつねつ) — 内熱・体液停滞型
肥満・脂肪肝・口の苦味・口臭・脂漏性皮膚・便秘下痢交代・舌苔黄厚膩が中核症状。メタボリック症候群・脂肪肝合併2型糖尿病の基盤体質として極めて頻出します。第一選択は大柴胡湯(8番)、肥満顕著例では防風通聖散(62番)も選択肢ですが甘草・大黄含有のため長期使用には注意。
水滞(すいたい) — 水液代謝異常型
下肢浮腫・めまい・頭重感・胃内停水・尿量異常・舌の歯痕が中核症状。糖尿病性腎症の浮腫期・心不全合併例の基盤体質です。第一選択は五苓散(17番)、腎陽虚を伴う場合は牛車腎気丸(107番)。
科学的エビデンス — PubMed・系統的レビュー・RCT
漢方薬の糖尿病領域エビデンスは、PubMed検索で年々増加しています。糖尿病・血糖管理に関する系統的レビューでは、漢方薬単独・併用群はプラセボ・標準治療単独群と比較してHbA1cで0.2-0.5%程度の追加低下、空腹時血糖で10-20mg/dL程度の追加低下が報告されていますが、研究の質・サンプル数・対象漢方処方のばらつきが大きく、エビデンスレベルは中等度にとどまります。
個別処方として最もエビデンスが充実しているのは牛車腎気丸の糖尿病性末梢神経障害に対する研究で、複数のRCTでしびれ・痛み・QOLスコア改善が報告されています。古典生薬ではハクサンサクシ(白山査子)・桑葉・苦瓜・桂皮・黄連などのα-グルコシダーゼ阻害作用、AMPK経路活性化、インスリン感受性改善作用がin vitro・in vivo研究で報告されていますが、エキス製剤の臨床効果と直結するわけではありません。
サルコペニア領域では人参養栄湯の骨格筋・認知機能改善RCT、自律神経・免疫領域では補中益気湯のNK細胞活性化研究が知られています。総じて症状緩和・QOL改善には一定の根拠が積み上がる一方、HbA1c・血管イベント抑制といったハードアウトカムでの漢方単剤エビデンスは限定的というのが2026年時点の現状です。
糖尿病薬との併用注意点 — 甘草・SGLT2併用脱水・GLP-1悪心の漢方ケア
漢方薬と現代糖尿病薬の併用には、いくつか重要な薬物相互作用と注意点があります。糖尿病専門医として実臨床で頻出するポイントを整理します。
甘草含有処方 — 偽性アルドステロン症と糖尿病薬の落とし穴
甘草を含む処方は148処方中の約7割を占め、長期使用で偽性アルドステロン症(低カリウム血症・浮腫・血圧上昇・ミオパチー)を起こすリスクがあります。糖尿病患者では特に以下の薬剤併用で注意が必要です。
- SGLT2阻害薬:脱水・電解質異常を増悪させる懸念。十分な水分摂取と電解質モニタリング
- ループ利尿薬・サイアザイド:低カリウム血症のリスク重畳
- インスリン:低カリウム血症はインスリン作用増強・低血糖リスク上昇に
甘草1日2g以下(保険量での芍薬甘草湯・小青竜湯・葛根湯1日量を1包程度)であれば短期使用は許容範囲ですが、3ヶ月超の連用では血清カリウム・血圧・浮腫を定期チェックします。
SGLT2阻害薬併用の脱水ケア — 五苓散・補中益気湯
SGLT2阻害薬は1日200-500mLの浸透圧利尿を引き起こし、特に高齢者・暑熱期・運動時に脱水リスクを高めます。口渇・倦怠感・立ちくらみが出現した場合、まず水分摂取・服薬休止を検討した上で、漢方併用としては五苓散(17番)の水液調整作用、補中益気湯(41番)の気虚改善が有用です。地黄含有処方は脱水傾向の症例ではむしろ消化器症状を悪化させるため、夏季・脱水時は減量・休薬を検討します。
GLP-1受容体作動薬の悪心ケア — 六君子湯・小半夏加茯苓湯
GLP-1受容体作動薬(セマグルチド・チルゼパチド・デュラグルチド)は導入期に20-30%の症例で悪心・嘔吐・食欲不振を起こします。標準対応は用量調整・食事量調整ですが、漢方併用としては六君子湯(43番)が機能性ディスペプシア・胃不全麻痺に対するエビデンスを背景に第一選択になります。悪心が強い症例では小半夏加茯苓湯(21番)の頓用も有用です。GLP-1薬による消化器症状は通常2-4週で軽快するため、漢方併用も短期使用が原則です。
メトホルミン下痢のケア — 半夏瀉心湯・人参湯
メトホルミンは10-30%の症例で下痢・腹部不快感を起こします。徐放剤への変更・分割投与で改善することが多いものの、漢方併用としては腹鳴・軟便・心下痞が前景なら半夏瀉心湯(14番)、冷えて下痢する虚寒証なら人参湯(32番)が選択されます。
実臨床での使い分けフローチャート
初診で2型糖尿病患者に漢方併用を検討する際の標準的な思考プロセスを整理します。
- 標準治療の最適化が最優先:HbA1c目標未達ならまずSGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬・メトホルミン・インスリンの調整
- 合併症スクリーニング:神経障害(モノフィラメント・振動覚)、腎症(尿アルブミン・eGFR)、網膜症(眼科紹介)、フレイル評価
- 主訴・QOL障害の同定:しびれ・倦怠感・口渇・便秘・浮腫・夜間頻尿のうち最も患者負担の大きい症状を特定
- 体質評価:気虚/陰虚/瘀血/湿熱/水滞の優位ベクトル
- 第一選択処方の決定:本稿合併症別セクションを参照
- 4-8週で効果判定:症状スコアとQOLで評価。無効なら別処方へ切り替え、有効なら継続
- 定期モニタリング:血清カリウム・肝機能・浮腫・血圧を3-6ヶ月ごと
処方選択に迷う場合の簡易フロー:下肢症状中心→牛車腎気丸/倦怠感中心→補中益気湯/高齢虚弱→人参養栄湯/肥満実証→大柴胡湯/むくみ・めまい→五苓散。これだけで糖尿病外来漢方併用の8割は対応可能です。
当院での統合医療アプローチ — 兄妹医師USPとデジタルツール
まさぼ内科クリニックは糖尿病・ダイエット・漢方を統合した診療スタイルを特色としています。糖尿病専門医・小林正敬による標準的薬物治療と漢方併用、整形外科専門医・小林高之と歯科医師・小林早紀子のベストボディ・ジャパン受賞経験に裏打ちされたダイエット指導、消化器内視鏡専門医・小林寛子による予防医学的アプローチが連携します。
診療ツールとして、減量目標を時系列でシミュレーションできるカロリー計算機、漢方体質を9類型で診断する漢方体質診断アプリを院内・自宅で活用いただけます。HbA1c・体重・歩数のデータを患者自身が可視化し、医師の処方判断と合わせて自己管理を行う「データドリブン×伝統医学×身体性経験」の三層統合が、当院の差別化ポイントです。
FAQ — よくある質問
Q1. 漢方薬だけで糖尿病は治せますか?
2型糖尿病を漢方薬単独でコントロールすることは推奨されません。漢方薬の血糖降下作用はHbA1cで0.2-0.5%程度で、現代糖尿病薬の代替にはなり得ないからです。標準治療を主軸とし、合併症緩和・QOL改善・副作用ケアの目的で漢方を併用するのが正しい位置づけです。1型糖尿病では漢方は補助的役割に限定され、インスリン療法は絶対に中断できません。
Q2. 漢方薬は副作用がなく安全ですか?
漢方薬は天然由来ですが副作用がないわけではありません。甘草による偽性アルドステロン症(低カリウム血症・浮腫・血圧上昇)、黄芩による間質性肺炎・肝障害、地黄・山梔子による消化器症状、麻黄による動悸・不眠などが知られています。糖尿病患者では特に甘草・利尿系生薬・地黄含有処方の使用に注意が必要で、定期的な血液検査・症状確認が原則です。
Q3. SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬と漢方は併用できますか?
併用可能ですが薬剤・処方の組み合わせで注意が必要です。SGLT2阻害薬使用中は脱水を悪化させる甘草含有処方の長期使用、地黄含有処方の夏季使用に注意。GLP-1受容体作動薬の悪心には六君子湯・小半夏加茯苓湯が有用です。重要なのは漢方併用のために現代糖尿病薬を中断しないこと。標準治療の最適化が常に最優先されます。
Q4. 効果はどのくらいで実感できますか?
処方と症状によって異なります。便秘・口渇・悪心といった対症的な訴えは数日-2週で実感できることが多く、しびれ・倦怠感・サルコペニアといった体質改善的な目標は4-12週、フレイル・認知機能などは3-6ヶ月の継続評価が必要です。4-8週で症状スコアに変化が見られない場合は処方の見直しを検討するのが標準的な臨床判断です。
Q5. 妊娠中・授乳中・小児糖尿病患者に漢方は使えますか?
妊娠糖尿病・1型糖尿病妊娠ではインスリン療法が標準で、漢方薬は基本的に推奨されません。大黄・芒硝・麝香・桃仁などは妊娠中禁忌で、その他の処方も安全性データが限定的です。小児糖尿病でも漢方薬は補助的位置づけで、標準治療を遵守した上で症状緩和目的のみに使用します。これらの集団では必ず糖尿病専門医・産科医・小児科医と協議してください。
処方を検討する方へ — 当院でできること
糖尿病と漢方の併用を検討される方は、まず標準的な糖尿病診療を受けた上で漢方併用の必要性を担当医と相談することをおすすめします。当院の関連コンテンツも参考にしてください。
- 合併症対応の主要処方:牛車腎気丸完全ガイド/八味地黄丸完全ガイド/補中益気湯完全ガイド
- 体質改善系処方:大柴胡湯完全ガイド/五苓散完全ガイド/桂枝茯苓丸完全ガイド
- 体質診断:漢方体質診断アプリ(9類型)で気虚・陰虚・瘀血・湿熱・水滞のセルフチェック
- 体重管理:カロリー計算機で減量・体組成シミュレーション
- 体質ガイド:気虚タイプ/陰虚タイプ/瘀血タイプ/湿熱タイプ/水滞タイプ
まとめ
糖尿病領域における漢方薬は、HbA1c低下を目的とした主役薬剤ではなく、合併症緩和・QOL改善・副作用ケアを担う補完医療として明確に位置づけるべきものです。糖尿病性末梢神経障害に対する牛車腎気丸、自律神経障害・サルコペニアに対する補中益気湯・人参養栄湯、便秘に対する大柴胡湯・麻子仁丸、湿熱型肥満に対する大柴胡湯、水滞型浮腫に対する五苓散など、合併症と体質に応じた処方選択により、現代糖尿病診療の死角を埋めることが可能です。
同時に、標準治療の最適化(SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬・メトホルミン・インスリン・ARB/ACEI)が常に最優先であり、漢方併用のために現代薬を中断することは患者の不利益に直結します。甘草による偽性アルドステロン症、SGLT2併用脱水、地黄による消化器症状といった漢方特有のリスクを定期モニタリングしながら、患者個別の体質・症状・併用薬を踏まえた統合医療を構築していくのが、令和の糖尿病専門医に求められる漢方の使い方です。
当院では糖尿病専門医による標準治療と漢方併用、ベストボディ・ジャパン受賞医師によるダイエット指導、デジタルツールを統合した診療スタイルで、合併症予防とQOL向上を支援しています。糖尿病をお持ちで漢方併用にご関心がある方は、ぜひ一度ご相談ください。
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- 漢方体質診断アプリ — 9体質を判定し最適処方を提案
- カロリー計算ツール — 減量シミュレーター(870品目DB搭載)
- まさぼ内科クリニック飯田橋院 — 糖尿病・漢方・GLP-1治療のご相談
本記事の信頼性について
監修・執筆体制
本記事は、まさぼ内科クリニック飯田橋院 院長・小林 正敬 医師(医籍登録番号 第486214号)の監修のもと、公開時点で確認可能な学会ガイドラインおよび査読論文に基づいて作成されています。監修医師は 日本糖尿病学会 糖尿病専門医、日本内科学会 総合内科専門医、日本老年医学会 老年科専門医・指導医 の資格を有し、糖尿病・代謝疾患・老年医学を専門とする臨床医として実務に従事しています。
利益相反(COI)の開示
本記事は、特定の医薬品・医療機関・企業からの広告料、紹介料、監修料の影響を受けず、独立した医学的判断のもと作成されています。治療法の選択は、必ず主治医の対面診察に基づき判断してください。本記事は一般的な医療情報の提供を目的とし、個別の診断・治療を代替するものではありません。
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本記事は学会ガイドライン(日本糖尿病学会・日本東洋医学会等)、査読論文、厚生労働省公表データに基づき作成され、医学的内容の変化に応じて定期的な見直しを行います。公開日・最終更新日は本セクション直下の監修者バナーをご参照ください。
信頼性開示の最終確認日:2026-05-14
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監修:小林 正敬 医師
日本糖尿病学会 糖尿病専門医 / 日本内科学会 総合内科専門医 / 日本老年医学会 老年科専門医・指導医
医籍登録番号:第486214号
公開日:2026-05-10 / 最終更新日:2026-05-10
参考文献
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』
- 日本内科学会『内科学会雑誌』漢方薬関連エビデンスレビュー
- 日本東洋医学会『漢方治療エビデンスレポート(EKAT)』
- 日本老年医学会『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「糖尿病」
- PubMed:Goshajinkigan for diabetic peripheral neuropathy systematic review
- PubMed:Ninjin’yoeito for sarcopenia and frailty RCT
- 『金匱要略』『済生方』『太平恵民和剤局方』『万病回春』各原典

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