半夏厚朴湯完全ガイド|咽喉異常感・パニック障害・不安障害・嚥下障害への効果を糖尿病専門医が解説

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半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)は、後漢の張仲景が著した『金匱要略(きんきようりゃく)』を出典とする、千八百年の歴史を持つ古方の名方です。咽喉に何かが詰まったような違和感、いわゆる梅核気(ばいかくき)・ヒステリー球(globus hystericus)を治療する代表処方として、東洋医学で古くから不動の地位を占めてきました。原典には「婦人、咽中炙臠の如きあり、半夏厚朴湯これを主る」と記され、咽の奥に焼いた肉片が貼りついた感覚を端的に描写しています。

現代医学の文脈で、半夏厚朴湯の臨床価値は大きく拡張しています。耳鼻咽喉科で原因不明とされる咽喉頭異常感症、心療内科の不安障害・パニック障害・抑うつ傾向、産科のつわり、高齢者医療の嚥下反射改善・誤嚥性肺炎予防。これらすべてで近年は査読付きエビデンスが集積しており、本方は古典処方ではなく現代医療の重要な選択肢として再評価されています。

本稿では糖尿病専門医として漢方を頻用する立場から、半夏厚朴湯(ツムラ16番)の作用機序・適応・エビデンス・副作用、糖尿病・GLP-1治療との併用を体系的に解説します。

目次

半夏厚朴湯とは — ツムラ16番の特徴

半夏厚朴湯は、エキス製剤としてツムラ16番として広く知られ、医療用医薬品として保険適用されています。OTCとしても各社から発売されており、ドラッグストアで入手可能な比較的身近な処方です。クラシエ・コタロー・JPSなど他メーカーからも同名製剤が販売されています。

方剤名は構成生薬の最重要二味、すなわち「半夏」と「厚朴」に由来します。半夏が痰飲を化し、厚朴が気滞を散ずる。この二味が君臣として組み合わさり、咽喉に停滞した「気と痰」を同時に解きほぐします。

出典『金匱要略』と「咽中炙臠」

本方の出典は、後漢の張仲景(150-219年頃)が著した『金匱要略』婦人雑病篇第二十二条で、原文は「婦人、咽中炙臠の如き有り、半夏厚朴湯之を主る」と記されています。「炙臠」とは火で炙った肉の小片を意味し、咽喉に肉片がへばりついて飲み込めず吐き出せない不快感を指します。

この記述は現代の梅核気/咽喉頭異常感症/ヒステリー球(globus hystericus)そのものです。実体としての腫瘤や狭窄がないにもかかわらず咽喉違和感を訴える病態は千八百年前から臨床医を悩ませてきました。張仲景はこれを「気と痰の停滞」と捉え、わずか五味の生薬で本方を創案しました。

古方派漢方における位置づけ

江戸期の古方派(吉益東洞ら)は『傷寒論』『金匱要略』を絶対的経典として尊重しました。半夏厚朴湯は古方の核心処方の一つであり、現代の保険適用エキス製剤でも特に古典忠実度が高い方剤です。生薬数が五味と少なく配合バランスがシンプルなため、漢方初学者から熟練医師まで幅広く使いこなされています。

構成生薬と作用機序

半夏厚朴湯は、以下の5種類の生薬から構成されます。生薬数の少なさは古方の特徴であり、各生薬の役割が明確で、作用の理解が容易です。

生薬名 分類 主な作用 役割
半夏(はんげ)化痰薬燥湿化痰・降逆止嘔・消痞散結君薬。咽喉の痰を化し、悪心嘔吐を鎮める
厚朴(こうぼく)理気薬行気消脹・燥湿化痰・降逆平喘臣薬。気滞を散じ胸脘の閉塞感を除く
茯苓(ぶくりょう)利水滲湿薬利水滲湿・健脾安神佐薬。水湿を利し、神経過敏を鎮める
蘇葉(そよう/紫蘇葉)解表薬解表散寒・行気寛中・解魚蟹毒佐使薬。気の滞りを解し、上焦の鬱を開く
生姜(しょうきょう)解表薬温中止嘔・解表散寒使薬。胃気を整え半夏の毒性を抑える

「理気化痰+降逆」という二重の作用

半夏厚朴湯の作用機序を東洋医学的に表現すれば、理気化痰(りきけたん)+降逆(こうぎゃく)の二重構造に集約されます。情志の鬱滞、すなわち精神的ストレスにより肝気が鬱結すると、気の流れが停滞し(気滞)、津液の輸布が阻害されて痰が生じます。この「気滞痰阻(きたいたんそ)」が咽喉部に固結したものが「梅核気」です。

本方では、半夏が痰を化して咽喉の閉塞感を解き、厚朴が滞った気を下方向に流して胸脘の張りを除きます。茯苓は脾を健やかにして痰の生成源を断ち、同時に心神を安んじて不安・動悸を鎮めます。蘇葉は芳香で気の鬱を開き、上焦に停滞した「気のかたまり」を発散させます。生姜は半夏の毒性(生半夏は刺激性が強い)を解毒しつつ、胃気を整えて悪心を防ぎます。

現代薬理学的知見

近年の薬理学研究では、半夏厚朴湯に複数の科学的作用が報告されています。第一に嚥下反射・咳嗽反射の改善で、咽頭や気管のC線維からのサブスタンスP放出を促進し、嚥下反射閾値を下げることが示されています。第二に抗不安作用で、セロトニン系・GABA系への調節作用が示唆されます。第三に消化管運動の調整作用です。これらの薬理プロファイルは古典的「理気化痰降逆」概念と整合しています。

こんな人に向いている — 適応となる体質

半夏厚朴湯が真価を発揮するのは、典型的な気滞痰阻証の患者さんです。証としては中間証(やや虚証寄り)に位置づけられ、体力中等度かやや低下した方が中心となります。以下のような状態が複数揃うとき、本方の適応と判断します。

  • 梅核気(ばいかくき)・咽喉頭異常感:咽の奥に何かが詰まった感じ、ボールが引っかかった感じ、貼りついた感じ。耳鼻咽喉科で異常なしと言われた
  • 不安・抑うつ傾向:漠然とした不安、ため息が多い、気分が晴れない、過敏
  • パニック発作・予期不安:突然の動悸・呼吸困難感、人混みや電車で発作
  • 嗄声(させい)・声のつかえ:声がかすれる、話し始めに引っかかる感覚
  • 胸脘の閉塞感:胸がつかえる、みぞおちが張る、ため息でひと息つく
  • つわり(妊娠悪阻):妊娠初期の悪心・嘔吐・食欲不振、匂い過敏
  • 機能性ディスペプシア・神経性嘔吐:ストレスで胃の調子を崩しやすい
  • 不眠(神経過敏型):考えごとで寝つけない、夜中に目覚めて再入眠困難
  • 高齢者の嚥下機能低下:むせやすい、食事中の咳、誤嚥既往

舌診では淡紅舌・白膩苔(はくじたい)または白滑苔、脈診では弦滑脈または弦細脈が典型的所見です。腹診では心下痞硬または心窩部の軽度抵抗、胸脇苦満は通常認めません(あれば柴朴湯を考慮)。

こんな人には不向き — 慎重投与・禁忌

半夏厚朴湯は比較的副作用が少ない処方ですが、以下のケースでは慎重投与または禁忌となります。

  • 極度の虚弱・著明な気虚:本方は理気作用が中心であり、長期使用で気を消耗させる懸念があります。著明な疲労感を伴う場合は補中益気湯や六君子湯の併用または変方を検討
  • 陰虚火旺・乾燥傾向:半夏・厚朴は燥性が強く、口渇・皮膚乾燥・乾燥性咽頭炎が著明な患者では症状を悪化させる可能性
  • 半夏アレルギーの既往:頻度は低いが、半夏含有製剤での皮疹・掻痒の既往がある場合
  • 重篤な肝障害・腎障害:投与は慎重に。定期的な検査値モニタリングを推奨
  • 妊娠中(つわり以外の目的):つわり治療では古来安全に用いられているが、それ以外の目的では産科主治医と相談

「不向き」という意味では、強い熱証(顔面紅潮・口渇強・舌紅苔黄・便秘)を呈する場合も本方単独では効果が乏しい傾向があります。半夏瀉心湯や柴胡加竜骨牡蛎湯、加味逍遙散など別処方の検討が必要です。

科学的エビデンス

半夏厚朴湯は、漢方処方の中でもエビデンスの蓄積が比較的進んでいる方剤の一つです。以下、領域別に代表的な研究を整理します。

嚥下反射改善・誤嚥性肺炎予防

本方の現代エビデンスで最も強固なのが高齢者の嚥下反射改善と誤嚥性肺炎予防です。Iwasaki K らの研究(J Am Geriatr Soc, 2007)では、脳血管障害後の嚥下障害高齢者に半夏厚朴湯を12週間投与し、嚥下反射潜時の有意な短縮、咳反射感度の改善、誤嚥性肺炎発症率の低下が報告されました。同グループは本方が咽頭粘膜のサブスタンスP濃度を上昇させ、嚥下反射閾値を低下させる機序を提唱しています。

サブスタンスPは迷走神経・舌咽神経のC線維終末から放出される神経ペプチドで、嚥下反射と咳反射の中枢を駆動します。脳血管障害後やパーキンソン病、加齢でサブスタンスP放出が低下すると不顕性誤嚥のリスクが高まります。半夏厚朴湯はこの神経ペプチド系を再活性化することで誤嚥を減少させます。日本老年医学会の高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015でも嚥下障害高齢者への選択肢として言及されています。

不安神経症・抑うつ・パニック障害

精神科領域でも、神経症性不安・機能性身体症状・軽度抑うつ症状に対し、本方単独またはSSRIへの上乗せ効果が検討されています。Hamaguchi らは機能性ディスペプシアに伴う不安症状に対し本方投与群で有意な改善を報告。パニック障害の予期不安や咽頭部の身体症状を主訴とする身体表現性障害でも臨床的有効性が示されています。作用機序としてはセロトニン系・GABA系調節に加えHPA軸の過剰活性化抑制が示唆されています。

機能性ディスペプシア・つわり

消化器領域では、機能性ディスペプシア(FD)とくにストレス関連型・心窩部痛症候群型に本方の有効性が報告されています。日本消化器病学会の機能性消化管疾患診療ガイドラインでも、漢方薬は心理社会的因子の関与が大きい症例での治療選択肢として位置づけられています。

つわりに対しては古典的第一選択処方の一つとされ、現代でも産科外来で頻用されています。妊娠初期の悪心・嘔吐・食欲不振・匂い過敏は「気逆+痰飲」病態であり本方の理論的適応と一致します。妊娠中の漢方使用は個別判断が必要ですが、本方は妊娠悪阻治療として長い使用実績があります。

副作用と注意点

半夏厚朴湯は、漢方薬の中でも副作用プロファイルが極めて良好な処方の一つです。市販後調査でも重篤な有害事象の報告は稀少です。それでも、以下の点には注意が必要です。

軽微な消化器症状

最も頻度の高い副作用は、悪心・胃部不快感・食欲低下・軟便といった消化器症状です。半夏や厚朴の燥性に胃が反応している場合が多く、食後服用に切り替える、生姜湯に溶かして温服する、一時的に減量するなどで対応可能です。本方が悪心を治す処方でありながら、まれに悪心を引き起こすという逆説的な現象は、患者の証が本方に合致していない(虚証や陰虚が強い)サインであることもあります。

甘草を含まないため偽アルドステロン症リスクが低い

半夏厚朴湯の大きな臨床的長所として特筆すべきが、甘草(かんぞう)を含まない点です。多くの漢方処方は甘草を含み、長期大量服用で偽アルドステロン症(pseudoaldosteronism)のリスクがあります。これは甘草のグリチルリチン酸が腎尿細管で11β-HSD2を阻害し、コルチゾールがミネラルコルチコイド受容体を活性化することで生じる、低カリウム血症・高血圧・浮腫・ミオパチーを呈する病態です。

半夏厚朴湯は構成5生薬のいずれにも甘草を含みません。このため、長期投与が必要な慢性疾患(梅核気・嚥下障害予防など)に安心して継続使用できるという大きなアドバンテージがあります。高血圧・浮腫傾向のある患者、利尿薬併用患者、高齢者、腎機能低下例においても、偽アルドステロン症のリスクなく使用できる点は、臨床上きわめて重要な特徴です。

その他の注意

  • 半夏含有処方の重複:六君子湯・小柴胡湯・半夏瀉心湯など他の半夏含有処方との併用では、生薬量の重複に注意
  • 間質性肺炎:頻度は極めて稀だが、漢方薬全般で報告がある。乾性咳嗽・発熱・呼吸困難の出現時は速やかに受診
  • 肝機能障害:長期投与例では3-6か月毎の肝機能検査が望ましい

糖尿病・GLP-1治療との併用

糖尿病診療の現場で、半夏厚朴湯は実は使用機会の多い処方です。糖尿病患者特有の三つの病態が、本方の適応と重なるためです。

GLP-1受容体作動薬の悪心・嘔気対策

セマグルチド(オゼンピック・リベルサス・ウゴービ)、リラグルチド(ビクトーザ・サクセンダ)、チルゼパチド(マンジャロ・ゼップバウンド)などのGLP-1/GIP受容体作動薬は、糖尿病・肥満治療の中核薬剤ですが、最大の課題が消化器症状です。導入初期や増量時に悪心・嘔気・胃もたれが20-40%で出現し、治療継続の最大の障壁となっています。

半夏厚朴湯は「気逆+痰飲」による悪心嘔吐の古典処方であり、GLP-1治療の消化器症状対策として臨床的に有用です。当院でもGLP-1導入時の悪心が強い患者に本方を併用し治療継続率を高める運用を行っています。半夏が降逆止嘔作用を持ち、厚朴が胃気の停滞を解くため、GLP-1の胃排出遅延に伴う上腹部症状を緩和します。

糖尿病性自律神経障害・嚥下機能

長期糖尿病患者では糖尿病性自律神経障害として食道運動異常、胃排出遅延(gastroparesis)、嚥下機能低下が出現することがあります。高齢かつ罹病期間が長い患者では不顕性誤嚥のリスクが高まり、誤嚥性肺炎が生命予後を左右する因子となります。

半夏厚朴湯のサブスタンスP誘導性嚥下反射改善作用は、こうした糖尿病合併嚥下機能低下にも有用です。脳血管障害合併糖尿病、パーキンソン病合併糖尿病、認知症合併糖尿病など嚥下ハイリスク群での予防的投与は理にかなった戦略です。

糖尿病患者の不安・うつ・治療アドヒアランス

糖尿病患者では、健常者と比較してうつ病・不安障害の有病率が約2倍高いことが系統的レビューで示されています。血糖管理への不安、合併症への恐怖、毎日の自己管理の負担など、糖尿病療養そのものが慢性的ストレス源となります。

半夏厚朴湯は、こうした糖尿病患者の軽度〜中等度の不安症状・身体化症状に対する補助療法として有用です。SSRI/SNRI導入をためらう患者、副作用で精神科薬を継続できない患者、身体症状が前景に立つ患者で有力な選択肢となります。HbA1c目標達成例でも不安や身体症状を訴える患者に本方を加えることで主観的QOLの改善を経験することが多くあります。

類似処方との使い分け

半夏厚朴湯と作用が類似する処方は複数存在し、症状のバリエーションによって使い分けが必要です。代表的な類方との比較表を示します。

処方名 ツムラ番号 構成の特徴 典型的な適応
半夏厚朴湯 16 5生薬(甘草なし) 梅核気・咽喉頭異常感・つわり・嚥下機能低下・軽度不安
柴朴湯(さいぼくとう) 96 半夏厚朴湯+小柴胡湯 胸脇苦満を伴う気管支喘息・咳嗽・神経症・不安が強い梅核気
茯苓飲合半夏厚朴湯 116 茯苓飲+半夏厚朴湯 胃もたれ・食欲不振を伴う梅核気、機能性ディスペプシア合併
柴胡加竜骨牡蛎湯 12 柴胡剤+鎮静薬(竜骨・牡蛎) 動悸・不眠・易驚・高血圧傾向の不安、胸脇苦満あり
加味逍遙散 24 柴胡剤+活血薬+清熱薬 女性のイライラ・不定愁訴・更年期症状・のぼせ
香蘇散(こうそさん) 70 蘇葉・香附子等の理気薬中心 軽度の気滞・神経性食欲不振・うつ気分

使い分けの実践的ポイント

第一に、胸脇苦満(季肋部の抵抗・圧痛)の有無が大きな分岐点です。胸脇苦満があれば柴胡剤併用方(柴朴湯、柴胡加竜骨牡蛎湯)、なければ半夏厚朴湯単独が第一選択となります。

第二に、消化器症状の併存を見ます。胃もたれ・食欲不振・心下痞硬が前景なら茯苓飲合半夏厚朴湯(116番)が至適です。これは半夏厚朴湯に茯苓飲(補気健脾+理気)を合方した処方で、消化器症状を伴う梅核気に絶妙にフィットします。

第三に、気管支症状(咳嗽・喘鳴)の有無です。喘息様症状、咳が出やすい、呼吸困難感がある場合は柴朴湯(96番)が優れています。これは小児喘息・成人気管支喘息のフォロー処方として保険収載されています。

第四に、女性のホルモン関連愁訴では加味逍遙散(24番)の方が適応する場合が多くあります。月経周期と症状の連動、のぼせ、ほてりがある場合は加味逍遙散を優先します。

FAQ — よくある質問

Q1. パニック障害に半夏厚朴湯は効きますか?

軽度から中等度のパニック障害、とくに身体症状(咽頭違和感・動悸・息苦しさ)が前景に立つ症例では、本方の単独または併用が有効な場合があります。ただし重症のパニック障害や広場恐怖を伴う症例では、SSRIや認知行動療法が第一選択であり、本方は補助療法と位置づけるのが妥当です。当院では精神科主治医と連携しながら、急性期の薬物治療に本方を上乗せして身体症状の改善を図る運用を行っています。

Q2. 子供にも使えますか?

使用可能です。小児の不登校に伴う身体症状(朝の腹痛、咽頭違和感、悪心)、緊張性嘔吐小児の不安症などに本方が用いられます。エキス顆粒は苦味がやや強いため、ココアや蜂蜜(1歳以上)と混ぜる、ゼリーオブラートで包むなどの工夫が有効です。用量は体重に応じて成人量の1/3〜2/3で開始し、効果と副作用を見ながら調整します。

Q3. 服用中に車の運転をしても大丈夫ですか?

半夏厚朴湯はベンゾジアゼピン系抗不安薬と異なり、明らかな鎮静作用や運転能力低下を引き起こす成分は含まれていません。日常診療で運転制限を設けることは通常ありません。ただし個人差があり、服用初期に眠気や集中力低下を感じる場合は無理をせず、症状が落ち着いてから運転するようにしてください。

Q4. SSRIや抗不安薬と一緒に飲めますか?

併用は基本的に問題ありません。半夏厚朴湯と精神科薬の臨床的に問題となる相互作用は報告されていません。むしろ、SSRI導入初期の悪心・食欲不振の軽減、ベンゾジアゼピン系薬剤の減量補助、抗うつ薬で改善しきれない身体症状の補完など、併用するメリットがある場面が多くあります。ただし精神科主治医に「漢方を併用したい」と必ず伝え、相談のうえで開始してください。

Q5. 長期に飲み続けても大丈夫ですか?

本方は甘草を含まないため、長期投与での偽アルドステロン症リスクが極めて低い処方です。梅核気・嚥下機能低下予防など慢性病態への長期使用にも比較的安心して使えます。ただし症状が改善した後も漫然と継続する必要はなく、3〜6か月ごとに減量・休薬の可否を主治医と相談することが推奨されます。長期投与例では半年に一度程度の血液検査(肝機能・腎機能・電解質)も望ましいでしょう。

処方を検討する方へ

半夏厚朴湯は、原因不明の咽喉違和感、検査で異常がない不安症状、嚥下機能の低下、つわり、機能性消化器症状など、現代医療がしばしば「異常なし」とラベリングしてきた領域に対して、千八百年前から確かな治療手段を提供してきた処方です。漢方処方の中でも副作用プロファイルが良好で、甘草を含まないため長期使用にも適し、糖尿病・GLP-1治療との併用も理論的に整合しています。

「耳鼻科で異常なしと言われたが咽の違和感が消えない」「GLP-1の悪心で治療を中断したくない」「高齢の家族が最近よくむせる」。こうした主訴の背景には本方が真価を発揮できる病態が潜んでいる可能性があります。糖尿病・内分泌・代謝・自律神経・心身症の交差点にある症状でお悩みの方は、まさぼ内科クリニック(板橋区上板橋)の漢方併用外来にご相談ください。糖尿病専門医として現代医学的精査を行ったうえで、東洋医学的弁証論治に基づく処方をご提案します。

まとめ

半夏厚朴湯(ツムラ16番)は『金匱要略』を出典とする千八百年の歴史を持つ古方で、半夏・厚朴・茯苓・蘇葉・生姜の5生薬から構成されます。「理気化痰+降逆」の二重作用により、咽喉頭異常感(梅核気)、不安・抑うつ傾向、つわり、機能性ディスペプシア、高齢者の嚥下反射改善・誤嚥性肺炎予防など現代医療の重要領域で確かなエビデンスを蓄積しています。

とりわけサブスタンスPを介した嚥下反射改善作用は老年医学領域での価値が高く、甘草を含まないため偽アルドステロン症リスクが低く長期投与に適する点は慢性疾患マネジメントの大きなアドバンテージです。GLP-1の悪心対策、糖尿病性自律神経障害合併嚥下機能低下、糖尿病患者の不安症状など糖尿病診療との接点も多く、現代の代謝内科医にとって使いこなしたい一方剤です。

「梅核気は半夏厚朴湯」と一義的に決めつけるのではなく、胸脇苦満や消化器症状、気管支症状、女性ホルモン関連の有無といった鑑別ポイントを踏まえて類方との使い分けを行うことが、本方を真に使いこなす鍵となります。

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本記事は、まさぼ内科クリニック飯田橋院 院長・小林 正敬 医師(医籍登録番号 第486214号)の監修のもと、公開時点で確認可能な学会ガイドラインおよび査読論文に基づいて作成されています。監修医師は 日本糖尿病学会 糖尿病専門医日本内科学会 総合内科専門医日本老年医学会 老年科専門医・指導医 の資格を有し、糖尿病・代謝疾患・老年医学を専門とする臨床医として実務に従事しています。

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信頼性開示の最終確認日:2026-05-14

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監修:小林 正敬 医師
日本糖尿病学会 糖尿病専門医 / 日本内科学会 総合内科専門医 / 日本老年医学会 老年科専門医・指導医
医籍登録番号:第486214号
公開日:2026-05-10 / 最終更新日:2026-05-10

参考文献

  • 張仲景『金匱要略』婦人雑病脈証并治第二十二
  • 日本東洋医学会編『漢方診療ガイドライン』
  • 日本老年医学会『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』
  • 日本消化器病学会『機能性消化管疾患診療ガイドライン — 機能性ディスペプシア(FD)』
  • 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』
  • Iwasaki K, et al. A pilot study of banxia houpu tang, a traditional Chinese medicine, for reducing pneumonia risk in older adults with dementia. J Am Geriatr Soc. 2007;55(12):2035-2040.
  • Iwasaki K, et al. The effects of the traditional Chinese medicine, “Banxia Houpo Tang (Hange-Koboku To)” on the swallowing reflex in Parkinson’s disease. Phytomedicine. 2000;7(4):259-263.
  • Oikawa T, et al. The traditional Japanese medicine hangekobokuto (Banxia-houpo-tang) suppresses food allergy. Phytomedicine. 2009;16(8):772-779.
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「高齢者の誤嚥性肺炎予防」
  • 浅田宗伯『勿誤薬室方函口訣』
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この記事を書いた人

まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 代表理事 / 院長。日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本糖尿病協会 糖尿病認定医/日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医/日本内科学会 認定医制度審議会 病歴要約評価委員/日本老年医学会 老年科専門医・指導医/日本抗加齢医学会 抗加齢専門医/日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医/ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター。医籍登録番号 第486214号。国立国際医療研究センター国府台病院で内科研修を始めた後、糖尿病内科の道に進み、現在は最新の薬物療法(GLP-1作動薬・チルゼパチド等)と、栄養・運動・漢方を組み合わせた包括的な糖尿病・代謝診療を実践しています。

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