第16回|5連休の旅程に、書かれていない最終日がある。

アイキャッチ:連休前夜。旅支度の鞄とピルケースを机に置き、赤丸のついた壁のカレンダーを眺める筆者

第16回|5連休の旅程に、書かれていない最終日がある。

執筆: 小林 正敬(こばやし まさたか) — まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 代表理事。糖尿病専門医・総合内科専門医。


旅程表のいちばん下には、印刷されていない一日がある。帰ってきた身体と仲直りする、切符のいらない最終日である。

アイキャッチ:連休前夜。旅支度の鞄とピルケースを机に置き、赤丸のついた壁のカレンダーを眺める筆者

診察室の卓上カレンダーを9月のページにめくったら、火曜日がひとつ、赤かった。9月22日である。祝日の名前は、ない。名前がないのに、赤い。敬老の日の9月21日と秋分の日の9月23日に挟まれて、あいだの平日がまるごと休みに昇格している——世に言うシルバーウィークというやつだ。今年は9月19日の土曜から23日の水曜まで、きれいな5連休。5連休のシルバーウィークは11年ぶりだそうで、旅行サイトは軒並み特集を組み、「有休2日で最大9連休」という見出しを、この夏、僕は何度見たか分からない。そして見出しを閉じるたび、頭の中は旅先で何を食べるかのほうへ勝手に移っている。診察室でこの原稿を書いている人間の頭の中が、まずこれである(汗)。

しかも今年は、暦の偶然がもうひとつ重なっている。連休初日の9月19日、名古屋でアジア競技大会が開幕する。日本で夏のアジア大会をやるのは1994年の広島以来、32年ぶり。11年ぶりの5連休と、32年ぶりの号砲が、同じ土曜日の上に乗っているのだ。カレンダーというのは、たいてい退屈な印刷物なのに、今年の9月のページだけは、ちょっとした天体ショーの趣がある。

先に断っておくと、今日は「連休中も節制しましょう」という話を書く気が、まったくない。楽しめばいいと思っている。全力で、である。そのうえで書きたいのは、連休が明けたあとの話だ。5連休の旅程表のいちばん下には、たいてい、印刷されていない一日が付いてくる。帰ってきた身体と仲直りする一日。今日はその一日の歩き方を、出発前に配っておきたいのだ。

目次

シルバーウィーク2026は、なぜ11年ぶりの5連休なのか

からくりは、祝日法という地味な法律の中にある。内閣府の祝日のページに、前日と翌日が祝日である平日は「休日とする」と、そのまま書いてある。もともとは昭和60年の改正で、5月3日と5日のあいだの4日を休みにするために作られた仕組みだ。それが9月で発動するには条件がいる。敬老の日は9月の第3月曜日と決まっていて、暦に合わせて毎年動く。いっぽう秋分の日は、地球の公転で決まる。人間の都合で動く祝日と、天文学で決まる祝日が、たまたま1日差まで接近した年にだけ、あいだの平日が繰り上がって5連休が生まれる。法律と天体の共作。大げさを承知で、飛び石の奇跡と呼びたくなる。

このめぐり合わせが、今年は11年ぶりに来た。次は2032年の見込みだそうで、逃すと6年待ちになる。

世間は、ちゃんと反応している。HISの予約動向調査では、シルバーウィーク期間の国内旅行の予約が前年比136.6%。行き先の上位は沖縄と北海道で、海外ではこの期間のバンコク方面が前年比595%という威勢のいい数字も出ていた。595%。……ほとんど暴騰である。「今年を逃すと2032年」と言われた瞬間、行かない理由のほうが説明を求められる空気になる。期間限定に弱いのは、スーパーの棚の前でも暦の前でも、人間はだいたい同じらしい。よく分かる。僕も休診の貼り紙の文面を、7月のうちから考えていた。

同じ土曜日に、32年ぶりの号砲が鳴る

連休初日の朝の新幹線ホーム。スーツケースを引く旅行者たちの列

もうひとりの主役の話もしておく。9月19日に開幕するアジア競技大会・愛知名古屋2026は、アジアの45の国と地域から選手が集まり、43競技を10月4日まで戦う。国内開催だから、時差はゼロ。W杯の決勝を明け方4時に見た記憶がまだ生々しい身としては、夜ふかしをしなくても間に合う国際大会というだけで、ずいぶん健康的な祭りに見える。

つまりこの5連休、日本は大きく二手に分かれる。飛行機や新幹線で遠くへ行く組と、ソファとテレビで名古屋に参加する組。旅の組は歩き回って食べ歩き、ソファの組は座ったまま声援と間食を送る。過ごし方は正反対なのに、連休が明けると、どちらの組にも同じ場所で会うことになる。僕の診察室だ。ここからは、その話をさせてほしい。

連休明けの外来で、毎年おなじ風景を見る

ゴールデンウィークの明け、盆の明け、正月の明け。連休の名前は変わっても、明けた週の外来の風景は、面白いくらい変わらない。

体重計に乗る前に、ひとこと添える人が増える。「先生、今日はちょっと、覚悟してます」。血糖の記録を出しながら、連休のページを手のひらで少しだけ隠すようにする人がいる。逆に、旅先の朝市の写真から見せてくれる人もいる。数値より先に、うにの軍艦の話をする人もいる(いい顔をしている)。

僕はあの時間が、実はけっこう好きだ。血糖や体重の記録には、その人の5日間が思いのほか正直に写っている。何時に起きて、何を食べて、どれだけ歩いたか。本人が言葉で語るより先に、記録のほうに旅程表が透けている。連休明けの外来は、日本でいちばん短い旅行記の朗読会のようなもので、僕は毎年、聴衆席にいる。

だから最初に立場を書いてしまう。連休明けの数値は、叱るための材料ではない。楽しんだことの、ただの記録である。読み方さえ間違えなければ、あれは治療の邪魔をしない。読み方の話はあとでやるとして、その前に、楽しみ方の話をしたい。順番として、そちらが先だろう。

旅先の食べ歩きを、止める気はない

旅の食事は、ふだんの食事と種目が違う。家の夕食が毎日のリーグ戦なら、旅先の名物は年に数回しか席の回ってこないトーナメントである。一発勝負の席にカロリー計算表を持ち込んでも、あまりいいことがない。

旅先の食べ歩きの理想は、たぶんこうだ。食べると決めた一皿を、いちばん腹の減った時間に、いちばんうまい状態で、敵でも討つような真剣さで正面から食べる。悔いなく食べた一皿は、量のわりに満足が長持ちする。逆にいちばん具合がよくないのは、歩きながらの「ついで食い」が夕方まで切れ目なく続いて、夜にはもう名物の味を覚えていない、という食べ方だ。散発の間食は、血糖の面でも思い出の面でも、燃費が悪い。

ふだんの食卓で「まあいいか」という調味料を使いすぎると、あとで身体に響く。ただ、旅の5日間に限っては、あれはご当地の名調味料だと思って構わない。大事なのは、かける皿を選ぶことだけ。名物には堂々とかける。移動中の売店の、なんとなくの一袋には、かけない。それだけで旅の収支はだいぶ変わる。

もうひとつ、旅には隠れた味方がいる。歩数だ。観光というのは不思議なもので、家では3,000歩の人が、城下町と水族館と市場を回った日には2万歩あるいている。食後に歩く、という外来でいちばん口にしている助言を、旅行者は頼まれなくても実行している。食べて、歩いて、また食べる。連休の旅は、身体の使い方としては、実はそう悪くない設計なのだ。悪くなるのは、たいてい帰ってからである。

ソファで名古屋に参加する組には、この味方がいない。中継は時差ゼロで健全だが、ソファの上の5日間は、出ていくほうが静かすぎる。せめて1競技ごとに立って、廊下なりベランダなりを2分歩く。運動の話ではなく、観戦の句読点の話だと思ってもらえればいい。例えがいちいちスポーツに寄っているのは、たぶん開幕前から名古屋に当てられているせいだ(笑)。

時差のない旅で、薬だけが時差ボケする

ここから少しだけ、医者の持ち場に降ります。長くはやらない。

国内の旅に時差はない。ないのだが、身体の中には小さな時差が出る。朝食が7時から9時半になり、昼は食べたり抜いたり、夜は宴会で2時間延びる。時計は東京のままでも、食事の時刻表だけが旅仕様に書き換わる。そして糖尿病の薬の一部は、時計ではなく食事に紐づいて働くように設計されている。

だから原則は単純で、袋に「食直前」と印字されている薬は、時刻ではなく食事に付けて動かす。食事が9時半なら、薬も9時半。逆にいちばんよくないのは、食事を抜いたのに薬だけ律儀に飲む、という組み合わせで、薬の種類によっては低血糖の側に振れる。観光の途中の低血糖は、景色も味も、その日の記憶ごと持っていく。ポケットにブドウ糖なり小さな甘いものなりをひとつ。旅の荷物でいちばん軽くて、いちばん働く一品である。

インスリンを使っている人には、保管の話が加わる。9月下旬は暦の上では秋でも、閉め切った車内やトランクは、まだ真夏の顔をしている。インスリンは高温に弱い。車に置き去りにせず、手荷物で連れて歩いてほしい。飲み薬は、旅程の日数プラス2日ぶん。予備の2日は、台風や欠航のための保険だ。

ここに書けるのは一般論までで、実際の調整は処方ごとに違う。出発前の外来で「連休、旅行に行くので」と一言もらえれば、その人の薬に合わせた時刻表を、3分で一緒に作れる。3分で済む相談を、5日間の不安のまま連れて歩くのは、もったいない。

それから、敬老の日に実家へ帰る人は、ついでに親の薬箱をもう一度のぞいてくるといい。夏に書いたお盆の薬箱の回の宿題は、秋の連休にもそのまま持ち越せる。お盆に開けそびれた茶箪笥の二段目は、敬老の日のためにまだそこで待っている。

連休明けの体重は、「リセット」の前に読み方がある

さて、帰ってきた。玄関に荷物を置いて、数日ぶりに体重計に乗る。1.5キロ増えている。ここで多くの人が「リセットしなきゃ」と口にする。連休明けの検索窓にも、リセットという言葉がずらりと並ぶ。

その前に、中身の仕分けをしたい。連休で増えた体重の初動には、水分と、肝臓や筋肉に補充された糖の在庫——グリコーゲンと呼ばれる燃料——のぶんが、かなり混ざっている。ごちそうが続くと、身体は糖と一緒に水を抱え込む。だから目盛りは派手に動く。ただしこのぶんは、時間割が元に戻れば数日で引いていく。脂肪がまるごと1.5キロ付くには、5日間の楽しみ程度では、実は食べ足りない。慌てて読む必要はない。1週間ふだんの暮らしをしてから、もう一度乗る。そこに残っている数字が、旅の本当の置き土産である。

血糖のほうも似ている。HbA1cという検査は過去1〜2か月の平均を映すので、5日間の宴では大きく動かない。動くとすれば、連休のあいだに崩れた時間割——起床、食事、歩数、就寝——が、10月になっても旅仕様のまま続いた場合だ。習慣というのは足音を立てずに居座る。5日間だけの客のつもりで招き入れた夜ふかしが、気づけば10月の隣に立っていたりする。勝負は連休の5日間ではなく、明けてからの2週間のほう。ここを取り違えて、連休中に我慢して、連休明けに気が抜ける、という逆の配分をしている人が、外来には案外多い。

「リセット」という言葉にも、ひとこと。連休明けに絶食だの一食置き換えだの、極端な取り消し作業を始める人がいるけれど、身体に取り消しボタンは付いていない。付いていないボタンを押そうとすると、たいてい反動で余計に食べる。やることは地味で、時間割を元に戻すだけ。起きる時刻を戻し、朝食を戻し、歩幅を戻す。歩き方の細かい話は速く歩く回に書いたので、そちらへ。

当院は糖尿病の保険診療が土台のクリニックで、自費のGLP-1の枠も置いている。連休明けは、この窓口への問い合わせが毎年少しだけ増える。始めるかどうかを決めるのはご本人だが、ひとつだけ添えておくと、5日間の思い出への罰として始める薬は、続かない。始めるなら、罰ではなく、この先の設計として。——窓口の話はここまで。壁のカレンダーに目を戻すと、あの赤い並びのまんなかに、まだ名前を呼んでいない祝日が座っている。

赤い並びの芯には、敬老の日がある

考えてみれば、この5連休の芯にいるのは敬老の日である。11年ぶりの連休も、予約の前年比136.6%も、元をたどれば、敬老の日という祝日が暦の上を歩いて秋分の日のとなりまで来てくれたおかげで成立している。旅行特集のどこを開いても敬老の日の顔があまり見えないのは、少し義理を欠く話だと思う。

敬老の日の週には、毎年、長生きの統計が出る。去年の発表では、100歳以上の人が全国で9万9763人。55年連続で増え続けていて、老人福祉法ができた1963年には153人だった。153人から9万9763人。今年の発表で10万人の大台に乗るかどうか、この記事が出るころには数字が出ているはずだ。

外来で90歳前後の方々を診ていて思うのは、長く生きている人ほど、食べることを面倒がっていない、ということだ。もちろん逆向きの因果——食べられるほど元気だから長く生きる——も混ざっているから、科学の顔はしない。しないけれど、うまいものの話をするときの90歳の目は、だいたい20代の目をしている。敬老の日に実家の食卓を囲む人は、数値の話より先に、その目を見てくるといい。長生きと食卓の関係について、たいていの教科書より雄弁だから。

4コマ漫画(縦・上から下へ):①駅のホームで「11年ぶりの、5連休。」②旅先のごちそうを前に「旅先のごはんは、別腹です」③診察室で医師「叱りません。楽しんだ証拠です」④玄関で歩きに出る「旅の最終日は、帰ってから始まる。」

連休のあとに効く、地味な5つ

  • 帰宅した夜に、翌朝の目覚ましだけ、ふだんの時刻に戻す。 時間割の再起動は、起床から始めるのがいちばん安上がりで、いちばん確実
  • 体重計は、帰宅の翌日ではなく1週間後に読む。 初動の数字には水分と燃料の在庫が混ざっている。読むのは引き潮のあとでいい
  • 冷蔵庫の土産は、夜ではなく朝に回す。 同じ一切れでも、このあと動く時間帯に食べるほうが、身体の扱いがうまい
  • 薬の残りを、連休最終日のうちに数える。 連休明けの薬局は混む。「明日から行こう」の明日は、連休のあとだと逃げ足が速い
  • 観戦組は、1競技ごとに2分だけ立つ。 アジア大会は10月4日まで続く。ソファの句読点は、多いほど効く

どれも、荷ほどきの続きみたいな項目ばかりだ。ただ、連休の良し悪しは、5日間の中身より、明けてからの2週間で決まる。そう思って並べ直すと、この地味さがちょうどいい塩梅に見えないだろうか。見えなくても、効きます。

9月24日の朝に

人間を人間にしたのは、たぶん火にかけた鍋だ。旅から帰った翌朝ほど、それを実感する朝はない。湯を沸かして、味噌汁なり卵かけごはんなりの湯気が立ちのぼった瞬間に、旅は終わって、日常が再開する。あの一杯は、暦がやってくれない仕事を、台所が黙って代行しているのだと思う。

連休は、取り消すものでも、取り返すものでもない。荷ほどきするものだと僕は思っている。かばんの中身を全部出して、洗うものは洗い、しまうものはしまい、土産は然るべき棚に置く。身体のほうの荷ほどきも同じ手順でいい。時間割を戻し、体重計は1週間寝かせ、記録は隠さずに外来へ持ってくる。楽しかった5日間を、なかったことにする必要は、どこにもないのだ。

9月24日の木曜日、有休を取った人はまだ旅の中で、取らなかった僕は、いつもの時間に走って、いつもの時間に診察室の椅子に座っている。名古屋の熱戦は10月4日まで続いているから、待合室のテレビには、まだ祭りの続きが映っているはずだ。大会そのものの話は、競技が始まってから、あらためてこの場所で書くつもりでいる。

その日の外来に、日焼けした顔で旅行記の続きを持ってくる人がいたら、僕はたぶん、数値より先に、何がいちばんうまかったかを聞く。

旅から帰った夜。開いたままのスーツケースと土産の袋、壁際の体重計



受付に貼る「9月19日から23日まで休診します」の紙を、今日書きました。事務的な文面のあとに一行足すかどうかで、柄にもなく10分悩みまして(汗)。医療機関の貼り紙に「よい連休を」と書いていいものか、前例をあまり見たことがない。ただ、本文で6,000字も「楽しんでいい」と書いた人間が、貼り紙でだけ澄ました顔をするのも妙な話です。結局、書き足しました。「よい5連休を。お土産の話は、連休明けの診察室で」。うちの掲示物の中では、処方箋の次くらいに、読み返してもらえる一枚になる気がしています。

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この記事を書いた人

まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 代表理事 / 院長。日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本糖尿病協会 糖尿病認定医/日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医/日本内科学会 認定医制度審議会 病歴要約評価委員/日本老年医学会 老年科専門医・指導医/日本抗加齢医学会 抗加齢専門医/日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医/ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター。医籍登録番号 第486214号。国立国際医療研究センター国府台病院で内科研修を始めた後、糖尿病内科の道に進み、現在は最新の薬物療法(GLP-1作動薬・チルゼパチド等)と、栄養・運動・漢方を組み合わせた包括的な糖尿病・代謝診療を実践しています。

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