マンジャロやウゴービで痩せると筋肉まで落ちるのか——結論は、減った体重の約75%が脂肪、約25%が脂肪以外。この割合は薬を使わなかった群でもほぼ同じでした。薬の副作用ではなく、体重を減らす行為に付いてくる内訳です。変えられるのは中身の寄せ方だけで、効くのはたんぱく質と筋トレの2つです。
早見表——GLP-1で減量中に見るべき5つの物差し
体重が何kg減ったかは、中身について何も教えてくれません。ご自宅で測れる次の5項目を並べてください。
| 物差し | 目安 | 外れたときの動き |
|---|---|---|
| 減量ペース | 月に体重の1〜2% | 自己流の食事制限の上乗せをやめる |
| たんぱく質 | 毎食に主菜1品(体重1kgあたり1日1.0〜1.2g) | 主食より先に主菜を口に入れる |
| 筋トレ | 週2〜3日(自重でも可) | 痛むなら種目を変える。中止はしない |
| 握力 | 開始時の値を維持する | 男性28kg・女性18kg未満なら受診を推奨。増量ペースの見直し対象 |
| 5回立ち上がり | 12秒未満 | 12秒以上なら受診を推奨。筋力低下が動作に出ている段階 |
握力28kg/18kg、12秒はサルコペニア診断基準(AWGS2019)のカットオフです。高齢者向けの値なので、若い方は「開始時の値から落ちていないこと」が実質的な物差しです。
減った体重の中身——約4分の1は脂肪以外
減量では、脂肪量と除脂肪量(脂肪以外のすべて=筋肉・水分・内臓・骨など)が同時に減ります。内訳を実測したのが、チルゼパチドの大規模試験SURMOUNT-1の体組成サブスタディです。160人が開始時と72週後にDXA検査を受けました。
72週で体重21.3%、脂肪量33.9%、除脂肪量10.9%の減少。プラセボ群は5.3%・8.2%・2.6%。ここだけなら「薬で除脂肪量が1割減った」と読めます。重要なのは次の一文です。
「減った体重のうち、およそ75%が脂肪量、25%が除脂肪量だった。これはチルゼパチド群でもプラセボ群でも同じだった」——SURMOUNT-1 体組成サブスタディ要旨より(訳)
薬を使っても使わなくても、内訳は同じ4分の3対4分の1。筋肉を狙って削る薬ではありません。同時に「GLP-1なら筋肉は落ちない」も誤りです。落ち方があらゆる減量と同じ、というだけです。
「除脂肪量が減った」と「筋肉が落ちた」は同じではない
除脂肪量とは体重から脂肪を引いた残り全部で、筋肉の量そのものではありません。水分・グリコーゲン(筋肉や肝臓に蓄えた糖)・内臓の重さを含みます。体重が2割減れば骨格や内臓も軽くなり、糖質が減ればグリコーゲンと結合水が数kg抜けます。減少の相当部分は、小さくなった体に見合った縮小であって機能の低下ではありません。脂肪量33.9%減・除脂肪量10.9%減ということは、体に占める脂肪の割合自体は下がっています。
だから判断は「量」ではなく「力」で行います。体重が8kg減り「筋肉量が2.4kg減った」と体組成計の履歴を見せてくださる方は、外来で毎月おられます。その場で握力を測ると、開始時とほとんど変わっていないことが大半です。私が体組成計の数字だけを根拠に薬を止めることはありません。握力と5回立ち上がりを測り直し、落ちていれば介入、落ちていなければ食事記録を先に見ます。
運動を足すと、減った体重の中身が変わる
薬に運動を足すと、減る総量だけでなく「何が減るか」が変わります。デンマークの1年間の無作為化試験は、低カロリー食で13.1kg減量した195人を、運動のみ・GLP-1受容体作動薬(リラグルチド)のみ・併用・プラセボの4群で追跡しました。
体重の減りが最大だったのは併用群ですが、注目は体脂肪率です。併用群は体脂肪率が3.9ポイント低下し、運動のみ1.7・薬のみ1.9ポイントの約2倍でした。体重が最も減った群で低下幅まで最大——減った体重の中身が脂肪側に寄っていたのです。HbA1c・インスリン感受性・心肺体力が改善したのも併用群だけでした。関節に不安があっても組める種目は関節を守るダイエット筋トレの記事にまとめました。
たんぱく質と筋トレ——外来で実際に出している指示
この薬の使用中は食事の総量が自然に減るため、たんぱく質だけが意図せず不足します。食欲が落ちた状態で食べたいものだけ食べると、主菜が最初に消えるからです。
私が出す指示は2つです。1つ目、順番を「主菜から」に変える。量を増やせと言っても入りません。枠が限られているなら、そこを先にたんぱく質で埋めます。2つ目、1日を4〜5回に割る。卵1個・豆腐半丁・ヨーグルト1個の単位で積むほうが、1食20gを狙うより実行率が高い。目安は体重1kgあたり1日1.0〜1.2g、ただし腎機能が保たれている方の話です。eGFRが下がっている方に、私はたんぱく質を増やす指示を出しません(eGFRの意味/PFCバランス)。
筋トレは週2〜3日。厚生労働省の「身体活動・運動ガイド2023」も成人・高齢者に週2〜3日を推奨し、自重でもよいと示しています。面談で食事記録を開き、主菜のない日が続いて筋トレも空白なら、私はその月の増量を見送ります。ペースを上げても中身が悪くなるだけです。
見落としやすい落とし穴
1つ目、家庭用体組成計の「筋肉量」を真に受けること。微弱な電流の通りにくさから推定するため、体内の水分量に左右されます。使用中は食事も飲水も減るので、筋肉が変わっていなくても「2kg減った」と出ます。朝の排尿後・飲食前に条件を固定してください。
2つ目、薬の上に自己流の食事制限を重ねること。この薬はもともと食欲を下げます。そこへ糖質制限や断食を重ねると、たんぱく質もエネルギーも足りないまま体重だけが速く減ります。SURMOUNT-1のペースは72週で約21%、月あたり約1.3%でした。除脂肪量の減少が本当に問題になるのは、自分でその倍以上に加速させたときです(減量カロリー計算ツール)。
3つ目、中止のときに何も準備しないこと。体重が戻る局面では脂肪が先に、多く戻ります。同じ体重に戻っても、体脂肪の割合は開始前より高くなり得ます。やめ方の設計は、始め方と同じかそれ以上に体組成を左右します(GLP-1製剤の比較と選び方)。
よくあるご質問
Q1. GLP-1をやめたら、減った筋肉は戻りますか?
A. 戻り方に偏りがあります。何もしないまま体重が戻ると、脂肪が先に、多く戻ります。繰り返すほど、同じ体重でも体脂肪の割合が高い体になります。中止を考える段階でこそ、筋トレとたんぱく質を先に固めてから減薬に入ってください。
Q2. 吐き気があってプロテインが飲めません。たんぱく質はどう確保しますか?
A. 粉末のプロテインは粘度と甘さで気分が悪くなりやすく、投与初期には向きません。卵・豆腐・ヨーグルト・ツナ缶など冷たくて量の少ないものに替え、1日4〜5回に分けて5〜10gずつ積んでください。
Q3. 家の体組成計で筋肉量が2kg減りました。すぐに薬をやめるべきですか?
A. その数字だけで判断しないでください。家庭用の体組成計は微弱な電流の通りにくさから推定するため、体内の水分量に強く影響されます。使用中は食事も飲水も減り、筋肉が変わらなくても減ったと表示されます。まず握力と5回立ち上がりで判断を。
Q4. 有酸素運動と筋トレ、どちらを優先すべきですか?
A. 筋肉を守る目的なら筋トレが優先です。有酸素運動は消費カロリーと心肺機能には効きますが、筋肉量を保つ刺激としては弱いためです。まず週2〜3日の筋トレを確保し、余力があれば歩行を足してください。
Q5. 高齢の親がGLP-1で減量中です。サルコペニアが心配です。
A. 高齢の方は、減量そのものより減り方の管理が重要です。筋肉の予備が少なく、食が細くなればたんぱく質不足に直結します。開始前に握力と5回立ち上がりを測って基準値を残し、以後は月1回同条件で。握力が男性28kg・女性18kg未満、または12秒以上なら受診をご検討ください。
落ちるかどうかではなく、落とさない設計があるかです
「GLP-1で筋肉は落ちますか」への正確な答えは、「減量である以上は落ちる。ただし、たんぱく質と筋トレで中身は変えられる」です。二択で語る説明は、どちらの側も正確ではありません。
体組成計の数字が気になって続けられない方、自己流の食事制限を重ねている方は、一度ご相談ください。当院では握力・食事記録・減量ペースを見ながら増量の可否を判断します。整形外科専門医・スポーツ医も在籍しています。GLP-1受容体作動薬については保険・自費どちらの可能性も含めてご案内します。オンライン診療にも対応しています。

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