健診表のeGFR(イージーエフアール)は、腎臓の「ろ過能力の残り」を示す数値です。私は普段、外来と透析室の両方で腎臓を診ています。透析室で出会う方の多くは、数年前の健診で「60を少し切ったくらいだから大丈夫」と考えて放置した過去を持っています。この数値は、下がりきる前に気づけば打つ手が多い。まず数値帯ごとの意味を早見表で示します。
eGFR 数値帯早見表
| eGFR | 位置づけ(CKD区分) | 次の一歩 |
|---|---|---|
| 90以上 | 正常または高値(G1) | 年1回の健診を継続。尿蛋白が出ていないかは毎回確認 |
| 60〜89 | 正常〜軽度低下(G2) | 多くは経過観察でよい帯。ただし尿蛋白があれば話は別 |
| 45〜59 | 軽度〜中等度低下(G3a) | かかりつけ内科で管理を開始。尿蛋白の確認・血圧血糖の目標設定・薬の用量見直し |
| 30〜44 | 中等度〜高度低下(G3b) | 腎臓内科への紹介が推奨されるライン |
| 15〜29 | 高度低下(G4) | 腎臓専門医の管理下で進行抑制と将来の備えを並行する |
| 15未満 | 末期腎不全(G5) | 透析や移植を含む腎代替療法の検討段階 |
この表は成人の一般的な目安です(日本腎臓学会のCKD重症度分類に基づく)。慢性腎臓病(CKD)かどうかは、この数値が3か月以上続くかと尿蛋白をあわせて判断します。1回の数値だけで確定するものではありません。
eGFRは「腎臓のろ過能力の推算値」——1点だけ弱点がある
eGFRは、血液中のクレアチニンという物質の濃度と年齢・性別から計算した、腎臓のろ過能力の推算値です。100点満点のテストのように読めて便利なのですが、1つ弱点があります。クレアチニンは筋肉から出る物質だということです。だからこそ私は、初診では必ず体格と筋肉量を見てから、この数値を読むようにしています。
つまり、筋肉量の多い方(トレーニング習慣のある方)は実際より低く=悪く出ます。逆に筋肉量の落ちた高齢の方は実際より高く=良く出ます。外来で「ジムに通い始めたら腎臓が悪化した」と青ざめて来られた方のeGFR低下が、実は筋肉量の増加による見かけの変化だったことがあります。疑わしいときは、筋肉量の影響を受けないシスタチンCという検査で確認します。数値が急に動いたときは、慌てる前にこの可能性も頭に置いてください。
60〜89——「60を切りそう」で慌てない。見るべきは尿蛋白
この帯は年齢相応の範囲であることが多く、それだけなら病気ではありません。ただし、ここで必ず確認してほしいのが尿検査(尿蛋白・尿アルブミン)です。
腎臓の予後を決めるのは、eGFRの数値単独ではなく「eGFR×尿蛋白」の組み合わせです。eGFRが80あっても尿蛋白が3か月以上続けば、それだけで慢性腎臓病(CKD)に該当します。「eGFRが60以上だからセーフ」ではないのです。また糖尿病のある方では、eGFRが下がるより先に尿アルブミンという形でサインが出ます。健診でeGFRだけ見て尿検査の欄を見ていない方が本当に多い。両方セットで読む習慣をつけてください。健診項目全体の読み方は健診結果インタプリタで確認できます。
45〜59——管理を始める帯。薬の量が変わることがある
eGFRが60を3か月以上下回ると、慢性腎臓病(CKD)に該当します。この帯でやることは3つです。
第一に、原因の評価。高血圧・糖尿病・加齢・腎炎など、何が腎臓に負担をかけているかを特定します。第二に、血圧と血糖の目標を決めて守ること。この2つが進行抑制の柱です。第三に、飲んでいる薬とサプリの総点検。腎機能に応じて減量が必要な薬は多く、例えば糖尿病でよく使うメトホルミンはeGFRが30を切ると使えません。市販の痛み止め(NSAIDs)の常用も腎臓には負担です。
食事面では減塩が第一歩になります。具体的な進め方は減塩で痩せる完全ガイドとCKDステージ別の食事ガイドに、記録の道具は腎機能管理ツールにまとめてあります。
45未満——腎臓内科へ。「まだ症状がないから」が一番危ない
eGFRが45を下回ったら、腎臓内科への紹介が推奨されるラインです(尿蛋白が多い場合は、もっと早い段階でも紹介対象になります)。なお40歳未満の方は基準がより厳しく、eGFRが60を下回った時点で紹介対象です。
ここで知っておいてほしいことがあります。腎臓は、かなり進行するまで自覚症状をほとんど出しません。むくみ・だるさ・夜間の尿の増加に気づく頃には、G4〜G5まで進んでいることが多いのです。透析室で「もっと早く来ていれば」という言葉を何度も聞いてきました。症状がないうちに専門医につながること。それがこのラインの意味です。
一方で、45を切っても打つ手はあります。ご自宅での減塩を含む血圧・血糖の管理に加えて、近年はSGLT2阻害薬をはじめ腎臓を保護する薬の選択肢が増え、進行を緩やかにできる時代になりました。糖尿病を併発している方の治療設計は当院の得意分野です。診察のうえで最適な管理をご提案しますので、健診結果を持ってご相談ください。
eGFRは1回の点数ではなく、数年単位の「傾き」で読みます。傾きを緩やかにすることが、腎臓を守る治療のすべてです。
数値の落とし穴——一時的に下がるeGFR
eGFRは体調によって上下します。慢性の低下と混同しやすい代表例を挙げます。
- 脱水:夏場や下痢・発熱のあとの採血では低く出ます。水分をとって再検査すると戻ることがあります
- 薬剤:市販の痛み止め(NSAIDs)の連用、一部の胃薬・抗菌薬などで一時的に下がることがあります
- 激しい運動の直後:クレアチニンが上がり、見かけ上悪化します
1回の悪い数値で絶望する必要はありません。ただし「戻ったから大丈夫」ではなく、下がりやすい腎臓であるというサインとして、条件を整えて再検査することが大切です。
よくあるご質問
Q1. eGFRが58でした。腎臓病ですか?
A. 1回の58だけでは決まりません。60未満が3か月以上続く場合に慢性腎臓病(CKD)と判断します。まず尿蛋白の有無を確認し、3か月後に再検査してください。年齢によっては加齢による低下の範囲のこともありますが、若い方の50点台は放置しないでください。
Q2. 下がったeGFRは回復しますか?
A. 脱水や一部の薬による一時的な低下は戻ることがあります。一方、慢性腎臓病として時間をかけて失われた機能は基本的に戻りません。だからこそ、残っている機能を守る治療が中心になります。
Q3. 筋トレをしているとeGFRが悪く出ると聞きました。本当ですか?
A. 本当です。eGFRは筋肉由来のクレアチニンから計算するため、筋肉量が多い方は実際より低く、筋肉量が少ない高齢の方は実際より高く出ます。疑わしい場合はシスタチンCという別の検査で確認できます。
Q4. eGFRが低いと言われたら何科に行けばよいですか?
A. まずはかかりつけの内科で、尿検査とあわせた評価を受けてください。eGFRが45を下回る場合や尿蛋白が多い場合は、腎臓内科への紹介が推奨されるラインです。
Q5. eGFRはどのくらいの頻度で測ればよいですか?
A. 60以上で尿蛋白がなければ年1回の健診で十分です。45〜59は6か月〜1年ごと、45未満は主治医の指示に従い3か月ごとが目安です。数値そのものより、数年単位でどれくらいのペースで下がっているか(傾き)を見ることが大切です。
健診結果の「腎臓の欄」、尿検査とセットで見せてください
eGFRは、症状が出る何年も前に腎臓の異変を教えてくれる数少ない手がかりです。60を切った方、尿蛋白を指摘された方、糖尿病があってeGFRが下がり始めた方は、健診結果を持って一度ご相談ください。当院では腎臓と糖尿病の両面から、進行を抑える管理を設計します。対面のほか、オンライン診療にも対応しています。
この記事は「健診の数値の読み方」シリーズの1本です。健診結果の各項目を数値帯ごとに読み解く記事をシリーズ一覧にまとめています。気になる項目をその場で確かめたい方は健診結果インタプリタもお使いください。
参考文献
- 日本腎臓学会『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』(CKD重症度分類・かかりつけ医から腎臓専門医への紹介基準)
- 日本腎臓学会『CKD診療ガイド』
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』(糖尿病性腎症・腎機能に応じた薬剤選択)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「慢性腎臓病(CKD)」
- メトホルミン製剤 添付文書(腎機能による投与制限)

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