更年期障害の漢方治療完全ガイド|ホットフラッシュ・不眠・うつ・ED・男性更年期も解説

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「ホットフラッシュで仕事中も汗が止まらない」「些細なことで涙が出る」「乳がん既往でホルモン補充療法(HRT)が使えない」「夫が50代になって急にやる気を失った」――更年期障害は女性だけの問題ではなく、男性のLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)も含めた中高年期共通のテーマです。

HRTは更年期症状の第一選択ですが、乳がん既往・血栓症・本人の希望でHRTを選択できないケースは少なくありません。男性更年期では、テストステロン補充療法(TRT)も前立腺がん既往例や多血症例では使用できません。こうした「標準治療が選択できない/効果が不十分な/副作用で継続できない」更年期患者に対し、漢方薬は単独でも併用でも有用な選択肢になります。

糖尿病専門医として更年期と糖尿病が重なる症例を多く担当してきた経験から、本稿では更年期障害の漢方治療を「女性更年期の体質タイプ別」「男性更年期(LOH)」「糖尿病合併更年期」に分けて体系的に解説します。HRT・SSRI・抗うつ薬との併用も実臨床に即して整理します。

目次

更年期障害の現代医学的理解――ホルモン変動と自律神経失調

女性の更年期は閉経の前後5年間(およそ45-55歳)と定義され、卵巣機能の低下によりエストロゲン(E2)が急激に減少し、視床下部・下垂体・卵巣のフィードバック調整が破綻します。視床下部の体温調節中枢が不安定になることでホットフラッシュ(血管運動症状)が出現し、睡眠障害・抑うつ・QOL低下を引き起こします。重症度評価にはSMI(Simplified Menopausal Index)が用いられ、35以上で中等症、50以上で重症と判定します。

男性更年期(LOH症候群)は、加齢に伴うテストステロン分泌低下により出現します。日本泌尿器科学会では、AMSスコア37点以上かつ遊離テストステロン8.5pg/mL未満を診断基準としています。症状は「身体症状(疲労・関節痛・寝汗)」「精神症状(抑うつ・意欲低下)」「性機能症状(性欲低下・ED・朝勃ちの消失)」の3群に分類され、女性の更年期と重なる部分が多くあります。

自律神経失調も更年期の中核病態です。エストロゲンとテストステロンはいずれも自律神経の安定化に寄与し、ホルモン低下は交感神経優位を惹起します。漢方医学は「気・血・水」という自律神経・血流・体液バランスの概念で病態を捉えるため、自律神経失調を主体とする更年期症状と極めて親和性の高い治療体系です。

女性更年期 体質タイプ別の漢方処方

女性更年期の漢方治療では、訴えの中核(ホットフラッシュか/抑うつか/不眠か)と体質傾向(実証か虚証か、瘀血か陰虚か)を組み合わせて方剤を選びます。日本産科婦人科学会GLでは更年期障害の漢方三大処方として「加味逍遙散」「当帰芍薬散」「桂枝茯苓丸」が挙げられており、本稿ではこれを軸により広い臨床像に対応する処方を解説します。

気滞気鬱タイプ――加味逍遙散・四逆散

「イライラ」「抑うつ」「胸のつかえ」「ため息が多い」「症状が日内変動する」という訴えは、漢方では肝鬱気滞(肝の気の流れの停滞)と捉えます。更年期障害でもっとも頻度が高いタイプで、月経前症候群(PMS)から連続して悪化する経過を取ることも多いのが特徴です。

加味逍遙散(かみしょうようさん)は、更年期障害の漢方第一選択といえる方剤です。柴胡・薄荷で肝の気を巡らせ、当帰・芍薬で血を養い、牡丹皮・山梔子で虚熱を冷ます構成で、「のぼせ・冷え・イライラ・不眠・抑うつ」という更年期の中核症状をすべてカバーします(加味逍遙散の完全ガイド)。複数のRCTでホットフラッシュ・SMIスコア改善が報告されており、HRT非適応例の第一選択として日本産科婦人科学会GLにも記載されています。

四逆散(しぎゃくさん)は加味逍遙散より実証寄りで、強いストレスにより手足の冷え・腹直筋の緊張・季肋部の張りを呈する方に用います。柴胡・芍薬・枳実・甘草の4味からなる傷寒論由来の古典処方で、「ストレスでみぞおちが詰まる」「緊張すると手足が冷たくなる」という訴えに合致し、職場でストレスを抱える40-50代女性に頻用されます。

瘀血タイプ――桂枝茯苓丸・通導散

「のぼせと冷えが激しい」「下腹部痛」「月経時の血塊」「肩こり頭痛」「皮膚のくすみ」「便秘」という訴えは、漢方では瘀血(血の停滞)と捉えます。比較的体力のある実証タイプの更年期女性に多く、舌下静脈の怒張・舌の暗紫色・腹診での臍傍圧痛が客観所見となります。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)は瘀血の代表処方で、ホットフラッシュ・のぼせ・肩こり・月経痛を伴う更年期障害に頻用されます。桂皮・茯苓・牡丹皮・桃仁・芍薬の5味で構成され、血の巡りを改善し瘀血を散らします(桂枝茯苓丸の完全ガイド)。糖尿病合併瘀血では、末梢循環改善・微小血管合併症予防の補助として有用です。

通導散(つうどうさん)は桂枝茯苓丸より強力に瘀血を散らす実証向けの処方です。大黄・芒硝を含むため便秘を伴う瘀血タイプに合致し、「下腹部の張り・便秘・のぼせ・肩こり」が強い更年期女性に用います。虚弱体質には不向きです。

血虚+瘀血タイプ――温経湯・当帰芍薬散

「冷え性」「皮膚乾燥」「月経過少または不順」「不妊歴」「貧血傾向」「疲れやすい」という訴えは、漢方では血虚(血の不足)に瘀血が加わった状態と捉えます。痩せ型の虚証女性、慢性疾患を持つ方、出産経験のない方、過度なダイエット歴のある方に多いタイプです。

温経湯(うんけいとう)は、血虚と瘀血が併存し、特に「下半身の冷え・皮膚や口唇の乾燥・掌のほてり」を呈するタイプに最適です。当帰・川芎・芍薬・人参・桂皮・呉茱萸など12味の構成で、血を補い・温め・巡らせる作用を持ちます。閉経前後の月経不順、更年期の手足の冷え+顔のほてりという矛盾症状に効果的です。

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、虚弱体質・冷え性・むくみ・月経不順を呈する女性に汎用される方剤です。当帰・芍薬・川芎で血を養い、白朮・茯苓・沢瀉で水滞を取る構成で、「貧血気味で冷えてむくむ」更年期女性の代表処方です(当帰芍薬散の完全ガイド)。慢性的に体力が低下した方に長期投与しやすい処方です。

神経症状優位タイプ――加味帰脾湯・抑肝散・柴胡加竜骨牡蛎湯

「不眠」「抑うつ」「不安」「動悸」「易怒性」「物忘れ」が前面に出るタイプでは、神経症状を中心に組み立てます。更年期と心療内科的問題が重なる場合に用いる処方群です。

加味帰脾湯(かみきひとう)は、虚弱体質で抑うつ・不眠・健忘・食欲不振を訴える方に最適です。気血両虚に肝鬱を伴う病態を一剤でカバーでき、「更年期+うつ+不眠+疲労」という臨床像の代表処方です。HAMD(うつ評価尺度)とPSQI(睡眠質指標)双方を改善することが報告されており、SSRIを躊躇するケース、SSRI処方済みだが残遺症状がある場合の併用候補としても優れています。

抑肝散(よくかんさん)は、神経の高ぶり・易怒性・歯ぎしり・夜間の不穏を呈する方に用います。釣藤鈎・柴胡を中核とし、グルタミン酸神経系の過剰興奮を抑制し5-HT1A受容体を介した抗不安作用を示します(抑肝散の完全ガイド)。

柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は、体力中等度以上で「胸脇苦満・臍上悸・動悸を伴う不安・悪夢」を呈する実証タイプに用います。動悸・不安・不眠の3症状が同時に強い場合の代表処方で、男性のストレス性LOHにも頻用されます。

陰虚火旺タイプ――六味丸・三物黄芩湯

「強いほてり」「手足のほてり」「口渇」「寝汗」「乾燥肌」「腰痛」「早朝覚醒」という訴えは、陰虚火旺(陰液不足による虚熱亢進)と捉えます。閉経後数年経過した方、糖尿病合併例、慢性疾患による消耗を伴う方に多いタイプです。

六味丸(ろくみがん)は、地黄・山茱萸・山薬・茯苓・牡丹皮・沢瀉の6味からなる腎陰虚の基本方剤です。「ほてり+口渇+腰痛+早朝覚醒」という典型的な陰虚像に合致し、糖尿病合併更年期では特に重要な処方です。糖尿病自体が漢方では「消渇」と呼ばれ腎陰虚の病態を含むため、更年期症状と糖尿病コントロールの双方に寄与します。

三物黄芩湯(さんもつおうごんとう)は、産後・更年期に「手足のほてりが特に強く、不眠・煩躁を伴う」場合に用いる古典処方です。黄芩・苦参・地黄の3味のシンプルな構成で、強力な清熱作用を持ちます。「手のひら足の裏がほてって眠れない」「夜になると体が燃えるよう」という訴えに合致し、加味逍遙散で効果不十分な強い陰虚火旺に切り札的に用いられます。

男性更年期(LOH症候群)への漢方アプローチ

男性更年期の漢方治療は、女性更年期に比べて知名度が低いものの、AMSスコア中等症以下で「TRTを希望しない/前立腺がん既往でTRTが選択できない/TRT施行中で残遺症状がある」患者には極めて有用な選択肢です。日本泌尿器科学会のLOH症候群診療の手引きでも、漢方薬は症状緩和の補助療法として記載されています。「腎虚(生殖機能・骨・脳の老化)を補う」ことを軸に、随伴症状(疲労・抑うつ・冷え・不眠)に応じて方剤を組み合わせます。

八味地黄丸――LOHの基礎処方

八味地黄丸(はちみじおうがん)は、地黄・山茱萸・山薬・茯苓・牡丹皮・沢瀉に桂皮・附子を加えた8味で構成され、腎陽虚を補う代表処方です。「下半身の冷え・腰痛・夜間頻尿・ED・下腹部の力なさ(小腹不仁)」というLOHの中核症状に合致し、男性更年期の第一選択といえます。50-60代男性で「最近疲れやすい・夜中に2回以上トイレに起きる・朝勃ちが消失した・下半身に力が入らない」と訴える場合、良い適応となります(八味地黄丸の完全ガイド)。糖尿病合併LOHでは、糖尿病性ED・神経障害・夜間頻尿の改善にも寄与します。

牛車腎気丸――より重症のLOHへ

牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)は、八味地黄丸に牛膝・車前子を加えた処方で、より「下肢のしびれ・下肢のむくみ・冷え」が強い高齢LOH患者に用います。糖尿病性神経障害合併例、サルコペニア合併例で第一選択となります(牛車腎気丸の完全ガイド)。

補中益気湯――気虚優位のLOHへ

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、人参・黄耆・白朮を中核とする代表的な補気剤です。「全身倦怠感・気力低下・食欲不振・易感冒」という気虚症状が前面に立つLOHタイプに最適で、テストステロン低下による意欲・活力低下の漢方的アプローチとして八味地黄丸と並んで頻用されます(補中益気湯の完全ガイド)。長期労働で消耗した50-60代男性のLOHに、八味地黄丸+補中益気湯の併用は実臨床で頻用される組み合わせです。

テストステロン補充療法(TRT)との併用可能性

TRTは重症LOHの第一選択ですが、漢方薬との併用は安全で補完的な利点があります。TRTは即効性のある症状改善が期待できる一方、前立腺がんリスクのモニタリング・多血症リスク・精巣萎縮の注意点があります。漢方薬は腎虚体質を徐々に改善するため、TRTで急速にホルモン値を補正しつつ漢方で体質を底上げする戦略は理にかなっています。TRT休薬時の症状再燃を緩和する目的でも有用です。

科学的エビデンス――PubMedで検証された更年期漢方

更年期障害に対する漢方治療は経験医学にとどまらず、複数のRCT・系統的レビューで効果が検証されています。

加味逍遙散はMaturitas誌(2017年)の二重盲検RCTで、プラセボと比較してSMIの有意な改善を示し、特にホットフラッシュ・精神症状サブスケールで顕著な効果が報告されました。閉経後乳がん患者でタモキシフェン由来のホットフラッシュが増悪した症例に対し、加味逍遙散が頻度を有意に減少させたRCTも報告されています(Breast Cancer Research and Treatment, 2013)。

HRT vs 漢方の比較研究ではClimacteric誌(2019年)の系統的レビューが代表的です。HRTはホットフラッシュ抑制で漢方を上回る一方、心理症状・倦怠感では加味逍遙散・当帰芍薬散がHRTと同等の効果を示し、副作用(不正出血・乳房緊満感)はHRT群で有意に多いことが報告されています。「HRTで身体症状を、漢方で精神症状を」というハイブリッド戦略の根拠です。桂枝茯苓丸は瘀血を伴う更年期で肩こり・頭痛・冷えのぼせの有意な改善が示され、八味地黄丸・牛車腎気丸はLOHでAMSスコア・IIEF(勃起機能スコア)・夜間頻尿の改善が報告されています。

HRT・SSRI・抗うつ薬との併用

更年期障害の薬物療法は、HRT・SSRI/SNRI・睡眠薬・抗不安薬・漢方薬と多様で、現実の診療では併用が日常的です。漢方薬は他剤との相互作用が少なく、併用しやすい利点があります。

HRTと漢方の併用

HRTと漢方の併用は安全で相補的な効果が期待できます。HRTで対応困難な精神症状(イライラ・抑うつ・不眠)に加味逍遙散・加味帰脾湯を上乗せ、HRT副作用の不正出血を桂枝茯苓丸で軽減、HRT開始初期の乳房緊満感・浮腫に当帰芍薬散を併用、といった戦略が代表的です。

SSRI/SNRIと漢方の併用

SSRI/SNRI(パロキセチン・ベンラファキシン など)はHRT非適応のホットフラッシュにも効果が示されています。漢方との併用も安全で、SSRI開始初期の嘔気に六君子湯、SSRI効果不十分な抑うつに加味帰脾湯を上乗せする臨床戦略が定着しつつあります。保険適用漢方エキス製剤と通常用量SSRIの併用でセロトニン症候群が報告されたことはありません。

睡眠薬・抗不安薬と漢方の併用

BZD系睡眠薬・抗不安薬の長期使用は依存・転倒・認知機能低下のリスクがあり、更年期から高齢期にかけては漢方薬による減量・離脱が望まれます。BZDから加味帰脾湯・抑肝散・酸棗仁湯への置換戦略は実臨床で頻用されます(不眠症の漢方治療完全ガイド)。

副作用と注意点――甘草・柴胡剤・地黄

漢方薬は安全性の高い治療ですが、ゼロリスクではありません。更年期治療で頻用される処方には、いくつか注意すべき副作用があります。

甘草による偽アルドステロン症

甘草はグリチルリチン酸を含み、過量・長期使用で偽アルドステロン症(低カリウム血症・浮腫・血圧上昇・脱力)を惹起することがあります。加味逍遙散・加味帰脾湯・抑肝散・補中益気湯はいずれも甘草を含み、複数併用時は合計量に注意が必要です。甘草総量1日2.5g以上でリスクが上昇するとされ、長期投与例では3-6か月ごとに血清カリウムを測定します。

柴胡剤による間質性肺炎・肝機能障害

柴胡を含む処方(加味逍遙散・抑肝散・柴胡加竜骨牡蛎湯・四逆散・補中益気湯)では、稀に間質性肺炎・薬剤性肝障害が報告されています。発熱・乾性咳・呼吸困難が新規出現した場合は速やかに中止し精査すべきで、肝機能はベースライン・1か月後・3か月後に確認します。

地黄・附子の注意点

地黄を含む処方(六味丸・八味地黄丸・牛車腎気丸・温経湯)は胃腸虚弱な方で食欲不振・軟便・嘔気を生じることがあり、食後服用・半量開始で軽減を図ります。八味地黄丸・牛車腎気丸の附子は動悸・のぼせ・血圧上昇を起こすことがあり、コントロール不良の高血圧・頻脈性不整脈には慎重投与が必要です。

糖尿病合併更年期の特徴と漢方戦略

糖尿病と更年期障害が重なる症例は実臨床で少なくありません。閉経前後でHbA1cが悪化する女性、LOH発症後にインスリン抵抗性が増悪する男性は、「更年期+糖尿病」を一体として捉える必要があります。

閉経女性ではエストロゲン低下によりインスリン感受性が低下し、内臓脂肪が増加します。不眠・抑うつ・易怒性は食行動を乱しHbA1c悪化の引き金となります。この群では加味逍遙散で精神症状を整え、桂枝茯苓丸で瘀血と末梢循環を改善し、六味丸で陰虚(口渇・多尿・腰痛)を補う三本柱が中心です。

男性のLOH+糖尿病では、テストステロン低下が筋肉量・基礎代謝低下・インスリン抵抗性増悪を引き起こす悪循環を形成します。八味地黄丸・牛車腎気丸・補中益気湯がこの病態に対応する処方群で、糖尿病性神経障害・夜間頻尿・ED・サルコペニアの全てに作用しうる利点があります(糖尿病と漢方の統合医療完全ガイドGLP-1と漢方の併用ガイド)。

当院でできること――更年期診療の流れ

まさぼ内科クリニックでは、糖尿病専門医・漢方診療経験を活かし、女性更年期・男性LOHの統合的診療を行っています。初診時にはSMI(女性)またはAMS(男性)スコアで重症度を客観評価し、必要に応じて血液検査でホルモン値(女性:FSH・LH・E2、男性:総テストステロン・遊離テストステロン・LH・SHBG)と糖尿病関連指標(HbA1c・脂質)を測定します(IPSS・OABSS・AMSスコア完全ガイド)。

体質評価として漢方医学的な四診(望診・問診・腹診・舌診)を実施し、気滞・瘀血・血虚・陰虚の偏りを評価します(漢方9体質タイプ完全ガイド)。治療方針はHRT・TRT・SSRI/SNRI・漢方薬・生活習慣改善の中から患者個別の希望と禁忌に応じて組み立て、HRT・TRT適応例は専門医療機関と連携、漢方部分を当院で担当します。定期フォローではスコア再評価・副作用モニタリング(血清カリウム・肝機能)・糖尿病コントロールを統合的に確認します。

FAQ――よくあるご質問

Q1. HRTと漢方を一緒に飲んでも大丈夫ですか?
はい、安全に併用できます。HRTで身体症状(ホットフラッシュ・骨密度)を、漢方で精神症状をカバーするハイブリッド戦略が日本産科婦人科学会GLでも認められています。

Q2. 乳がん既往ですがHRTは使えません。漢方は飲めますか?
はい、漢方薬は乳がん既往患者でも安全に使用できます。タモキシフェン服用中のホットフラッシュに対し、加味逍遙散が頻度を有意に減少させたRCTも報告されています。

Q3. 男性更年期はどのくらいの期間漢方を飲めば効果が出ますか?
八味地黄丸・補中益気湯ともに4-8週で初期効果(疲労感・意欲低下の改善)、3-6か月で継続効果(性機能・夜間頻尿の改善)を期待します。最低3か月の継続をお勧めしています。

Q4. 漢方は副作用が少ないと聞きますが、本当ですか?
西洋薬と比較して副作用頻度は低いものの、ゼロではありません。甘草による偽アルドステロン症、柴胡剤による間質性肺炎・肝障害、地黄による胃腸障害、附子による動悸が代表的副作用で、長期投与例では血液検査でモニタリングします。

Q5. 抗うつ薬(SSRI)と漢方を併用しても大丈夫ですか?
はい、安全に併用できます。SSRI開始初期の嘔気に六君子湯、残遺うつ症状に加味帰脾湯の上乗せが実臨床で頻用されます。

処方を検討する方へ――受診のすすめ

更年期症状で悩んでいる方、HRTやTRTを検討中の方、HRT非適応で代替治療を探している方、SSRI/抗うつ薬で残遺症状がある方は、ぜひ一度ご相談ください。糖尿病・肥満・脂質異常症など生活習慣病が併存する方では、更年期と代謝の統合管理が極めて重要です。漢方薬は健康保険適用の医療用エキス製剤を中心に処方し、月額1,000-3,000円程度で標準的な治療が可能です。更年期は人生の転換期であり、「年のせいだから仕方ない」と諦めず、治療可能な症状であることをまず知っていただきたいと思います。

まとめ――更年期障害の漢方治療の要点

更年期障害は女性の閉経前後だけでなく、男性のLOH症候群を含む中高年期共通の課題です。要点は以下の通りです。

女性更年期の漢方は体質タイプ別に「気滞気鬱(加味逍遙散・四逆散)」「瘀血(桂枝茯苓丸・通導散)」「血虚+瘀血(温経湯・当帰芍薬散)」「神経症状優位(加味帰脾湯・抑肝散・柴胡加竜骨牡蛎湯)」「陰虚火旺(六味丸・三物黄芩湯)」の5群で組み立てます。男性更年期(LOH症候群)には八味地黄丸・牛車腎気丸・補中益気湯の3処方が中心で、TRTとの併用も安全に可能です。

HRT・SSRI・睡眠薬との併用は安全で相補的な効果が期待でき、HRT非適応例の代替、SSRI残遺症状の補完、BZD減量・離脱の補助として漢方は確固たる役割を持ちます。副作用は甘草・柴胡剤・地黄・附子に注意が必要で、長期投与例では定期モニタリングを行います。糖尿病合併更年期では、女性は加味逍遙散+桂枝茯苓丸+六味丸、男性は八味地黄丸+補中益気湯+牛車腎気丸が代表的な組み合わせです。

更年期は「治療すべき疾患」であり、漢方は単独でも併用でも、現代医学の治療を補完する有力な選択肢です。日本産科婦人科学会・日本泌尿器科学会のガイドラインに沿いながら、患者個別の体質・価値観・併存疾患に応じた漢方処方を選択することが、QOL改善と健康寿命延伸につながります。

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監修・執筆体制

本記事は、まさぼ内科クリニック飯田橋院 院長・小林 正敬 医師(医籍登録番号 第486214号)の監修のもと、公開時点で確認可能な学会ガイドラインおよび査読論文に基づいて作成されています。監修医師は 日本糖尿病学会 糖尿病専門医日本内科学会 総合内科専門医日本老年医学会 老年科専門医・指導医 の資格を有し、糖尿病・代謝疾患・老年医学を専門とする臨床医として実務に従事しています。

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信頼性開示の最終確認日:2026-05-14

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監修:小林 正敬 医師
日本糖尿病学会 糖尿病専門医 / 日本内科学会 総合内科専門医 / 日本老年医学会 老年科専門医・指導医
医籍登録番号:第486214号
公開日:2026-05-10 / 最終更新日:2026-05-10

参考文献

  • 日本産科婦人科学会・日本女性医学学会編『産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2023』
  • 日本泌尿器科学会・日本Men’s Health医学会『LOH症候群診療の手引き 2022』
  • 日本東洋医学会『漢方治療エビデンスレポート(EKAT)』2023年改訂版
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「更年期障害」
  • Sasaki H, et al. Maturitas, 2017.
  • Tagi VM, et al. Breast Cancer Research and Treatment, 2013.
  • Kim JH, et al. Climacteric, 2019.
  • Sato Y, et al. Phytomedicine, 2020.
  • Tsujimura A, et al. International Journal of Urology, 2017.
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この記事を書いた人

まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 代表理事 / 院長。日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本糖尿病協会 糖尿病認定医/日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医/日本内科学会 認定医制度審議会 病歴要約評価委員/日本老年医学会 老年科専門医・指導医/日本抗加齢医学会 抗加齢専門医/日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医/ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター。医籍登録番号 第486214号。国立国際医療研究センター国府台病院で内科研修を始めた後、糖尿病内科の道に進み、現在は最新の薬物療法(GLP-1作動薬・チルゼパチド等)と、栄養・運動・漢方を組み合わせた包括的な糖尿病・代謝診療を実践しています。

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