健診の血糖値が正常だった——それでも安心とは限りません。健診が血糖について測るのは、10時間以上絶食した後の「空腹時血糖」と、過去1〜2か月の平均であるHbA1cの2つだけだからです。食後1〜2時間だけ血糖値が跳ね上がるタイプは、このどちらでも見逃されます。まず、健診が何を測っていて何を測っていないかを並べます。
早見表——同じ血糖値でも「いつ測ったか」で意味が変わる
健診で測る項目と測らない項目を並べると、見落としがどこで起きるかがはっきりします。
| 検査 | 正常の目安 | わかること | 健診で測るか |
|---|---|---|---|
| 空腹時血糖 (10時間以上絶食) | 110mg/dL未満 (100〜109は正常高値) | 夜のあいだ肝臓が出す糖を、インスリンが抑えきれているか | 測る(標準項目) |
| 食後1〜2時間の血糖 | 140mg/dL未満 | 食事に対してインスリンが素早く立ち上がるか | 測らない |
| 75gブドウ糖負荷試験 2時間値 | 140mg/dL未満 (140〜199=境界型/200以上=糖尿病型) | 糖を処理する力そのもの(耐糖能) | 測らない(外来の検査) |
| HbA1c | 5.6パーセント未満が保健指導の判定値 (6.5以上で糖尿病型) | 過去1〜2か月の血糖の平均 | 測る(標準項目) |
| 随時血糖 (食後の時間を問わない) | 200mg/dL以上で糖尿病型 | 明らかな高血糖の有無 | 絶食できない場合の代替 |
この表でいちばん重要なのは2行目です。食後1〜2時間の血糖値は、健診では測りません。そして糖尿病に向かう過程では、多くの場合この値のほうが先に崩れます。
なぜ健診では食後高血糖が見つからないのか
食後高血糖とは、食後1〜2時間の血糖値が140mg/dLを超える状態を指します(国際糖尿病連合の定義)。健診はこれを測る設計になっていません。HbA1cは平均値なので、食後だけ跳ねて残りの時間が正常なら、平均に薄められて正常範囲におさまります。
「一般的な健康診断では、10時間以上食事をとっていない状態で、『空腹時血糖値』を測定するため、食後高血糖を見つけることができません。そのため、発見されにくい糖尿病という意味で、俗に『隠れ糖尿病』と呼ばれています」——厚生労働省 e-ヘルスネット「食後高血糖」(日本糖尿病学会監修・2026年7月1日更新)
順番の問題でもあります。インスリンには、食事が入った瞬間に一気に出る「初期分泌」と、その後じわじわ効き続ける働きの二段構えがあります。先に鈍るのは初期分泌のほうで、これが遅れると食後の山だけが高くなります。空腹時血糖が上がるのは、夜のあいだ肝臓が出す糖をインスリンが抑えきれなくなってからで、これはもっと後の段階です。空腹時血糖が動き出した時点では、食後の山はすでに何年も高かった可能性があります。
日本人ではこの傾向がとくに問題になります。欧米人に比べてインスリンを出す力が控えめな体質の方が多く、体重がそれほど増えていない段階でも食後の血糖が先に上がってくるためです。「痩せているから大丈夫」が通用しにくいのは、この理由によります。
数値の読み方——空腹時血糖100・110・126の意味
空腹時血糖は、100・110・126という3つの境目で意味が変わります。
- 100mg/dL未満——正常型。この帯なら空腹時血糖については問題ありません。
- 100〜109mg/dL(正常高値)——健診票では「正常」と印字されますが、特定保健指導では100mg/dL以上が判定に使われる帯です。ここには、ブドウ糖負荷試験をすると境界型と判定される方が一定数含まれます。
- 110〜125mg/dL——空腹時血糖異常。境界型に分類されます。
- 126mg/dL以上——糖尿病型。別の日の再検査でも同じなら、糖尿病と診断されます。
食後・随時の値では、200mg/dL以上が糖尿病型の判定に使われます。負荷試験の2時間値が140〜199mg/dLなら境界型(耐糖能異常)です。境界型は「まだ糖尿病ではない」段階ですが、糖尿病に至らない高血糖でも心血管疾患のリスクは上がることが、前向き研究をまとめたメタアナリシスで報告されています(PMID: 15505129)。HbA1cの数値帯ごとの読み方とあわせて見ると、自分がどの段階にいるかが立体的に見えます。
見落としやすい落とし穴
血糖値の解釈は、次の4点で狂いやすくなります。
1つ目、健診前だけの節制。空腹時血糖は数日の食事調整でも下がります。ところがHbA1cは過去1〜2か月の平均なので、直前の節制ではほとんど動きません。空腹時血糖が良いのにHbA1cだけ高いという組み合わせを見たら、私は直前の調整か、普段の食後高血糖のどちらかを疑います。そして見分ける方法は1つしかありません。ふだんどおりに食べて、1〜2時間後に採血することです。
2つ目、「食後2時間」の起点。食べ終わりではなく食べ始めから数えます。ゆっくり食べる方が食べ終わりを起点にすると、ピークを過ぎた時刻の値を見ることになり、低く出ます。
3つ目、持続血糖モニタリングのピーク値で慌てること。目安は1〜2時間の値が140mg/dLを超えることで、途中の最高値ではありません。この機器は皮下の間質液を測るため採血の値とは時間差と誤差があり、傾向を見る道具であって診断の道具ではありません。
4つ目、逆に「食後だけなら病気ではない」と放置すること。境界型は、食事と運動で戻せる可能性が残っている最後の帯です。
では、どう確かめるか——外来での考え方
食後高血糖を確かめる方法は3つあり、どれを選ぶかは「診断名が必要か、生活を変える材料が必要か」で変わります。
健診結果を持って来られた方に対して、私が最初に見るのは空腹時血糖とHbA1cの「ずれ」です。空腹時95mg/dLでHbA1c 5.9パーセントのように、空腹時が良いのにHbA1cが高めなら、食べていない時間ではなく食後で数字を稼いでいる可能性を考えます。そこに家族歴や腹囲・中性脂肪が重なれば、確かめる価値は十分あります。
- 食後1〜2時間の採血——ふだんどおりの食事をとって来院し、その時間に採血します。いちばん手軽で、実生活に近い値が出ます。
- 75gブドウ糖負荷試験——決まった量のブドウ糖液を飲み、時間を追って採血します。条件が揃うため、境界型か糖尿病型かの判定に使えます。
- 持続血糖モニタリング——数日から2週間、血糖の動きを連続して記録します。診断ではなく、どの食事で山が立つかを見るための道具です。
私の使い分けは単純です。診断名をはっきりさせる必要があるなら負荷試験、食べ方を変える材料が欲しいならモニタリング。まず「そもそも疑わしいのか」を知りたい段階なら、食後の採血1回で足ります。順番を飛ばして最初から負荷試験を選ぶことは、あまりありません。
ご自宅でできること——食後の山を低くする4つ
食後の山の高さは、食べる量よりも食べ方と食後の過ごし方で変わります。ご自身で今日から試せるものを挙げます。
- 食べる順序を変える——野菜・海藻・たんぱく質を先に、主食を後に。同じ献立でも食後の山が低くなります。詳しくは低GI食品の選び方の記事にまとめました。
- 食後20分ほど歩く——食後30分から1時間は血糖が上がっていく時間帯です。ここで歩くと、上がりかけた糖を筋肉が引き受けます。食後すぐ横になるのがいちばん損です。
- 朝食を抜かない——朝を抜くと、その日の昼食後の血糖がより高く上がります。理由は朝食を抜くと血糖はどうなるかの記事で解説しています。
- 食後の眠気を記録する——食後に強い眠気が出る食事は、血糖が大きく動いている可能性があります。食後の眠気と血糖値の記事で切り分け方を説明しています。
健診結果の各項目を自分の数値で確かめたい方は、健診結果インタプリタに入力すると、どの項目がどの帯にあるかを一覧で確認できます。
よくあるご質問
Q1. 健診の血糖値が正常なら、糖尿病の心配はしなくてよいですか?
A. 健診が測る血糖は、絶食後の空腹時血糖と、平均を映すHbA1cの2つです。食後だけ血糖値が上がるタイプは、このどちらでも見逃されることがあります。空腹時血糖が正常でも、HbA1cが5.6パーセント以上、家族に糖尿病の方がいる、腹囲や中性脂肪が基準を外れている、といった条件が重なる場合は、食後の値を一度確かめる価値があります。
Q2. 「食後2時間の血糖値」は、食べ始めと食べ終わりのどちらから数えますか?
A. 食べ始めから数えます。ブドウ糖負荷試験でブドウ糖液を飲み始めた時刻を起点にするのと同じ考え方です。ゆっくり食べる方が食べ終わりから数えると、実際にはピークを過ぎた時刻の値を見ることになり、低めに出ます。
Q3. 境界型と言われました。このまま糖尿病になりますか?
A. 境界型と判定された方が全員糖尿病になるわけではありません。食事と運動で正常型に戻る方もいれば、数年のうちに糖尿病型へ動く方もいます。何年で、という決まった年限はないため、私は半年から1年ごとに空腹時血糖とHbA1cを確認し、動く気配があれば食後の値も測ることにしています。
Q4. 家庭用の血糖測定器や持続血糖モニタリングの数値で、食後高血糖と判断してよいですか?
A. 傾向をつかむには有用ですが、診断はできません。食後高血糖の目安は食後1〜2時間の値が140mg/dLを超えることで、途中のピーク値ではありません。また持続血糖モニタリングは皮下の間質液を測るため、採血の値とは時間差と誤差があります。診断は医療機関での採血で行います。
Q5. 食後高血糖だけの段階でも、薬を飲むことになりますか?
A. 境界型の段階では、まず食事と運動での対応が基本です。食べる順序、食後の歩行、体重の管理でこの帯から戻る方は少なくありません。ただし血圧・脂質の異常や肥満が重なる場合や、境界型から糖尿病型へ動いている場合は、薬物療法を含めて検討します。
健診の「正常」で止まらず、もう一歩だけ確かめる
健診の血糖値は正常なのに食後の不調が続く方、HbA1cだけがじわじわ上がっている方、家族に糖尿病の方がいて先回りしたい方は、一度ご相談ください。当院では、食後の採血・ブドウ糖負荷試験・持続血糖モニタリングのどれが今のあなたに必要かを整理したうえで、食事と運動の設計から必要な場合の薬物療法まで、保険・自費どちらの可能性も含めてご案内します。対面のほか、オンライン診療にも対応しています。減量が主題であれば、GLP-1受容体作動薬(食欲と血糖を調える消化管ホルモンの薬)を含む選択肢をGLP-1ダイエット完全ガイドにまとめています。
この記事は「健診の数値の読み方」シリーズの1本です。健診結果の各項目を数値帯ごとに読み解く記事をシリーズ一覧にまとめています。ご自身の適正な食事量を知りたい方は減量カロリー計算ツールもお使いください。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「食後高血糖」(日本糖尿病学会監修・2026年7月1日更新)
- 糖尿病診断基準に関する調査検討委員会「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版)」糖尿病 55(7):485-504, 2012
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』南江堂
- 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」
- International Diabetes Federation「Guideline for management of postmeal glucose in diabetes」Diabetes Research and Clinical Practice 2013;103:256-268
- Levitan EB, Song Y, Ford ES, Liu S.「Is nondiabetic hyperglycemia a risk factor for cardiovascular disease? A meta-analysis of prospective studies」Arch Intern Med 2004;164:2147-2155(PMID: 15505129)
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