健診結果のHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)に印がついて、この記事にたどり着いた方が多いと思います。結論から言うと、この数値で大切なのは小数点以下の上下ではなく、「どの帯にいるか」と「帯を上がりつつあるのか」の2つです。外来で毎日この説明をしている糖尿病専門医として、数値帯ごとの意味と次の一歩を、まず早見表で示します。
HbA1c 数値帯早見表
| HbA1c | 位置づけ | 次の一歩 |
|---|---|---|
| 〜5.5% | 基準範囲 | 現状維持。年1回の健診を続ける |
| 5.6〜5.9% | 要注意(保健指導の対象) | 生活を見直す最適期。体重3%減を目標に |
| 6.0〜6.4% | 糖尿病の可能性を否定できない帯(いわゆる予備群) | 医療機関で血糖値とあわせて評価を。放置しない |
| 6.5%〜 | 糖尿病型(受診勧奨) | 受診して診断を確定する。ここからは医師と二人三脚 |
| 治療中: 7.0%未満 | 合併症予防のための目標値 | 主治医と自分の目標値を共有する |
この表は成人の一般的な目安です(特定健診の階層化基準と日本糖尿病学会の区分に基づく)。65歳以上の方や、貧血・腎臓病のある方は読み方が変わります(落とし穴の章へ)。
HbA1cは通知表の「学期平均」です。前日の一夜漬けでは動かず、動かせるのはこれからの1〜2か月だけです。
HbA1cは「過去1〜2か月の平均点」
HbA1cは、血液中のヘモグロビンにブドウ糖が結合した割合です。赤血球の寿命が約120日あるため、過去1〜2か月の血糖の平均を映します。ここから、私が外来で毎回お伝えする2つの実用的な結論が出ます。
1つ目。検査前日に節制しても数値は変わりません。外来で「昨日はお酒を抜いたのに」と残念がる方がいますが、HbA1cは1日では動かない数値です。逆に言えば、健診の朝にうっかり朝食をとってしまっても、HbA1cの信頼性は落ちません。
2つ目。頑張りが反映されるまで1〜2か月かかります。食事を変えて2週間で再検査しても、まだ動いていないのが普通です。だから外来では2〜3か月ごとに測ります。すぐ結果が見えないことで挫折するのが一番もったいない。ここは知っておいてください。
5.6〜5.9%——「病気ではない」が、一番動きやすい帯
この帯は病気ではありません。ただし特定健診では5.6%以上が保健指導の対象です。私の外来でも、この帯から数年かけて6%台に上がってくる方を繰り返し見ます。逆に言えば、ご自身の食事と体重を整えるだけで下げられる帯でもあります。
私はこの帯の方にこそ時間をかけて説明します。理由は単純で、この段階の生活改善が最も費用対効果が高いからです。膵臓がインスリンを出す力はまだ十分残っています。ここで体重の3%を減らせば(70kgなら約2kg)、血糖・血圧・脂質がまとめて改善することが日本人のデータで示されています。まだ「治療」ではなく「予防」で済む、最後に近い帯です。
具体的な進め方はダイエット完全ガイドと減量カロリー計算機にまとめてあります。数字の管理が好きな方は、まず自分の必要カロリーを計算するところから始めると続きます。
6.0〜6.4%——放置される率が最も高く、放置してはいけない帯
正直に言うと、外来で一番歯がゆいのがこの帯です。「糖尿病ではないんですよね?」と確認されて、翌年も、その翌年も同じ数値で健診だけ受け続け、ある年に6.5%を超えてから受診される。このパターンを何度も見てきました。
6.0〜6.4%は「糖尿病の可能性を否定できない」帯です。この帯の意味は数値そのものより、ブドウ糖負荷試験(OGTT)などで実際の血糖の動きを一度確認する価値があるということにあります。HbA1cは平均点なので、食後だけ血糖が急上昇するタイプ(平均すると隠れてしまう)を見逃すことがあるからです。食後の血糖上昇がどんなものかは食後血糖の見える化ツールで体感できます。
一度だけ検査を受けて自分のタイプを知る。この帯ですべきことはこれに尽きます。
6.5%以上——「糖尿病型」。ただし診断はHbA1cだけでは決まらない
6.5%以上は「糖尿病型」と呼ばれ、受診勧奨の対象です。ここで正確に知っておいてほしいのは、HbA1cだけを何回測っても、糖尿病の診断は確定しないというルールです。診断には血糖値(空腹時126mg/dL以上、随時200mg/dL以上など)の確認が必要で、同じ日にHbA1c 6.5%以上と血糖値の基準超えが揃えば、その日に診断が確定します。
だから健診でこの帯に入ったら、必要なのは「もう一度健診を受けて様子を見る」ことではなく、医療機関で血糖値とセットで評価してもらうことです。
もう1つ。6.5%を超えたら即・薬、ではありません。診断が付いても、病態によっては食事と運動から始めます。体重を落とすことが治療の中心になる方も多く、その選択肢には食事療法から薬物療法まで幅があります。当院では保険・自費のどちらの可能性も含めて、診察のうえで最適なルートをご提案しています。
治療中の方へ——7.0%は「全員の合格点」ではない
すでに治療中の方の目標は、日本糖尿病学会の区分で合併症予防のためには7.0%未満、より厳格を目指せる場合は6.0%未満、低血糖などのリスクがあり治療強化が難しい場合は8.0%未満と、3段階に分かれています。さらに65歳以上では、認知機能や使っている薬によって目標がもう一段細かく設定され、下げすぎ(重症低血糖)を避けるための下限まで決められています。
つまり「隣の人は6.8なのに自分は7.2だからダメ」という比べ方には意味がありません。自分の目標値を主治医と共有できているか。治療中の方はそこを確認してください。
数値の落とし穴——HbA1cが「うそをつく」場面
HbA1cは赤血球の寿命を前提にした数値です。そのため、赤血球の状態が変わる場面では実態とずれます。専門医が必ず頭に置いている代表例を挙げます。
- 鉄欠乏性貧血:実態より高めに出ることがあります。逆に鉄剤で治療を始めると下がり、「血糖が改善した」と見誤ることがあります
- 出血・溶血・腎性貧血(エリスロポエチン製剤の使用中):赤血球の入れ替わりが速くなり、実態より低めに出ます
- 肝硬変・透析中・妊娠中:ずれやすい代表的な状況です。別の指標(グリコアルブミンなど)を併用します
健診でHbA1cと同時に貧血を指摘された方は、この点も含めて評価が必要です。血液検査の項目全体の読み方は血液検査でわかる栄養不足の項目一覧と健診結果インタプリタで確認できます。
よくあるご質問
Q1. HbA1cが5.7でした。放置してよいですか?
A. 病気ではありませんが、基準範囲の上限を超え始めたサインです。特定健診では5.6%以上が保健指導の対象になります。今の生活のまま数年経過すると6%台に進む方が多いため、体重と食事を見直す最も効率のよいタイミングです。
Q2. 健診の朝に食事を抜き忘れました。HbA1cは正確ですか?
A. HbA1cは過去1〜2か月の平均血糖を反映する数値で、検査当日の食事の影響をほぼ受けません。当日の食事で変わるのは血糖値のほうです。
Q3. HbA1cはどのくらいの期間で下がりますか?
A. 反映されるまで1〜2か月かかります。食事や運動を変えても翌週には動きません。外来では2〜3か月ごとの測定で変化を確認します。
Q4. 6.5を超えたら必ず薬を飲むことになりますか?
A. いいえ。診断と治療は別です。まず血糖値とあわせて診断を確定し、そのうえで食事・運動から始めるか、薬を併用するかを病態に応じて決めます。最初から薬と決まっているわけではありません。
Q5. 血糖値は正常なのにHbA1cだけ高いのはなぜですか?
A. 空腹時の血糖が正常でも、食後だけ血糖が急上昇するタイプではHbA1cが先に上がることがあります。逆に、貧血や赤血球の寿命の個人差で数値がずれる場合もあります。血糖値とHbA1cのどちらか一方では判断せず、組み合わせで読むのが正解です。
健診結果を持って、一度だけ相談に来てください
HbA1cは「どの帯にいるか」で次の一歩が明確に決まる、行動に直結する数値です。6.0%を超えた方、5%台でも毎年じわじわ上がっている方は、健診結果の紙を1枚持って受診していただければ、その場で評価できます。当院は対面のほか、オンライン診療にも初診から対応しています(保険・自費どちらの可能性も含めてご相談ください)。
この記事は「健診の数値の読み方」シリーズの1本です。健診結果の各項目を数値帯ごとに読み解く記事をシリーズ一覧にまとめています。気になる項目をその場で確かめたい方は健診結果インタプリタもお使いください。
参考文献
- 日本糖尿病学会『糖尿病診療ガイドライン2024』
- 日本糖尿病学会『糖尿病治療ガイド』(血糖コントロール目標・熊本宣言2013)
- 日本糖尿病学会・日本老年医学会『高齢者糖尿病の血糖コントロール目標』
- 厚生労働省『標準的な健診・保健指導プログラム』(特定健診の階層化基準)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「ヘモグロビンA1c」「糖尿病」
- 日本肥満学会『肥満症診療ガイドライン2022』(3%減量による代謝指標改善)

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