HOMA-IRとは?1.6・2.5の意味と、血糖が正常でも隠れているインスリン抵抗性を糖尿病専門医が解説

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人間ドックの結果票に見慣れない「HOMA-IR」という項目——これは体の中でインスリンがどれだけ効きにくくなっているかを、空腹時の採血2項目から計算した数字です。血糖値やHbA1cが正常でも、この数字だけが先に動いていることがあります。まず数値帯ごとの意味から示します。

目次

早見表——HOMA-IRの数値が意味すること

HOMA-IRの判定は「1.6以下」「1.7〜2.4」「2.5以上」の3段階が基本で、数値が上がるほど見るべき対象が増えていきます。

HOMA-IR 判定 意味 次の一歩
1.6以下正常インスリンは効いている現状維持。ただし血糖・HbA1cは別に確認する
1.7〜2.4境界域効きにくさが始まっている可能性いちばん動かしやすい段階。腹囲と体重の記録を始める
2.5以上インスリン抵抗性あり膵臓が余分に働いて血糖を保っている状態内臓脂肪・脂肪肝・血圧・脂質まで含めて評価を
4.0以上高度抵抗性が強く、他の異常を伴いやすい受診を推奨。生活の工夫だけで押し戻せない場合がある

1.6と2.5という区切りは、日本糖尿病学会の『糖尿病治療ガイド』や人間ドックの判定区分で広く使われているものです。4.0以上を「高度」として別扱いする施設もありますが、こちらは学会が定めた区分ではなく運用上の目安です。いずれにしても1.6と1.7の間に医学的な断崖があるわけではありません。連続した数字を、話をしやすくするために区切っているだけだと理解してください。

HOMA-IRは何を測っているのか

HOMA-IRは、空腹時の血糖値と空腹時インスリン値の2つから計算する、インスリン抵抗性(インスリンの効きにくさ)の推定値です。式は次の通りです。

HOMA-IR = 空腹時血糖(mg/dL)× 空腹時インスリン(μU/mL)÷ 405

この式が言っているのは、「血糖をこの水準に保つために、どれだけのインスリンを使っているか」です。同じ空腹時血糖90mg/dLでも、インスリン4.0μU/mLで保てている人(HOMA-IR 0.9)と、9.0μU/mL必要な人(HOMA-IR 2.0)では、膵臓の負担がまったく違います。前者は少ない力で足りていて、後者は倍以上のインスリンを出して同じ結果をつくっている。健診の血糖値の欄には、この差が一切あらわれません。

インスリン抵抗性が問題になるのは、この「余分に出す」状態が長く続くと、いずれ膵臓が息切れして血糖が上がり始めるからです。血糖値が上がるのは結果で、抵抗性はその手前にあります。空腹時血糖と食後血糖のどちらが先に動くかについては空腹時血糖と食後血糖の違いの記事にまとめました。

血糖が正常でも——日本人ドック受診者のデータ

「血糖もHbA1cも正常なのに、HOMA-IRだけ引っかかった」という方は珍しくありません。では、どのくらい珍しくないのか。日本人の実データがあります。

日本人間ドック・予防医療学会誌に報告された、二日ドック受診者932名(男性585名・女性347名、年齢中央値59歳)の解析があります。HOMA-IRの中央値は全体で1.1、男性1.2、女性1.0でした。大多数の方は1.6以下におさまります。

注目すべきは、糖代謝の判定別の内訳です。血糖・HbA1c・ブドウ糖負荷試験のいずれも正常と判定された524名のうち、HOMA-IRが1.7以上だった方が93名——およそ6人に1人いました。境界型と判定された351名では117名で、こちらは3人に1人の割合です。

糖代謝の判定 人数 HOMA-IR 1.6以下 1.7〜2.4 2.5以上
正常型524名431名72名21名
境界型351名234名74名43名
糖尿病型57名30名13名14名

この表は、両側から読めます。片側は「正常と言われた人の中にも、効きにくさが始まっている人が確実にいる」。もう片側は、太字にした糖尿病型57名のうち30名、つまり半数以上がHOMA-IR 1.6以下だったという事実です。抵抗性がないまま血糖が上がっている——日本人に多い、インスリンを出す力そのものが弱いタイプです。

HOMA-IRは「血糖が高いかどうか」ではなく「血糖を保つのにいくら払っているか」を見る数字です。私は外来で、血糖値が請求書だとすればこちらは家計簿にあたる、と説明しています。——小林 正敬(日本糖尿病学会 糖尿病専門医)

HOMA-IRが高い人に共通していたこと

同じ報告では、HOMA-IRの高さと体の状態の関係も調べられています。男性でHOMA-IRが1.6以下の群と2.5以上の群を比べると、CTで測った内臓脂肪面積は平均92.1平方センチ対159.2平方センチ、腹囲は83.2cm対95.9cmと、はっきりした差がありました。

さらに差が大きかったのが体重歴です。「20歳のときから10kg以上増えた」に該当する男性は、1.6以下の群では41.3パーセント、2.5以上の群では95.0パーセント。女性でも22.4パーセント対70.5パーセントで、同じ傾向でした。脂肪肝の頻度も、HOMA-IRが高い群ほど多いことが示されています。

外来でHOMA-IRの高い方に私が最初に聞くのも、この2つです。「20歳のとき何kgでしたか」と「お腹周りは何cmですか」。採血の数字を見る前に、この2つで見当がつくことが多いからです。腹囲の基準が何を根拠にしているかは腹囲85cmの意味の記事で、脂肪肝と肝機能の数値の関係はALT・AST・γ-GTPの意味の記事で扱っています。

見落としやすい落とし穴

HOMA-IRはあくまで空腹時の2項目からの推定値で、次の3つの場合に判断を誤りやすくなります。

1つ目、空腹時血糖が高い方では、そもそも使えないこと。目安として空腹時血糖140mg/dL以上の方、およびインスリン注射をしている方では、HOMA-IRは信頼できません。膵臓が疲れてインスリンを出せなくなると、抵抗性が強くても数値は低く出てしまうからです。この場合はブドウ糖負荷試験など別の方法で評価します。「血糖が高いのにHOMA-IRは正常だった」という結果を、抵抗性がない証拠として読まないでください。

2つ目、HOMA-IRが正常でも安心はできないこと。先の表のとおり、糖尿病型と判定された方の半数以上は1.6以下でした。日本人はインスリンを出す力が控えめな方が多く、痩せていても血糖が上がることがあります。HOMA-IRはHbA1cや血糖値の代わりにはならず、並べて読む数字です。HbA1cの読み方はHbA1cの数値の意味の記事にまとめています。

3つ目、採血条件で簡単にぶれること。インスリン値は前日の食事量・飲酒・絶食時間で動きます。10時間以上絶食した朝の採血が前提で、「昼に少し食べてから来た」だけで数値は変わります。私が外来で1回の値だけで方針を決めないのはこのためで、境界域の数字が出たときは、次の採血をいつ・どんな条件で受けるかを決めてから帰っていただきます。

数字を下げるために効くこと

インスリン抵抗性は、生活で動く数字です。主役が内臓脂肪であり、内臓脂肪は皮下脂肪より先に減りやすいという性質があるためで、ここが「効きにくさ」の扱いやすいところです。ご自身で始められることを挙げます。

  • 体重の3〜5パーセント減を最初の目標に置く(80kgなら2.4〜4kg)。一気に落とす必要はなく、3〜6か月かけて構いません
  • 食後に歩く。筋肉は、インスリンの助けが少なくても糖を取り込める経路を持っています。食後30分から1時間のあいだの10〜15分の歩行が、同じ体重でも効きやすさを変えます
  • ご自宅で腹囲と体重を週1回、同じ条件で記録する。HOMA-IRは頻繁に測れませんが、腹囲は毎週測れます。数値が動いているかどうかの手がかりになります

この3つを同じ重さで出しているわけではありません。私が外来で優先順位をつけるときは、体重が20歳から大きく増えている方には減量を、体重の変化が乏しいのにHOMA-IRだけ高い方には食後の歩行と睡眠時間を先に置きます。後者は、食事量ではなく生活リズムのほうに原因が寄っていることが多いからです。ご自身の適正カロリーと減量ペースは減量カロリー計算ツールで、食事全体の組み立ては医師によるダイエット完全ガイドで確認できます。

どこで測れるのか

HOMA-IRの計算には空腹時インスリンが必要です。ところが空腹時インスリンは特定健診の標準項目に入っていません。会社の健診結果に空腹時血糖しか載っていないのは、測っていないからで、あとから計算し直すこともできません。

実際の入手経路は主に2つです。ひとつは人間ドックのオプション検査として申し込む方法。もうひとつは、医療機関で医師が必要と判断した場合に検査する方法で、この場合は保険で行えることがあります。私が測るかどうかを決めるのは、健診で境界型を指摘された方、腹囲や脂肪肝を指摘された方、20歳から大きく体重が増えている方——要するに「血糖が上がる前に、その理由を知っておきたい」場面です。すでに糖尿病と診断されている方では、抵抗性が主体なのか分泌不足が主体なのかで治療の組み立てが変わるため、その判断材料として使います。

よくあるご質問

Q1. HOMA-IRは会社の健康診断でも測ってもらえますか?

A. 多くの場合、測れません。HOMA-IRの計算には空腹時インスリンが必要ですが、これは特定健診の標準項目に入っていないためです。人間ドックのオプション検査として選べる施設が多く、医療機関では医師が必要と判断した場合に保険で測れることがあります。健診結果に空腹時血糖しか載っていない場合、あとからHOMA-IRを計算し直すことはできません。

Q2. 空腹時血糖とインスリンの値だけあれば、自分で計算できますか?

A. できます。空腹時血糖(mg/dL)に空腹時インスリン(μU/mL)を掛けて、405で割った数字がHOMA-IRです。空腹時血糖90、インスリン7.0なら、90×7.0÷405で約1.6になります。ただし空腹時血糖が140mg/dL以上の方やインスリン注射をしている方では、この式は実態を反映しないため使いません。

Q3. HOMA-IRが低ければ、糖尿病の心配はないということですか?

A. そうとは言えません。日本人にはインスリンを出す力そのものが弱いタイプの糖尿病が多く、抵抗性がないまま血糖が上がる方がいます。人間ドック受診者を調べた報告でも、糖尿病型と判定された方の半数以上はHOMA-IRが1.6以下でした。HOMA-IRは血糖やHbA1cの代わりではなく、血糖が上がった理由の側を説明する数字です。

Q4. HOMA-IRを下げるには、どのくらい体重を減らせばよいですか?

A. まずは今の体重の3〜5パーセント減を目安にしてください。80kgの方なら2.4〜4kgです。インスリン抵抗性の主役は内臓脂肪で、内臓脂肪は皮下脂肪より先に減りやすいため、この程度の減量でも数値が動くことがあります。あわせて筋肉を使うこと、とくに食後に歩くことが、同じ体重でも効きやすさを変えます。

Q5. HOMA-IRは何か月おきに測り直すとよいですか?

A. 生活を変えて再評価するなら、3〜6か月あけてから測るのが現実的です。1〜2か月では体重も内臓脂肪も十分に動きません。また、採血前日の食事や飲酒、絶食時間の長さでインスリン値はぶれるため、前回と同じ条件(朝、10時間以上の絶食後)で測らないと比較になりません。

「血糖はまだ正常」の段階が、いちばん動かせます

HOMA-IRが境界域から上に出た方、健診で境界型や脂肪肝を指摘された方、20歳のときから10kg以上増えている方は、一度ご相談ください。当院では、空腹時インスリンを含む採血をするかどうかの判断から、食事・運動の設計、必要に応じてGLP-1受容体作動薬(食欲と血糖を調える消化管ホルモンの薬)を含む薬物療法まで、保険・自費どちらの可能性も含めて、医師がその方に合う方法をご案内します。対面のほか、オンライン診療にも対応しています。GLP-1治療の全体像はGLP-1ダイエット完全ガイドをご覧ください。

まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院のご案内はこちら

この記事は「健診の数値の読み方」シリーズの1本です。健診結果の各項目を数値帯ごとに読み解く記事をシリーズ一覧にまとめています。気になる項目をその場で確かめたい方は健診結果インタプリタもお使いください。

参考文献

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この記事を書いた人

まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 代表理事 / 院長。日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本糖尿病協会 糖尿病認定医/日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医/日本内科学会 認定医制度審議会 病歴要約評価委員/日本老年医学会 老年科専門医・指導医/日本抗加齢医学会 抗加齢専門医/日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医/ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター。医籍登録番号 第486214号。国立国際医療研究センター国府台病院で内科研修を始めた後、糖尿病内科の道に進み、現在は最新の薬物療法(GLP-1作動薬・チルゼパチド等)と、栄養・運動・漢方を組み合わせた包括的な糖尿病・代謝診療を実践しています。

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