高齢者のHbA1c目標値|7.0・8.0・8.5%未満の違いと「下げすぎ」の下限を糖尿病・老年科専門医が解説

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65歳以上の糖尿病のHbA1c目標は、年齢だけでは決まらず、「認知機能」「日常生活の自立度(ADL)」「低血糖を起こしやすい薬を使っているか」で、7.0%未満から8.5%未満まで分かれます。そしてインスリン・SU薬・グリニド薬など低血糖が心配な薬を使っている方にだけ、下げすぎの歯止めになる「下限」があります。こうした薬を使っている親のHbA1cが「よく下がっている」なら、それは確認の合図です。まず早見表から始めます。

目次

早見表——高齢者のHbA1c目標値と下限

高齢者のHbA1c目標値とは、日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会が2016年に示した、65歳以上の方の血糖コントロールの目安です。

区分(状態) 低血糖が心配な薬なし 低血糖が心配な薬あり
カテゴリーI
認知機能正常かつADL自立
7.0%未満65〜74歳:7.5%未満(下限6.5%)
75歳以上:8.0%未満(下限7.0%)
カテゴリーII
軽度認知障害〜軽度認知症、または手段的ADL低下(基本的ADLは自立)
7.0%未満8.0%未満(下限7.0%)
カテゴリーIII
中等度以上の認知症、基本的ADL低下、または多くの併存疾患や機能障害
8.0%未満8.5%未満(下限7.5%)

「低血糖が心配な薬」とは、インスリン製剤、SU薬、グリニド薬などです(グリニド薬は種類や量によって「なし」側に数えられる場合もあります)。低血糖が心配な薬を使っていない列では、食事・運動療法だけ、または薬の副作用なく達成できるなら6.0%未満、治療の強化が難しければ8.0%未満で、下限は設けません。カテゴリーIIIで薬の数が多く害が心配な場合などは8.5%未満も認められています。数値帯ごとの一般的な意味はHbA1cの数値の意味の記事にまとめています。

年齢より先に見るのは「生活の自立度」

高齢者のカテゴリー分類とは、認知機能と、着替え・入浴・トイレなどの基本的ADL、買い物・服薬管理・お金の管理などの手段的ADLの状態で3段階に分ける仕組みです。表を見ると分かるとおり、年齢で目標が変わるのはカテゴリーIで薬を使っている場合だけです。85歳でも認知機能とADLが保たれ、低血糖を起こしにくい薬で治療している方の目標は7.0%未満のままです。

外来で私がカテゴリーを判断するとき、ご本人より先に同居のご家族へ「薬を自分で飲み分けられていますか」「お金の管理はご自身ですか」と聞きます。どちらかに不安があり、着替えや入浴はご自身でできているなら、認知症の診断がついていなくてもカテゴリーIIとして目標と薬を組み直します。着替えや入浴にも手助けが要るならカテゴリーIIIです。ご自宅で様子を見ておきたい方は、認知症リスクセルフチェックも目安に使えます。

なぜ「下限」があるのか——低血糖はHbA1cに映らない

HbA1cの下限とは、低血糖を起こしやすい薬を使っている高齢者で、それを下回ったら低血糖の有無と治療内容を見直す合図になる値です。HbA1cは過去1〜2か月の血糖の平均なので、夜間の低血糖と日中の高血糖が打ち消し合うと「ちょうどよい数字」に見えてしまいます。高齢者の低血糖は、冷や汗や動悸といった分かりやすい症状が出にくく、ふらつき・ぼんやり・言葉のもつれとして現れるため、転倒や認知症の進行と見分けがつきにくいのが厄介なところです。

「重症低血糖が危惧される場合は、目標下限値を設定し、より安全な治療を行うこと。」——高齢者糖尿病の治療向上のための日本糖尿病学会と日本老年医学会の合同委員会(2016)

認知機能とADLが保たれた75歳以上の方がSU薬を飲んでいて、HbA1cが6.6%だった場合、私は「よく下がっていますね」とは言いません。下限の7.0%を下回っているので、朝の不調やふらつきがなかったかを確かめ、SU薬の減量か、低血糖を起こしにくい薬への切り替えを始めます。腎臓の働きが落ちるとSU薬は体に残りやすくなるため、同時にeGFRも確認します。eGFRの読み方はeGFRの数値の意味の記事をご覧ください。

ご家族が気づける低血糖のサイン

高齢者の低血糖のサインとは、血糖値がおおむね70mg/dLを下回ったときに出る、本人が自覚しにくい行動や様子の変化です。ご自宅では次のような変化に注意してください。

  • 朝なかなか起きてこない、起きても受け答えがぼんやりしている
  • 昼食前や夕方に、急に怒りっぽくなる・落ち着かなくなる
  • 歩き方がふらつく、言葉がもつれる
  • 夜中に寝汗をかいている、食事を抜いた日に様子がおかしい

気になる様子があったら、その時刻と、直前の食事・薬の時刻をメモして受診時に持参してください。ご自身で血糖を測れる方は、その場の値が何よりの手がかりです。低血糖が疑われて意識がある場合はブドウ糖10gを口にし、意識がもうろうとして飲み込めないときは、無理に口へ入れず救急を呼んでください。

70代・80代の「正常値」と「治療の目標値」の違い

70代・80代専用のHbA1cの「正常値」という線はありません。特定健診の保健指導判定値は、HbA1c 5.6%以上で生活習慣の改善を勧める線です。受診勧奨判定値は、HbA1c 6.5%以上で医療機関の受診を勧める線です。空腹時血糖では、それぞれ100 mg/dL以上、126 mg/dL以上に当たります。この線は70代・80代でも変わりません。

一方、治療の目標値は、糖尿病のある人が合併症と低血糖を避けるための線です。糖尿病でない70代は健診の判定値で見ます。糖尿病のある70代は、上の早見表にある治療目標で考えます。

物差し 誰に使うか HbA1cの線
健診の保健指導判定値特定健診を受ける人5.6%以上
健診の受診勧奨判定値特定健診を受ける人6.5%以上
治療の目標値糖尿病と診断された人上の早見表を参照

80代の方の結果票に「HbA1c 6.0% 要注意」とあっても、糖尿病の薬を飲んでいなければ、私は年齢だけを理由に慌てて薬を始めません。まず、健診の判定値と治療の目標値のどちらの話かを分けて説明します。

60代のHbA1c目標は何%か

60代のHbA1c目標は、64歳までは成人の目標を用い、合併症予防では7.0%未満です。64歳以下を含む成人では、血糖の正常化を目指す際は6.0%未満が目標です。治療を強めるのが難しい場合は、8.0%未満を目指します。

65歳以上になると、高齢者向けの上の早見表を参照します。認知機能と日常生活の自立度が保たれ、低血糖が心配な薬を使う65〜74歳には、HbA1c 6.5%の下限もあります。目標は年齢だけで決めず、糖尿病を患った期間、臓器障害、低血糖の危険性、周囲の支援も踏まえて主治医と決めます。

高齢者の空腹時・食後の血糖値に目安はあるのか

高齢者専用の空腹時・食後血糖値の表は、合同委員会の目標にはありません。合同委員会の高齢者向け目標はHbA1cで示されています。

成人では、合併症予防の目標であるHbA1c 7.0%未満に対応するおおよその目安があります。空腹時血糖は130 mg/dL未満、食後2時間血糖は180 mg/dL未満です。高齢者では、これを一律の目標にせず、上の早見表と薬の種類を合わせて見ます。空腹時と食後の血糖値の違いも参考にしてください。

血糖値がおおむね70 mg/dLを下回ると低血糖です。低血糖が心配な薬を使い、自己測定で低い値が出た方は、高い値より先に主治医へ伝えてください。症状は上の低血糖のサインの節で確認できます。

ウォーキングは高齢者の血糖管理に役立つ

ウォーキングは、血糖コントロールの改善につながる有酸素運動です。運動療法はインスリン抵抗性や脂質代謝も改善します。ただし、高齢の方は始める前に主治医へ運動の可否を確認してください。

中等度の有酸素運動は週150分以上、週3回以上、1回20分以上が目安です。歩行なら1回15〜30分を1日2回とする目安もあります。食後1時間ごろの運動は、食後の高血糖を改善します。

筋肉に負荷をかける運動は、連続しない日に週2〜3回が目安です。歩行と組み合わせると、単独で行うより効果的という報告があります。片足立ちやステップ練習などのバランス運動も役立ちます。筋肉に負荷をかける運動の回数や頻度を急に増やすことは勧められません。

インスリンやSU薬を使う高齢の方に歩行を勧めるとき、私は食後の歩く時間帯を確認します。同じ外来で、歩く日に低血糖が出たら薬や補食をどう調整するかも決めておきます。

2026年4月に変わったのは人間ドックの判定区分

人間ドックの判定区分とは、検査結果にA〜Dの判定を付けるための区分です。2026年4月1日から、HbA1cだけで判定が決まる条件がなくなりました。空腹時血糖と組み合わせて判定し、空腹時血糖70 mg/dL未満にも判定が付きます。

この改訂で、2016年に示された高齢者の治療目標が変わったわけではありません。結果票の判定と治療中の目標は、分けて読んでください。詳しくは2026年の血糖判定区分の解説をご覧ください。

見落としやすい落とし穴

目標の表だけを頼りにすると、次の場面で判断を誤りやすくなります。

HbA1cそのものが実際の血糖とずれている場合。鉄剤などで貧血を治している途中、出血や溶血があるとき、腎性貧血の注射を使っているとき、肝硬変ではHbA1cが実際より低く出ます。逆に鉄欠乏性貧血では高く出ます。透析中の方ではグリコアルブミンなど別の指標を併用します。

65歳より前から同じ薬で安定している場合。合同委員会の注記では、65歳未満からこれらの薬を使っていて下限を下回っている方は、基本的に現状を維持するとされています。つまり「下限割れ=即減薬」ではなく、低血糖が実際に起きていないかの確認が先です。

目標を緩めたまま見直さない場合。カテゴリーは固定ではなく、入院や骨折を境にADLは変わるため、私はその後の最初の外来でカテゴリーを付け直します。緩めた目標でも、HbA1cが9%を超えて続けば私は緩めすぎと判断し、のどの渇き・体重減少・尿路感染を確かめて治療を組み直します。高齢者の食事で筋肉を落とさない工夫は高齢者ダイエット完全ガイドで解説しています。

よくあるご質問

Q1. 80歳の母のHbA1cが6.5%でした。よく下がっていると考えてよいですか?

A. 使っている薬しだいです。インスリン・SU薬・グリニド薬など低血糖が心配な薬を使っていなければ、目標の7.0%未満(カテゴリーIIIなら8.0%未満)を満たしている良い数字です。これらの薬を使っている場合、75歳以上の下限はカテゴリーI・IIで7.0%、IIIで7.5%なので、6.5%はどの区分でも下げすぎの側に入ります。低血糖が隠れていないかを主治医と確認してください。

Q2. 年を取ったら糖尿病の薬はやめてもよいのですか?

A. 自己判断でやめるのは危険です。薬をやめると血糖が大きく上がり、脱水や感染症を招くことがあります。高齢になって見直すべきなのは、薬を減らす・低血糖を起こしにくい薬に替えるといった中身の調整で、これは主治医と一緒に行います。

Q3. HbA1cの目標は何歳から変わるのですか?

A. 高齢者向けの目標は65歳以上が対象ですが、年齢そのもので目標が変わる場面は限られます。年齢の区切り(75歳)が出てくるのは、認知機能とADLが保たれていて、インスリン・SU薬・グリニド薬などを使っている場合だけです。それ以外は認知機能・ADL・薬の組み合わせで決まります。

Q4. 低血糖のとき、飴やチョコレートでもよいですか?

A. ブドウ糖10gが最も確実です。飴は溶けるまで時間がかかり、チョコレートは脂肪が多く血糖の上がり方が遅れます。ブドウ糖がなければ砂糖を含むジュース150〜200mLで代用できます。α-グルコシダーゼ阻害薬を飲んでいる方は砂糖では上がりにくいため、必ずブドウ糖を使ってください。

Q5. 認知症と診断されていなくても、カテゴリーIIに入ることはありますか?

A. あります。カテゴリーIIは軽度認知障害から軽度の認知症、または着替えや入浴は自分でできるものの、買い物・服薬管理・お金の管理などの手段的ADLが落ちている状態を含みます。診断名がなくても、薬の飲み忘れや飲み間違いが出ていれば該当しうるので、主治医に生活の様子を伝えてください。

親の「良い数字」こそ、一度確かめてください

ご家族のHbA1cが低すぎる、薬を何年も見直していない、ふらつきや物忘れが気になる方は一度ご相談ください。当院では、カテゴリーの見立てと低血糖を起こしにくい治療への組み直しを、保険・自費どちらの可能性も含めて、医師がその方に合う形でご提案します。ご家族の同席も歓迎しており、対面のほかオンライン診療にも対応しています。高齢の方が減量の薬を使うと筋肉まで落ちやすいため、その守り方をGLP-1と筋肉の記事にまとめています。

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ご家族のHbA1cが「よく下がっている」ときこそ、今の薬と日々の様子を合わせてご相談ください。

当院では、保険診療で糖尿病・生活習慣病を診ています。担当医は小林 正敬(日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本内科学会 総合内科専門医)です。対面診療とオンライン診療に対応しています。

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参考文献

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この記事を書いた人

まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院 代表理事 / 院長。日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本糖尿病協会 糖尿病認定医/日本内科学会 認定内科医・総合内科専門医/日本内科学会 認定医制度審議会 病歴要約評価委員/日本老年医学会 老年科専門医・指導医/日本抗加齢医学会 抗加齢専門医/日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医/ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター。医籍登録番号 第486214号。国立国際医療研究センター国府台病院で内科研修を始めた後、糖尿病内科の道に進み、現在は最新の薬物療法(GLP-1作動薬・チルゼパチド等)と、栄養・運動・漢方を組み合わせた包括的な糖尿病・代謝診療を実践しています。

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