日本肥満学会は2026年10月、GLP-1受容体作動薬などを使う減量について注意を促しました。薬を使いながら過度な食事制限や糖質制限をすることは絶対に避けてください。甘酸っぱい口臭や吐き気、強いだるさを薬の副作用だけと決めつけないでください。意識がぼんやりする、呼吸が速く深い場合は、救急要請を含めて直ちに受診を検討してください。
日本肥満学会は何を注意喚起したのか
日本肥満学会の声明は、インクレチン関連薬を用いた減量中のケトーシス・ケトアシドーシスへの注意喚起です。GLP-1受容体作動薬とGIP/GLP-1受容体作動薬を対象としています。肥満症治療薬の適正使用ワーキンググループが作成し、日本糖尿病学会などの協力委員も加わりました。
声明の背景には、薬によって「減量は容易」と受け止められ、食事を減らしすぎる危険が見過ごされる懸念があります。肥満症や2型糖尿病のない人が、減量目的で使う例も増えています。医薬品医療機器総合機構(PMDA)には、使用中のケトーシスやケトアシドーシスが副作用として多数報告されています。声明は適応外の使用を勧めていないとも明記しています。
GLP-1を用いた減量の全体像と合わせて、食事の取り方を確認してください。
ケトーシスとケトアシドーシスの違い
ケトーシスは、ケトン体が消費される量を超えて血液中に増えた状態です。食事や炭水化物が極端に不足すると、脂肪の分解が進みます。そこで生じるケトン体は、ある程度まではエネルギー源として使われます。
ケトアシドーシスは、酸性のケトン体がさらに増え、血液が酸性に傾いた重篤な状態です。吐き気や腹痛、強いだるさ、意識の障害などが起こり、緊急の治療が必要になります。
GLP-1を使った減量でケトーシスが起きるのはなぜか
GLP-1受容体作動薬などを使った減量では、薬の使用と過度な食事制限や急激な減量が重なり、ケトーシスが起きると考えられています。食欲が落ちて食べる量が極端に減り、さらに主食も抜けば、炭水化物が不足します。脂肪の分解が進むと、ケトン体が増えます。
私は薬を始める前に、朝昼夕に何を食べているかを具体的に聞きます。主食を抜いている人には、薬を始めるなら主食を抜かないと決めてもらいます。極端な食事制限を続けるつもりなら、処方は始めません。
ケトーシス関連事象の兆候5つと取る行動
ケトーシス関連事象の兆候は、普段と異なる口臭や吐き気から、意識や呼吸の変化までさまざまです。日本肥満学会が挙げた兆候を、受診時の行動とともに整理します。兆候が出たら、薬と食事制限を直ちに中止し、速やかに医療機関の受診を検討してください。
| 兆候 | 体で起きている可能性 | 取る行動 |
|---|---|---|
| 普段と異なる甘酸っぱい口臭 | ケトン体の産生が増えている可能性 | 薬と食事制限を直ちに中止する。食事量と糖質制限を振り返り、速やかに医療機関の受診を検討する |
| むかつき・吐き気・嘔吐・腹痛 | 薬の副作用でも起きるが、ケトーシスの症状でもある | 副作用と決めつけず、薬と食事制限を直ちに中止して受診を検討する |
| 食事も水分も受け付けない | ケトーシスが起きている可能性 | 薬と食事制限を直ちに中止し、速やかに受診する |
| 強い全身倦怠感 | ケトーシスが進んでいる可能性 | 食べていないだけと判断せず、薬と食事制限を直ちに中止して受診を検討する |
| 意識がぼんやりする・強い眠気・呼吸が速く深い・息苦しい | 重症のケトアシドーシスの可能性。命に関わる | 救急要請を含めて直ちに受診を検討する。救急受診ガイドも参照する |
ケトアシドーシスの初期症状は何か
ケトアシドーシスにつながる初期の兆候には、甘酸っぱい口臭、吐き気や腹痛、食事や水分を受け付けない状態、強いだるさがあります。特に吐き気や嘔吐は、薬の副作用と思って対応が遅れるおそれがあります。症状だけで原因を決めず、減量中の食事量も処方医に伝えてください。
ケトアシドーシスで死亡することはあるのか
ケトアシドーシスは、進行して治療が遅れると生命に関わることがあります。日本肥満学会の声明は、意識がぼんやりする、呼吸が速く深いといった兆候を重症の可能性として挙げています。その場合は上の早見表のとおり、救急要請を含めて直ちに受診を検討してください。
糖質制限だけでもケトアシドーシスになるのか
薬を使わない極端な糖質制限でも、ケトアシドーシスが起きた症例報告があります。報告されたのは糖尿病のない53歳女性です。薬を使わず、22日間、肉と卵だけで糖質をほとんど取らない減量を続けました。体重は約7.7 kg減り、6日間の吐き気や嘔吐などで救急受診しました。ケトアシドーシスと診断され、点滴治療を受けて入院3日目に退院しています。
これは1例の症例報告であり、糖質制限をした人にどれほどの頻度で起きるかは示していません。食事の糖質を控える方法にも幅があります。糖質制限の段階とケトジェニック食の違いも確認してください。
飢餓性ケトアシドーシスとは
飢餓性ケトアシドーシスは、食事を取れない状態や極端な食事制限で脂肪の分解が進み、血液が酸性に傾く状態です。日本肥満学会の声明が挙げる査読前の文献には、高血糖を伴わないケトーシスやケトアシドーシスを扱ったものもあります。「血糖値が高くないから大丈夫」とは判断せず、症状と食事量を処方医に伝えてください。
危険が高くなる組み合わせは何か
ケトーシス関連事象の危険が高くなる組み合わせとして、日本肥満学会は過度な食事制限や糖質制限、過度な飲酒、SGLT2阻害薬の併用を挙げています。特に食事制限について、声明の別紙は次のように伝えています。
「過度な食事制限や糖質制限を行いながら、これらの薬剤を使用することは絶対に避けてください。」
出典:日本肥満学会「安全な減量に関するステートメント」別紙
SGLT2阻害薬は、尿にブドウ糖を排泄させる薬です。2型糖尿病、心不全、慢性腎障害などの治療に使われます。併用している薬は、減量の薬を処方する医師に伝えてください。
SGLT2阻害薬を使っている人が気をつけること
SGLT2阻害薬を使っている人は、食べられない日や急な病気のときの薬の扱いを、主治医と事前に決めておく必要があります。北欧3か国の2型糖尿病患者282,282人を調べた研究があります。ケトアシドーシスのきっかけで最も多かったのは感染症で、発症との関連は7.60倍でした。栄養不良との関連は10.54倍でした。著者らは、治療を始めた時期だけでなく、続けている間も注意するよう述べています。
私はSGLT2阻害薬を処方するとき、熱や下痢、嘔吐で食べられない日の薬の扱いを紙に書いて渡します。普段から自己判断で薬を中止するのではなく、体調を崩した日の対応を処方医と決めておいてください。ケトーシス関連事象の兆候が出た場合の行動は、上の早見表のとおりです。
肥満症や糖尿病がない人が減量目的で使う場合
肥満症や2型糖尿病がない人では、薬の作用や副作用の現れ方が、治療の対象となる人と異なる可能性があります。日本肥満学会は、ケトーシス関連事象が糖尿病や肥満のない人でも多く報告されているとしています。また、低体重では骨量の減少、月経周期の異常、貧血、筋量や筋力の低下も心配されます。
私は肥満症でも糖尿病でもない人から減量の相談を受けたら、まず減量自体が必要かを話します。薬の副作用には吐き気、嘔吐、下痢、便秘、腹痛があり、重い副作用として膵炎やイレウスも懸念されています。
急に体重が減った人には、数字を評価する前に食事量と体調を聞き直します。食事量が落ちすぎていないかを確かめるためです。筋量の変化についてはGLP-1と筋肉の記事も参考になります。
治療の対象として薬を使っていれば安全なのか
治療の対象となる病気があって薬を使っていても、過度な食事制限を伴えば、ケトーシス関連事象の危険が高まる可能性があります。日本肥満学会は、適応の有無を問わず安全な減量行動を求めています。処方を受けている人も、食事を極端に減らしていないか確かめてください。食事量、体調、体重の変化を主治医と確認しましょう。
兆候が出たらどうするか、どこを受診するか
ケトーシス関連事象の兆候が出たときは、直ちに薬の使用と食事制限を中止し、速やかに医療機関の受診を検討してください。まず処方を受けた医療機関に連絡し、症状と食事・水分が取れているかを伝えます。意識や呼吸に変化があれば、救急要請を含めて直ちに受診を検討してください。
ケトーシス状態かどうかは、医療機関で尿や血液のケトン体、血糖などを調べて確認します。私は「吐き気が続いて食べられない」と連絡を受けたら、次の注射を打たずに受診するよう伝えます。受診時には尿のケトン体と血糖を調べ、脱水の程度も見ます。
見落としやすい落とし穴
薬を使って主食も抜いているとき、吐き気だけを見て食事量を聞きそびれることがあります。
吐き気を「薬に慣れるまで」と考えて我慢する。吐き気や嘔吐はケトーシスでも起こります。副作用だけと決めつけず、食事量とほかの兆候も確認してください。行動は上の早見表のとおりです。
血糖値が高くないので安心する。学会声明が参考文献に挙げた査読前の報告の題名には、高血糖を伴わないケトーシスやケトアシドーシスとあります。血糖値だけで否定せず、症状を医療機関に伝えましょう。
食べられないまま、次の注射や服薬を続ける。体重が減っていても、食事や水分を受け付けない状態は良い兆候ではありません。その場合の行動は、上の早見表と「兆候が出たらどうするか」の節のとおりです。
ご自身でできることは何か
ご自身でできることは、食べた量と体調の変化を記録し、危険な組み合わせを避けることです。朝昼夕に何をどれだけ食べたかを書き出してください。薬で食欲が落ちているときに主食を抜かず、水分を取れているかも確かめます。お酒は控え、SGLT2阻害薬など併用中の薬を処方医に伝えましょう。ご家族にも表の兆候を共有しておくと、意識や呼吸の変化に気づいたときに受診につなげられます。
よくあるご質問
Q1. オンライン診療で処方された薬でも、学会の注意喚起は関係ありますか?
A. 関係あります。処方を受けた方法によって、食事制限と薬が重なる危険は変わりません。兆候があれば処方医に連絡してください。薬と食事制限の中止、受診の目安は早見表のとおりです。
Q2. ケトン体の値が高いと、脂肪が燃えている証拠ではないのですか?
A. ケトン体はある程度までエネルギー源になります。ただし、消費を超えて血液中に増えるとケトーシスです。さらに血液が酸性に傾けば、緊急の治療が必要なケトアシドーシスです。値の高さを減量の成功と判断しないでください。
Q3. 吐き気が少しあるだけでも薬をやめるべきですか?
A. 吐き気を薬の副作用だけと決めつけないでください。少しでも兆候が出たら、薬と食事制限を直ちに中止してください。食事や水分が取れていれば、処方医に連絡して受診を検討してください。食事も水も受け付けない場合や強いだるさが重なる場合は、その日のうちに速やかに受診してください。
Q4. 低糖質のプロテインやサラダだけの食事は危険ですか?
A. 食べる量と組み合わせを確認する必要があります。薬で食欲が落ちているときに主食まで抜くと、過度な食事制限に近づきます。朝昼夕に何を食べているかを書き出し、処方医に見せてください。
Q5. 次の注射の日に体調が悪いときはどうすればいいですか?
A. 打つ前に処方医へ連絡してください。食事や水分を受け付けない場合は、次の注射を打たずに速やかに受診してください。意識がぼんやりする、呼吸が速く深い場合は、救急要請を含めて直ちに受診を検討してください。
減量の薬と食事について当院に相談するとき
減量の薬を使っている方、使用を考えている方、食事を減らしすぎているかもしれない方は、食事と体調の記録、服薬中の薬の一覧をお持ちください。減量が必要か、食事制限が強すぎないかを診察で確かめます。肥満症として保険で治療できる条件は肥満症と保険診療の記事をご覧ください。保険・自費どちらの可能性も含めてご相談ください。
まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院のご案内
食事と体重の記録、服薬中の薬の一覧をお持ちの上、受診時にお見せください。
当院では、保険診療で糖尿病・生活習慣病を診ています。担当医は小林 正敬(日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本内科学会 総合内科専門医)です。対面診療とオンライン診療に対応しています。
参考文献
- 日本肥満学会「安全な減量に関するステートメント ―インクレチン関連薬を用いた減量によるケトーシス関連事象の注意喚起―」
- 日本肥満学会 学術情報の掲載欄
- Kadesjö E ほか. Ketoacidosis with SGLT2 inhibitors in routine clinical practice of type 2 diabetes: Scandinavian cohort and nested case-control study. Lancet Diabetes Endocrinol. PMID: 42679839.
- Diet-induced Ketoacidosis in a Non-diabetic: A Case Report. Clin Pract Cases Emerg Med. 2020. PMCID: PMC7220017
- 日本肥満学会声明の参考文献3:Tirzepatide-associated non-hyperglycemic ketosis and ketoacidosis: a pharmacologically amplified starvation response with a potential role for glucagon. 査読前のプレプリント。DOI: 10.6084/m9.figshare.33991366
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