風邪やインフルエンザなどで体調を崩した糖尿病の人は、血糖値が上がることも下がることもあります。シックデイの薬は種類ごとに扱いが違います。食事と水分がとれない日には、休薬する飲み薬がある一方、インスリンは自己判断で中断しません。発病する前に、休む薬・続ける薬と、医療機関へ電話する目安を主治医と決めておきます。
糖尿病のシックデイとは何か
糖尿病のシックデイは、病気で体調が悪く、普段どおりに食事をとれない日です。風邪やインフルエンザのほか、発熱、下痢、嘔吐もきっかけになります。肺炎、腸炎、膀胱炎などにかかった日も含まれます。
風邪の日に血糖値が上がったり下がったりするのはなぜか
病気のときは、ストレスホルモンの分泌やインスリンの作用の低下によって血糖値が上がりやすくなります。一方、食事がとれなければ低血糖になる可能性もあります。普段の血糖の状態を示すHbA1cの読み方と、病気の日に起こる血糖値の変化は分けて考える必要があります。
シックデイルールでは何をするか
シックデイルールは、病気の日の休み方、食事と水分、薬の扱い、医療機関への連絡をあらかじめ決めておく方法です。糖尿病情報センターは、家庭での対応として次の基本を示しています。
- 温かくして安静にする
- スープなどで水分をとり、おかゆやうどんなどで炭水化物をとる
- インスリンを使っている場合は、決して自己判断で中断しない。飲み薬も種類によって調整を考える
- 可能ならこまめに血糖値を測り、病気の状態も確かめる
悩む場合は電話などで主治医に相談します。具体的な薬の使い方と相談するタイミングは、元気なうちに決めて文章にしておくと、発病した日に確認できます。
糖尿病の薬はシックデイに休むのか、続けるのか
シックデイの薬の扱いは、薬の種類によって異なります。糖尿病情報センターは、食事量が普段の半分以下なら、飲み薬を減量・中止することがあると示しています。以下の食事量や用量による調整はめやすであり、主治医と事前に決めた指示が優先です。
| 薬の種類 | シックデイでの扱い | 理由 | 資料 |
|---|---|---|---|
| SGLT2阻害薬(尿に糖を出す飲み薬) | 発熱・下痢・嘔吐があるとき、または食欲不振で食事が十分とれないときは必ず休薬する | 脱水や、血糖値が正常に近くても起こるケトアシドーシスに注意が必要 | 日本糖尿病学会 SGLT2阻害薬 Recommendation |
| メトホルミン(ビグアナイド薬) | いったん服薬を中止し、主治医に相談する | 脱水は乳酸アシドーシスの危険につながる | 日本糖尿病学会 メトホルミン Recommendation |
| インスリン | 自己判断で中断しない。持効型と超速効型・速効型では、食事量や血糖値に応じた扱いが異なる | 1型糖尿病などでは中断がケトアシドーシスにつながりうる | 糖尿病情報センター、岡山大学病院 薬剤部 |
| SU薬(インスリンの分泌を促す飲み薬) | 食事が摂れず血糖値が上がらない場合は原則減量や中止が必要。事前の指示がなければ、次の服用の前に処方医へ電話で確認する | 食事がとれないと低血糖のおそれがある | 糖尿病情報センター Web ページ |
| グリニド薬・α-GI薬(食後の血糖を下げる薬) | 食事がとれないシックデイには原則中止する | 食事をとらない日は食後の血糖を下げる必要がないため | 糖尿病情報センター Web ページ |
| GLP-1受容体作動薬(注射・飲み薬) | 食事や水分がとれなくなった時点で処方医に連絡し、次の使用もそこで確認する | 吐き気の原因を症状だけで区別しにくい | 日本肥満学会 声明 |
SGLT2阻害薬では脱水やケトアシドーシス、メトホルミンでは脱水に伴う乳酸アシドーシスが問題になります。食事がとれないときの低血糖も、薬によっては考える必要があります。インスリンは製剤ごとに調整の仕方が異なるため、一律に「全部休む」「全部続ける」とは決められません。
メトホルミンはシックデイに飲んでよいか
メトホルミンは、シックデイにはいったん服薬を中止し、主治医に相談する薬です。下痢や嘔吐で脱水が心配されるとき、乳酸アシドーシスの危険があります。日本糖尿病学会は次のように記しています。
「シックデイの際には脱水が懸念されるので、いったん服薬を中止し、主治医に相談する。」
出典:日本糖尿病学会「メトホルミンの適正使用に関する Recommendation」
喉の渇きが気になる場合は、喉の渇きと糖尿病の記事も参考になります。薬の再開時期は、回復後の食事や水分の状態を踏まえて主治医と判断します。
インスリンは食べられなくても打つのか
インスリン治療中は、食事がとれなくても自己判断で注射を中断しません。糖尿病情報センターは、持効型溶解インスリンについて、食事が摂れない場合に5〜8割程度に減量することもあると示しています。1型糖尿病など、自分のインスリン分泌が少ない方が注射を中断すると、ケトアシドーシスになる可能性があります。
超速効型・速効型インスリンは、まったく食べられなければ中止することがあり、食事の炭水化物量がいつもの半分なら半量程度にする場合があります。感染による発熱で一時的に高血糖になれば、少し多めに使うこともあります。これらはめやすであり、自己判断で増減せず、主治医と事前に決めた指示に従います。
私は外来で、食べられない日の持効型を何割にするかを本人の使用量に合わせて決めます。超速効型・速効型についても、食事がまったくとれない場合と半分ほどとれる場合を分け、対応を紙に書いて渡します。「食べないから打たない」という一括りの判断を避けるためです。
SGLT2阻害薬を飲んでいる人は何に気をつけるか
SGLT2阻害薬は、発熱・下痢・嘔吐があるとき、または食欲不振で食事が十分とれないときには必ず休薬します。全身の強いだるさ、吐き気、嘔吐、腹痛があれば、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシスの可能性があります。
私はSGLT2阻害薬を始める日に、この休薬条件を処方と同時に説明し、紙にも書いて渡します。強いだるさや激しい腹痛が出た場合は、早めに医療機関へ連絡・受診します。
シックデイには何を食べ、何を飲むか
シックデイの食事は、絶食を避け、消化がよく口当たりのよいものを選ぶのが基本です。おかゆ、うどん、スープ、果物、ゼリーなどが例になります。岡山大学病院薬剤部は、食欲がなくても普段の摂取カロリーを保つよう勧めています。高齢の方の食事と体調管理は高齢者の食事の記事も参考になります。
発熱、下痢、嘔吐があると脱水が心配されるため、飲めるものを少しずつとります。食事がとれないときは、糖分を含む飲み物が糖質の補給にもなります。一方、食べられているときに甘い飲み物を何本も飲むと、血糖値が上がることがあります。日本糖尿病学会は、SGLT2阻害薬を使う人の清涼飲料水の多飲も、ケトアシドーシスの原因として挙げています。
どんな症状なら医療機関に連絡・受診するか
糖尿病情報センターの Web ページは、次の状態ではすぐに医療機関へ連絡・受診するとしています。
- 嘔吐・下痢がとまらない、または38℃以上の高熱が続く
- 食事が24時間にわたって全くとれない、または極端に少ない
- 血糖値が350 mg/dL以上の状態が続く
- 意識の状態に変化がある
SGLT2阻害薬を使用中に強いだるさ、吐き気、腹痛が出た場合も、血糖値が正常に近いことだけで安心はできません。意識の変化や呼吸の苦しさがある場合は救急受診します。救急受診ガイドも確認できます。
電話では「いつから」「どんな症状」「食事はどのくらいとれているか」「血糖値」を伝えます。私は食事がとれないという相談を受けたとき、この内容から病状を確かめ、受診を急ぐか判断します。
インフルエンザの季節には何を準備するか
インフルエンザの季節には、感染を防ぐ行動と、発病した日の薬の扱いの確認が必要です。東京都は2026年9月17日、都内のインフルエンザが注意報基準を超えたと発表しました。昨年より1か月以上早い時期です。
都は手洗い、換気、休養、栄養、水分補給、咳エチケットを挙げています。ワクチン接種はかかりつけ医と相談します。私は流行期の前に、お薬手帳の余白へ「病気の日の薬」を書き込みます。熱が出た日に薬の名前や指示を探さずに済むためです。
市販の風邪薬を買うときはどうするか
市販の風邪薬を買うときは、薬剤師にお薬手帳を見せ、使っている糖尿病の薬、食事がとれているか、下痢や嘔吐があるかを伝えます。薬を選ぶ場面でも、その日の食事量と体調が判断材料になります。
手術や検査が決まったら糖尿病の薬をどう伝えるか
手術や検査が決まったときは、糖尿病の薬を含むすべての薬を、お薬手帳を見せながら申告します。日本糖尿病学会は、予定手術ではSGLT2阻害薬を術前3日前から休薬し、食事が十分とれるようになってから再開するとしています。
医療安全情報 No.238では、手術前後に禁忌となる糖尿病薬の休薬漏れが報告されています。糖尿病ネットワークの記事によると、2020年1月から2026年7月までに11件あり、手術が延期された事例も紹介されています。予定が決まった時点で薬を申告し、休む日を診療側と確認します。
見落としやすい落とし穴
食べられない日に薬を全部やめる。食事がとれないからと糖尿病の薬をすべてやめると、インスリンの中断につながりかねません。
血糖値が高くないから安心する。血糖値がそれほど高くないという理由だけで、SGLT2阻害薬使用中の強いだるさや腹痛を見過ごすこともできません。
吐き気を風邪のせいにする。吐き気を風邪のせいと決めつけることも避けたい点です。GLP-1受容体作動薬を使用中に食事や水分がとれなくなった時点で処方医に連絡し、次の使用もそこで確認します。症状の背景については吐き気とケトアシドーシスの記事でも扱っています。
ご自身でできる準備
薬ごとの指示を書いた紙をお薬手帳と一緒に置き、体温、食事量、水分量、血糖値、症状を確認できるようにしておきます。おかゆ、うどん、スープ、経口補水液などの買い置きと、家族との連絡先の共有も、発病した日に役立ちます。
よくあるご質問
Q1. 熱が下がったら、休んでいた薬はいつから再開しますか?
A. 熱が下がっただけでは再開を決められません。SGLT2阻害薬は、食事が十分とれるようになってから再開します。メトホルミンの再開は主治医に相談します。
Q2. 糖尿病の人はインフルエンザにかかりやすく、風邪も長引きますか?
A. 糖尿病の人は抵抗力が低下し、感染症にかかりやすいと言われています。ただし、風邪が必ず長引くとは言えません。発熱中は、食事と水分の摂取量、血糖値、症状の変化を確認します。
Q3. シックデイに血糖値を測る機械がない場合はどうすればいいですか?
A. 血糖値が分からなくても、体温、食事と水分の量、症状は確認できます。食事がとれない状態など受診の目安に当てはまる場合は、血糖測定器の有無にかかわらず医療機関へ連絡します。
Q4. GLP-1の注射を使っていて吐き気があります。風邪ですか、薬のせいですか?
A. 吐き気だけで風邪か薬かを区別するのは困難です。食事や水分がとれなくなった時点で処方医に連絡し、次の使用もそこで確認します。
Q5. シックデイの説明を受けたことがありません。知らない人は多いのですか?
A. 2012年3月発行の糖尿病ネットワークの読者アンケートでは、回答した321人のうち、シックデイを「知らない」人が約4割でした。対処法を含む指導を受けた人は17%です。古い読者調査であり、現在の糖尿病患者全体の割合ではありません。ご自身の薬の扱いは、次の受診で具体的に確認できます。
病気の日の薬の扱いを当院で相談するとき
病気の日の薬の相談では、使っている薬と、食べられない日にどうするかを確認します。「シックデイの説明を聞いていない」という方は、お薬手帳をお持ちください。SGLT2阻害薬、メトホルミン、インスリンを使う方は、次の受診で薬ごとの扱いを紙に書いてもらいましょう。保険・自費どちらの可能性も含めてご相談ください。
まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院のご案内
お薬手帳と、病気の日の食事・水分・体調の記録を受診時にお見せください。
当院では、保険診療で糖尿病・生活習慣病を診ています。担当医は小林 正敬(日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本内科学会 総合内科専門医)です。対面診療とオンライン診療に対応しています。
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