糖尿病網膜症は、初期から中期に自覚症状がほとんどありません。糖尿病と診断されたら、網膜症が見つかっていなくても年1回は眼科を受診します。網膜症が見つかった場合の目安は、段階に応じて6か月・2か月・1か月ごとです。健診の眼底写真が「異常なし」でも、眼科の検査に代わるものではありません。
糖尿病網膜症とは何ですか?
糖尿病網膜症は、高血糖が長く続いて目の奥の網膜の血管が傷む病気です。出血や新生血管の発生、網膜剥離を起こすことがあります。進行すると失明につながる場合もあるため、見え方が変わる前から眼科で確認します。
糖尿病網膜症に初期症状はありますか?
糖尿病網膜症は、初期から中期には視力障害などの自覚症状がない場合がほとんどです。かなり進行しても、本人が気づかないことがあります。単純網膜症では毛細血管瘤、点状出血、硬性白斑などが眼底に見えても、自分では分からないことがあります。
網膜症が進むと、見え方はどう変わりますか?
網膜症が進むと、急な視力低下や視野が狭くなる変化が現れることがあります。こうした変化に気づいて受診した時点で、すでに増殖期の硝子体出血や網膜剥離が起きている場合も少なくありません。症状が出るまで待つことはできません。
黄斑浮腫は網膜症のどの段階でも起こり、物がゆがんで見える変視症や視力低下につながります。糖尿病に伴う角膜や神経の障害では、眼の痛み、充血、物が二重に見える症状が出ることもあります。急な視力低下があれば、救急受診ガイドも確認し、速やかに受診してください。
網膜症の段階ごとに、眼科へ行く間隔はどのくらいですか?
眼科の受診間隔は、網膜症の段階に応じて決まる目安です。次の表は、眼底所見、健診で勧められる対応、眼科受診の間隔をまとめたものです。実際の間隔は、受診した眼科医の指導に従ってください。
| 段階 | 眼底に見えるもの | 健診で指摘されたときの対応 | その後の定期受診の目安 |
|---|---|---|---|
| 網膜症なし | 見える範囲に異常なし | 年に1度は眼科受診を | 1年ごと |
| 単純網膜症 (軽症〜中等症非増殖網膜症) | 毛細血管瘤・点状出血・硬性白斑など | すぐに医療機関(眼科も含む)を受診 | 6か月ごと |
| 増殖前網膜症 (重症非増殖網膜症) | 軟性白斑・高度の静脈変化・網膜内細小血管異常など | 至急、医療機関(眼科も含む)を受診 | 2か月ごと |
| 増殖網膜症 | 新生血管・硝子体出血・網膜剥離など | 緊急に医療機関(眼科も含む)を受診 | 1か月ごと |
表の「その後の定期受診の目安」は、健診で指摘されたときの「すぐに受診」とは分けて考えてください。黄斑浮腫がある場合や高血糖が続く場合は、より短い間隔が必要になることがあります。
糖尿病と言われたら、眼科にはいつ行きますか?
糖尿病と診断されたときが、眼科医による網膜症の評価を受ける時点です。特に2型糖尿病では、診断時点で直ちに眼科を受診します。その後は網膜症の段階に応じて受診し、次の間隔は眼科医と決めます。
私は糖尿病と診断した日に、眼科の最終受診日を確認します。眼科に行ったことがない方や、1年以上空いている方には、その日のうちに紹介状を書きます。眼科の結果が届いたら、網膜症の段階を内科のカルテに記し、次に受診する月を確認します。
糖尿病と言われたばかりでも、網膜症はありますか?
糖尿病と診断されたばかりでも、網膜症がすでにある場合があります。2型糖尿病では、全体の約30%が診断時に網膜症を伴います。診断された日が、血糖の異常が始まった日とは限りません。
30歳以上で2型糖尿病と診断された例では、推定罹病期間が5年未満でも28.8%に何らかの網膜症が認められました。15年以上では77.8%でした。増殖網膜症は、それぞれ2.0%と15.5%です。耐糖能異常の段階でも網膜症が見られることがあります。診断から何年後かだけで、目の状態は判断できません。
健診の眼底検査は、誰が受けますか?
特定健診の眼底検査は、医師が必要と認めた人に行う詳細な健診項目です。原則として、その年度の健診で血圧または血糖が受診勧奨判定値以上の人が対象になります。
判定値は、収縮期血圧140 mmHg以上または拡張期血圧90 mmHg以上です。血糖では、空腹時血糖126 mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上、随時血糖126 mg/dL以上が該当します。数値の読み方は、健診の血糖判定の記事も参照してください。
健診の眼底検査で「異常」と書かれたら、どうしますか?
健診の眼底所見には、糖尿病網膜症と、高血圧・動脈硬化による変化があります。結果票に単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症とあれば、上の表に沿って眼科を含む医療機関を受診してください。
高血圧性変化にはScheie分類のH、動脈硬化性変化には同分類のSが使われます。ほかにKeith-Wagener分類のKW、Wong-Mitchell分類のWMもあります。H3以上、KW IIb以上、WM中等度以上なら、早急に内科を受診し、眼科受診も相談します。この変化がある人は、ない人より脳卒中を含む循環器病の危険が2倍以上です。H1〜2、S1〜4、KW I〜IIa、WM軽度でも、内科で血圧などを相談してください。危険は最大2倍程度とされています。
私は「高血圧性変化」と書かれた結果票を見たら、家庭血圧を記録してもらいます。外来では、H3以上・KW IIb以上・WM中等度以上なら早急に内科で高血圧の治療を検討し、担当医に眼科受診も相談します。H1〜2・S1〜4・KW I〜IIa・WM軽度なら、血圧・血糖・脂質を確認して危険因子の管理を進めます。血圧の結果については健診で血圧が高いと言われたときの記事も参考にしてください。
健診の眼底検査が「異常なし」なら、眼科は不要ですか?
健診の眼底写真が「異常なし」でも、糖尿病と診断されている人には眼科受診が必要です。健診では、無散瞳の眼底カメラ写真を医師が判定することが多く、網膜の周辺部は写りません。写真で確認できる所見より前に、血管密度や神経機能の異常が生じることもあります。
眼底カメラで所見がないとされた場合にも、眼科医による詳細な検査で網膜症が発見されることもあるので、糖尿病と診断されている者には毎年眼科を受診し、網膜症の検査を受けることを勧めることが大切です。
出典:厚生労働省『標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)』
眼科では眼底検査に加え、視力検査、眼圧測定、細隙灯顕微鏡検査などを行います。必要に応じて光干渉断層計なども使います。自覚症状の確認や健診の写真だけで、網膜症の有無は決められません。
糖尿病網膜症は、初期なら治りますか?
糖尿病網膜症の治療は、段階や目の状態に応じて進行と視力障害を防ぐために行います。単純網膜症では、血糖と血圧を管理し、血管の障害を進ませないことが柱です。眼科では網膜光凝固というレーザー治療、硝子体手術、ステロイドや抗VEGF薬の硝子体内注射などが用いられます。
増殖網膜症でも、すぐに眼科で治療を受けることで失明を防げる可能性が高まります。「初期だから症状が出るまで待つ」と考えず、眼科で状態を確認してください。
網膜症の進行を防ぐために、内科では何を管理しますか?
内科での管理の中心は、血糖・血圧・体重を整えることです。脂質異常症の改善も、網膜症の進展防止につながるとの報告があります。細小血管合併症の予防には、HbA1c 7.0%未満が目標とされています。HbA1cの意味も確認し、ご自身の目標を主治医と共有してください。
血圧の管理も重要です。収縮期血圧が10 mmHg上がると、初期網膜症のリスクは10%、増殖網膜症や黄斑浮腫のリスクは15%上がるとの報告があります。適切な降圧は、網膜症の発症と重症化の予防につながります。
私は長く血糖が高かった方の治療を強める前に、眼科で網膜の状態を確認します。すでに網膜症があれば、血糖を下げる速さを眼科医と相談し、緩やかな改善を目指します。
見落としやすい落とし穴は何ですか?
「見えているから大丈夫」と考える。網膜症は、かなり進行しても自覚症状が乏しい場合があります。見え方が変わる前に、眼科で網膜の状態を確認します。
健診の「異常なし」で眼科受診を終える。眼底写真には写らない範囲があります。糖尿病と診断されている方は、写真の結果にかかわらず年1回は眼科を受診します。
血糖を急いで下げれば目も守れると考える。急速な血糖改善で網膜症が悪化することがあり、early worseningと呼ばれます。視力低下は約50%の症例で遷延するとされています。長く血糖が高く、すでに網膜症がある方では、内科と眼科が連携して改善の速さを決めます。
ご自身でできることは何ですか?
ご自身でできることは、眼底所見と眼科受診日を記録し、内科と眼科で共有することです。健診結果票の眼底所見欄を見て、網膜症や高血圧性変化の分類名を確認してください。前回の眼科受診日を書き出し、糖尿病で内科に通っている方は受診時に伝えます。HbA1cと家庭血圧も記録しておくと、内科での管理を相談しやすくなります。健診で再検査を勧められた方は、健診で要再検査になったときの記事も参照してください。
よくあるご質問
Q1. 内科に通っていれば眼科は行かなくてもいいですか?
A. 内科に通っていても、糖尿病と診断されている方は眼科で網膜症の検査を受けてください。網膜症が見つかっていない場合も、眼科受診は年1回が目安です。最近1年間に眼底検査を受けていない場合は、かかりつけの医師に相談した上で眼科も受診してください。
Q2. HbA1cが6.5%を少し超えただけでも眼科は必要ですか?
A. HbA1cが6.5%を少し超えただけでは眼科受診の要否は決められません。血糖値とあわせて糖尿病の診断を確認してください。耐糖能異常でも網膜症が認められることがあり、2型糖尿病と診断されたら直ちに眼科を受診します。
Q3. 白内障の手術を控えていますが、網膜症に関係しますか?
A. 白内障手術後に、黄斑浮腫が発症または進行することがあります。糖尿病と診断されている方は、網膜の状態を眼科医に確認してください。
Q4. 血圧だけ高く、眼底検査で所見がありました。糖尿病でなくても関係しますか?
A. 眼底所見には高血圧性変化や動脈硬化性変化もあります。結果票の分類名を確認し、内科で血圧などを相談してください。強い高血圧性変化なら、早急に内科を受診し、眼科受診も相談します。
Q5. 重症の低血糖を起こすと網膜症に影響しますか?
A. 他人の介助を要する重症低血糖は、網膜症の発生率が約4倍になるという国内報告があります。血糖を下げる目標や方法は、低血糖の危険も含めて主治医と決めてください。
眼底所見と眼科受診の相談
眼底所見や眼科受診の段取りは、内科での血糖・血圧の管理とあわせて相談できます。糖尿病と言われたまま眼科に行っていない方、健診で眼底所見を指摘された方、血糖を下げる治療を強める前に目の状態を確認したい方は、結果票をお持ちください。当院で状態を確認し、必要な眼科受診につなげます。保険・自費どちらの可能性も含めてご相談ください。
10月10日は目の愛護デーです。前回の眼科受診日を確認するきっかけにしてください。
まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院のご案内
眼科の最終受診日と、健診や眼科の結果をお持ちの上、ご相談ください。
当院では、保険診療で糖尿病・生活習慣病を診ています。担当医は小林 正敬(日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本内科学会 総合内科専門医)です。対面診療とオンライン診療に対応しています。
コメント