サルコペニア肥満は、肥満に筋力と筋肉量の低下が重なった状態です。日本の2026年9月改訂では年齢制限がなくなり、診断には低い筋力と少ない筋肉量の両方が必要になりました。まず腹囲かBMIで肥満の入り口を確認し、握力、筋肉量、体脂肪を調べます。50〜64歳の握力の目安は男性34kg未満、女性20kg未満です。減量するときは体重だけを追わず、筋トレも組み合わせます。
サルコペニア肥満とは何か
サルコペニア肥満は、体脂肪が多い状態と、筋力・筋肉量が低い状態が同時にあることです。サルコペニアは筋力と筋肉量の低下を指します。体重や見た目だけでは分かりません。
2026年改訂で診断基準はどう変わったか
日本の2026年改訂では、年齢制限が外れ、診断に使う検査と筋肉量の判定値が変わりました。日本サルコペニア肥満ワーキンググループは、日本肥満学会と日本サルコペニア・フレイル学会が合同で設けた組織です。2024年の基準を、AWGS 2025を受けて改訂しました。
以前の年齢制限は40歳以上75歳未満でした。改訂後は年齢だけで対象から外しません。ただし、とても高齢の人では体の状態を踏まえて判断します。また、5回椅子立ち上がりテストは診断項目から外れました。診断には低い筋力と少ない筋肉量の両方が必要です。椅子立ち上がりなどの身体機能の検査は、経過を見る際には引き続き役立ちます。
筋肉量は、腕と脚の筋肉量をBMIで補正した値で判定します。DXAとBIAの判定値が更新されました。学会は、サルコペニアの診断にAWGS 2025を使うと告知しています。日本のサルコペニア肥満の判定には、その内容を取り入れた改訂基準を使います。
「AWGS 2025 では低筋肉量+低筋力の場合にサルコペニアと診断します。」— 日本肥満学会サイト掲載「新しいサルコペニアの診断基準(AWGS 2025)のお知らせ」
早見表|サルコペニア肥満の診断の物差し
サルコペニア肥満の診断は、肥満の入り口、握力、筋肉量、体脂肪を順に確かめます。腹囲またはBMIによる入り口の判定は必須です。表の筋力と筋肉量は、どちらか片方ではなく両方を見ます。
| 段階 | 見るもの | 男性 | 女性 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 肥満の入り口 | 腹囲またはBMI | 腹囲85cm以上、またはBMI 25kg/m²以上 | 腹囲90cm以上、またはBMI 25kg/m²以上 | スクリーニングに必須 |
| 筋力 | 握力・50〜64歳 | 34kg未満 | 20kg未満 | 低い筋力の判定 |
| 筋力 | 握力・65歳以上 | 28kg未満 | 18kg未満 | 低い筋力の判定 |
| 筋肉量 | BMI補正四肢骨格筋量・DXA | 50〜64歳:0.80kg/BMI未満 65歳以上:0.73kg/BMI未満 | 50〜64歳:0.55kg/BMI未満 65歳以上:0.52kg/BMI未満 | 少ない筋肉量の判定 |
| 筋肉量 | BMI補正四肢骨格筋量・BIA | 50〜64歳:0.90kg/BMI未満 65歳以上:0.83kg/BMI未満 | 50〜64歳:0.63kg/BMI未満 65歳以上:0.57kg/BMI未満 | 少ない筋肉量の判定 |
| 体脂肪 | 内臓脂肪面積または体脂肪率 | 100cm²以上、または20%以上 | 100cm²以上、または30%以上 | 肥満の確定に使う |
| ステージ | 合併症の有無 | 共通 | 共通 | 低い筋力・少ない筋肉量・肥満がステージⅠ。合併症もあればステージⅡ |
握力はいくつ未満が診断の目安になるか
握力は、サルコペニア肥満の診断で筋力の低下を確かめる値です。握力計で測り、50〜64歳では男性34kg未満、女性20kg未満を目安にします。65歳以上では男性28kg未満、女性18kg未満です。50歳未満にはAWGS 2025の判定値がなく、50〜64歳の値を暫定的に使えます。
私は糖尿病専門医として減量の相談を受けるとき、目標体重を決める前に握力と腹囲を確認します。握力が低い人では、体重を何kg落とすかより、腹囲と筋力の変化を追う方針を考えます。
筋肉量はDXA・BIAのBMI補正値で判定する
診断に使う筋肉量は、DXAまたはBIAで測る腕と脚の筋肉量をBMIで補正した値です。体組成計に表示される「筋肉量」を、そのまま表の値と比べることはできません。測定方法、年齢、性別によって判定値も違います。
肥満がある人では、身長で補正した筋肉量だけでは低下を見つけにくくなります。AWGS 2025では、BMI 24kg/m²以上の人は身長補正だと低い筋肉量と判定されることがほとんどないと説明しています。日本の改訂基準は、BMI補正の値で判定します。
サルコペニア肥満を自分でチェックする方法
自分でできるチェックは、診断前に筋肉の状態を確かめる手がかりです。指輪っかテストでは、両手の親指と人差し指で輪を作ります。利き足ではない側のふくらはぎの一番太いところを囲み、「囲めない」「ちょうど囲める」「隙間ができる」に分けます。
地域の高齢者1,904人を調べた研究では、隙間ができる人を囲めない人と比べると、サルコペニアであるオッズ比は6.6倍でした。ちょうど囲める人も、囲めない人と比べてサルコペニアである見込みは2.4倍でした。隙間ができる人では、囲めない人と比べて、その後2年に新たにサルコペニアになる見込みが3.4倍、約4年の追跡で要介護認定が2.0倍、死亡が3.2倍でした。この結果を若い人にそのまま当てはめることはできません。ふくらはぎの周囲長は、男性34cm未満、女性33cm未満が低い筋肉量の目安です。
指輪っかテストやふくらはぎの測定は、診断前のスクリーニングとして推奨されていますが、必須ではありません。腹囲の測り方は腹囲についての記事で確認できます。
サルコペニア肥満になりやすい人と手がかり
サルコペニア肥満を調べる手がかりには、高齢、慢性疾患、動けない期間、食事量や体重の変化があります。糖尿病などの慢性疾患がある人、最近入院や大きな手術をした人、長く動けなかった人では、筋肉の状態も確かめます。
食事を大きく減らした減量、体重の増減の繰り返し、長く続く厳しい食事制限も診察で聞く内容です。転倒を繰り返す、力が入りにくい、動きにくくなったといった変化も伝えてください。
痩せている女性や若い人も対象になるか
若い人も、年齢だけを理由にサルコペニア肥満の診断対象から外れることはありません。ただし、日本の基準では腹囲かBMIによる肥満の入り口を満たす必要があります。体重が普通で、筋肉量が少なく体脂肪率が高い若い女性を、体脂肪率だけでサルコペニア肥満に含めないためです。
体重が普通なら、まず隠れ肥満についての記事も参考になります。一方、若い人でも腹囲かBMIが基準に達し、筋力と筋肉量が低い場合は、さらに体脂肪を調べて判定します。
私はBMIが普通でも、腹囲が基準を超えて握力が低い人では、血糖と脂質の検査結果を確かめます。体重だけで判断せず、腹囲と筋力を一緒に見ます。
サルコペニア肥満と心臓・脳血管の病気の関係
サルコペニア肥満では、筋力の低下と肥満に加え、心臓・脳血管の病気との関連が報告されています。28研究、575,942人をまとめた解析では、心臓・脳血管の病気のオッズ比は2.06でした。ただし、脳卒中だけを見た結果には有意な関連がありませんでした。
心臓・脳血管の病気による死亡は、全体では有意差がありませんでした。この解析には、診断基準が研究ごとにばらばらという限界があります。日本では2024年に診断基準を示し、2026年の改訂で診断の物差しをそろえました。アジア人はヨーロッパの人より筋肉量・筋力が少なく、軽い肥満でもインスリン抵抗性や代謝・動脈硬化の病気になりやすいとされています。日本の基準では、サルコペニア肥満に糖尿病などの合併症が加わるとステージⅡに分けます。
私は糖尿病の外来で、体重が減っていないのに握力が落ちている人に気づいたら、血糖の数値だけでなく筋力の推移も記録に残します。
減量には有酸素運動と筋トレを組み合わせる
サルコペニア肥満の減量では、筋肉を保つために有酸素運動と筋トレを組み合わせます。肥満のある高齢者160人を対象にした6か月の試験では、減量中の有酸素運動、筋トレ、両方の組み合わせが比較されました。運動した群の体重は、いずれも約9%減りました。
筋肉などを含む除脂肪量は、有酸素運動だけの群で5%減、筋トレだけの群で2%減、両方の群で3%減でした。身体機能のスコアは、両方を組み合わせた群で21%向上し、ほかの運動群の14%を上回りました。運動による筋肉や関節のけがも報告されています。まずは歩くことと椅子から立ち上がる筋トレを無理のない動きから始め、痛みが出たら中止してください。
食事だけを削る減量は筋肉も減らします。私は減量中に体重が減っても握力が落ちてきたら、食事を削る量を緩めます。そのうえで、筋トレとたんぱく質の摂り方を見直します。減量と筋肉についての記事、高齢者の減量についての記事でも食事と運動を説明しています。
薬や医療機関での治療はあるのか
医療機関での対応は、筋力、筋肉量、肥満の状態と合併症を確かめて決めます。日本と欧州の学会が出した診断基準の文書には、サルコペニア肥満そのものを治す薬は挙がっていません。減量の治療を考える場合も、筋肉を守る食事と運動をあわせて考えます。肥満症の保険診療の条件は肥満症と保険についての記事を参照してください。
私は体重を大きく落とす治療を考える人には、筋トレも一緒に始められるかを確認します。75歳を超える人では、体重を減らすことより、筋力を落とさないことを優先して方針を決めます。
見落としやすい落とし穴
サルコペニア肥満では、体重や簡単なチェックの結果だけに頼ると、筋力と筋肉量の変化を見落とします。
体重計の数字だけを追う減量。体重が減っても筋肉が減ることがあります。減量中は腹囲と握力の変化も見てください。
BMIが普通なら対象外と思う。腹囲が基準に達していれば、肥満のスクリーニングの対象です。BMIと腹囲を両方確かめます。
指輪っかテストだけで決める。隙間ができても診断ではありません。囲めた場合も、それだけで筋力や体脂肪の状態までは分かりません。
ご自身でできること
ご自身でできることは、腹囲と筋力の変化を体重と一緒に記録することです。腹囲を測り、指輪っかテストでふくらはぎを確かめます。握力計を使える機会があれば、握力も記録してください。減量するなら、筋トレを続けられる形で取り入れます。結果を並べておくと、診察で変化を伝えやすくなります。
よくあるご質問
Q1. 家庭用の体組成計の「筋肉量」で診断できますか?
A. 家庭用の表示だけでは診断は決まりません。日本の診断基準では、DXAまたはBIAで測った四肢骨格筋量をBMIで補正した値を使います。家庭用の数値は、変化を記録する目安にとどめます。
Q2. 健診の結果だけでサルコペニア肥満か分かりますか?
A. 健診の腹囲とBMIは、肥満の入り口の判定に使えます。ただし、サルコペニア肥満の診断には握力と筋肉量の確認に加え、肥満の確定に内臓脂肪面積または体脂肪率の確認が必要です。健診結果だけで決めず、測定が必要な項目を確認します。
Q3. 75歳を過ぎても診断の対象になりますか?
A. 2026年改訂では年齢制限が外れ、75歳を過ぎた人も対象になります。ただし、とても高齢の人では、測定値だけでなく体の状態を踏まえた臨床判断が欠かせません。
Q4. 糖尿病があると何が変わりますか?
A. 糖尿病は筋肉の状態を評価する手がかりの一つです。サルコペニア肥満と診断され、糖尿病などの合併症もある場合はステージⅡに分けます。糖尿病だけでサルコペニア肥満とは判定しません。
Q5. 50歳未満の握力の基準はありますか?
A. AWGS 2025には50歳未満の握力の値がありません。日本の改訂基準では、50〜64歳の値を暫定的に使ってよいとしています。男性34kg未満、女性20kg未満です。
サルコペニア肥満を当院で相談するとき
サルコペニア肥満の相談では、体重の変化に加え、腹囲、筋力、食事と運動の経過を確認します。健診結果やご自身の記録があれば、診察でお見せください。体重だけでなく筋力も含めて、保険・自費どちらの可能性も含めてご相談ください。
まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院のご案内
受診時には、健診結果票と体重・腹囲の記録をお見せください。
当院では、保険診療で糖尿病・生活習慣病を診ています。担当医は小林 正敬(日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本内科学会 総合内科専門医)です。対面診療とオンライン診療に対応しています。
参考文献
- 日本肥満学会サイト掲載「新しいサルコペニアの診断基準(AWGS 2025)のお知らせ」
- Chen LK, et al. A focus shift from sarcopenia to muscle health in the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update. Nature Aging. 2025.
- Ishii K, et al. Revised Diagnostic Algorithm for Sarcopenic Obesity in Japan After the Asian Working Group for Sarcopenia 2025 Consensus Update (JWGSO 2026). Geriatr Gerontol Int. 2026;26(9):e70815. PMID: 42733975
- Ishii K, et al. Diagnosis of sarcopenic obesity in Japan: Consensus statement of the Japanese Working Group on Sarcopenic Obesity. Geriatr Gerontol Int. 2024;24(10):997-1000. PMID: 39253949
- Donini LM, et al. Definition and Diagnostic Criteria for Sarcopenic Obesity: ESPEN and EASO Consensus Statement. Obes Facts. 2022;15(3):321-335. PMID: 35196654
- Tanaka T, et al. “Yubi-wakka” (finger-ring) test: A practical self-screening method for sarcopenia, and a predictor of disability and mortality among Japanese community-dwelling older adults. Geriatr Gerontol Int. 2018;18(2):224-232. PMID: 28898523
- Luo Y, et al. Sarcopenic obesity and risk of cardio-cerebrovascular disease and mortality: a systematic review and meta-analysis. Int J Obes. 2025;49(12):2406-2414. PMID: 40947451
- Villareal DT, et al. Aerobic or Resistance Exercise, or Both, in Dieting Obese Older Adults. N Engl J Med. 2017;376(20):1943-1955. PMID: 28514618
コメント