糖尿病の人の睡眠は、成人なら1日おおよそ6〜8時間が目安です。寝不足だけでなく、長く寝るようになった変化にも目を向けてください。日本人の2型糖尿病の外来患者678人を平均6.0年追った研究では、8時間以上眠る人は、6時間未満の人と比べて腎症が発症・進行するリスクが1.92倍でした。睡眠を削る前に、まず寝床にいた時間と実際に眠った時間を記録してください。尿アルブミンの結果と、いびきや日中の眠気については診察で確かめます。
糖尿病の人は何時間寝ればよいのか
糖尿病の人の睡眠時間は、成人では1日おおよそ6〜8時間を目安に考えます。厚生労働省の睡眠ガイドは、少なくとも6時間以上の睡眠を確保するよう勧めています。ただし個人差があり、6時間未満で足りる人も、8時間以上を要する人もいます。
約48万人を対象にした研究をまとめた解析では、1日7〜8時間眠る人が、2型糖尿病になるリスクが最も低いと報告されています。短く眠る人と長く眠る人の両方で、発症しやすい傾向が見られています。
私は外来で睡眠について聞くとき、「何時に布団に入り、何時に眠り、何時に起きたか」を分けて尋ねます。寝床にいた時間を睡眠時間として答えていないか確かめてから、生活を変える必要があるか決めます。
8時間以上眠る人は腎症が始まったり進んだりしやすいのか
日本人の2型糖尿病の外来患者678人を追った研究では、長く眠る人ほど、腎症が始まったり進んだりした人が多く見られました。対象は25〜69歳で、研究に参加したときに持続的なたんぱく尿が出る段階の腎症はありませんでした。生活習慣を研究参加時と2年後、5年後に調べ、平均6.0年追っています。腎症の発症・進行が見られたのは215人でした。
この研究では、尿アルブミンの変化によって腎症の発症・進行を数えています。尿アルブミンが正常な状態から、少し増えた段階か、多く出る段階に進んだ場合が「発症」です。少し増えた段階から多く出る段階に進んだ場合を「進行」としています。尿たんぱくとアルブミン尿については、尿たんぱくとアルブミン尿の見方で解説しています。
この研究では、6時間未満の人と比べ、腎症が発症・進行するリスクがどれくらいかを調べています。6〜7時間未満の人は1.08倍、7〜8時間未満の人は1.56倍、8時間以上の人は1.92倍でした。6〜7時間未満の1.08倍は、はっきりした差とは言えない結果です。65歳以上の人や、研究参加時に尿アルブミンが少し増えていた人では、長く眠る人の腎症の発症・進行がより目立ちました。eGFRが60 mL/分/1.73m²未満の人にも同じ傾向がありました。
この研究だけでは、長く寝ることが腎症を進めたとは分かりません。私は睡眠が長くなってきた高齢の糖尿病の人では、尿アルブミンとeGFRの推移を確認します。あわせて握力や歩く量が落ちていないかを聞き、次に調べることを決めます。
早見表|睡眠時間ごとに分かっていること
この早見表には、腎症を追った研究、2型糖尿病の発症を調べた研究、厚生労働省の睡眠ガイドを並べています。腎症の列は6時間未満を基準にした結果です。2型糖尿病になりにくいのは、1日7〜8時間眠る人です。それより短くても長くても、なりやすい傾向があります。
| 1日の睡眠時間 | 腎症が発症・進行するリスク 6時間未満の人との比較 |
2型糖尿病のなりやすさ 時間区分ごとの数字はありません |
睡眠ガイドの目安 |
|---|---|---|---|
| 6時間未満 | 1.00倍(基準) | 区分ごとの値はなし。短い睡眠でも発症しやすい傾向 | 成人は少なくとも6時間以上の確保に努める |
| 6〜7時間未満 | 1.08倍。はっきりした差は確認されず | この区分だけの値は示されていない | 成人のおおよそ6〜8時間の範囲 |
| 7〜8時間未満 | 1.56倍 | 研究全体では1日7〜8時間あたりが最も低い | 成人のおおよそ6〜8時間の範囲 |
| 8時間以上 | 1.92倍 | 区分ごとの値はなし。長い睡眠でも発症しやすい傾向 | 必要な時間には個人差がある |
長く眠るようになったら、何を調べるのか
長く眠るようになったら、尿アルブミンの結果に加え、体調や生活に変化がないかも確かめます。研究者は、年齢とともに筋力や活動量が落ち、体が弱った状態が背景にある可能性を挙げています。体の中で軽い炎症が長く続いていることや、本人が気づいていない睡眠時無呼吸も考えられます。
睡眠時間を尋ねると、実際に眠った時間より、寝床にいた時間に近い答えが返ってくることがあります。厚生労働省の睡眠ガイドが紹介している研究では、脳波や活動量計を使って実際に眠った時間を測っています。実際に眠った時間が長くても、健康状態が悪い人が多いわけではありませんでした。一方、寝床にいる時間が長い人には、健康状態がよくない人が多いという結果でした。
8時間以上眠っても日中眠く、家族からいびきを指摘されるなら、まず睡眠時無呼吸を調べます。私は呼吸の止まりを聞き、睡眠時無呼吸の検査が必要か判断します。筋力が落ちたかも診察で確かめます。握力や筋肉の状態については、握力や筋肉の状態の見方で解説しています。腎臓のために睡眠を削る必要はありません。
寝不足は血糖にどう響くのか
寝不足が続くと、2型糖尿病になりやすくなります。すでに糖尿病がある人では、血糖が上がりやすくなることもあります。
平日と休日で起きる時刻がずれる人は、肥満や糖尿病になりやすいと報告されています。休日に長く寝ることのメリットは限られるため、まず平日の睡眠時間と起床時刻を見直します。寝る直前に夜食をとると、体内時計が遅れ、翌朝起きたときに疲れが残ったと感じやすくなります。
糖尿病の人が夜中に何度も起きる理由
糖尿病の人が夜中に何度も起きるときは、尿の回数、低血糖の可能性、呼吸の状態を分けて確かめます。血糖が高いと尿が増え、トイレで目が覚めることがあります。塩分のとりすぎも夜間の排尿回数を増やすため、夕食や飲み物の習慣を聞きます。
インスリンや一部の飲み薬を使っている人では、就寝時や明け方の低血糖にも目を向けます。低血糖では冷や汗、動悸、手足のふるえが出ることがあり、症状が出ない人もいます。いびきや呼吸の止まりがあれば、睡眠時無呼吸も考えます。
私は夜中に何度もトイレに起きる人では、まずHbA1cと飲み物・塩分の量を確かめます。インスリンや一部の飲み薬を使っていれば、就寝時や明け方の低血糖を調べ、必要に応じて薬の量や時刻を見直します。
糖尿病と不眠・睡眠障害の関係
糖尿病があると、眠っても休めた感じがしにくいことがあります。国内の追跡調査では、眠っても疲れが取れたと感じない人に、肥満や糖尿病、脂質異常症が多く見られました。不眠が続くときは、夜食、寝室の明るさ、寝床で過ごす時間を確かめます。不眠については、不眠についての記事で解説しています。
睡眠時無呼吸があると、糖尿病になりやすくなります。糖尿病の人には、睡眠時無呼吸も多く見られます。肥満があるとさらに増えますが、肥満がなくても起こりえます。女性では閉経後に増えるため、体形だけで判断せず、いびきや呼吸の止まりを確認します。
日中も眠いときは、夜の睡眠不足や睡眠時無呼吸を確かめます。食後や日中の眠気と血糖の関係は、食後の眠気についての記事で解説しています。
高齢の人は寝床にいる時間をどう考えるか
高齢の人は、実際に眠った時間と、寝床に入ってから起き上がるまでの時間を分けて考えます。年齢とともに夜に実際に眠れる時間は短くなる一方、寝床にいる時間は長くなりやすくなります。厚生労働省のガイドは、寝床にいる時間が8時間以上にならないことを目安に挙げています。
「長い床上時間は健康リスクとなるため、床上時間が8時間以上にならないことを目安に、必要な睡眠時間を確保する。」— 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」高齢者版 推奨事項
ガイドが示す寝床にいる時間の目安は、1週間の平均睡眠時間に30分程度を足した長さです。寝床にいる時間を自分で減らすときも、6時間未満にはしないでください。まず1週間、寝床にいた時間と実際に眠った時間を分けて記録してください。
見落としやすい落とし穴
本人の感覚だけで「長く眠れた」と決める。答えた時間は、実際に眠った時間より、寝床にいた時間に近いことがあります。寝つくまでの時間や途中で起きた時間も分けて書きます。
十分寝たはずなのに、昼も眠く、いびきがある。眠った時間だけでは判断できません。家族に呼吸が止まっていないか聞き、睡眠時無呼吸を確かめます。
腎症が心配で睡眠を無理に削る。背景にある体調の変化を確かめずに睡眠だけ削ると、寝不足になりかねません。まず尿アルブミンを調べ、いびきや呼吸の止まりも確かめてください。
ご自身でできること
まず1週間、寝床に入った時刻、眠った時刻、起きた時刻を書いてください。休日も起きる時刻をそろえ、就寝直前の夜食を控えます。
寝る前は寝室をできるだけ暗くし、スマートフォンを持ち込まないようにします。入浴は就寝の約1〜2時間前が目安です。寝つけないときは一度寝床を離れ、眠気が来てから戻ります。夜中のトイレが気になる人は塩分のとり方も見直してください。
家族にいびきや呼吸の止まりを聞き、健診や通院の結果で尿アルブミンとeGFRを確かめます。
よくあるご質問
Q1. 糖尿病の人は寝る前に何をしたらよいですか?
A. 寝る前は夜食を控え、寝室を暗くしてください。入浴は就寝の約1〜2時間前を目安にします。インスリンや一部の飲み薬を使っている人は、寝る前の血糖をいつ確認するか主治医と決めてください。
Q2. 昼寝で睡眠不足を取り戻してもよいですか?
A. 昼寝をしてもかまいませんが、長い昼寝は夜の睡眠を妨げることがあります。特に高齢の人は日中の長い昼寝を避け、夜に眠れているかを確かめてください。
Q3. 休日に寝だめをすれば平日の寝不足は帳消しになりますか?
A. 休日に長く寝ても、平日の寝不足を十分に補うのは難しいとされています。平日と休日で起きる時刻が大きくずれると、肥満や糖尿病のリスクも高まると報告されています。平日に眠る時間を確保できるよう、生活を見直しましょう。
Q4. 8時間以上寝ないと疲れが取れません。腎臓のために睡眠を減らすべきですか?
A. 睡眠には個人差があるため、腎臓のために無理に時間を削る必要はありません。まず、寝床にいた時間と実際に眠った時間を分けて記録してください。尿アルブミンの結果を持って受診し、いびきや呼吸の止まりがないか医師と確かめましょう。
Q5. 眠りが浅いのは血糖のせいですか?
A. 血糖だけが理由とは限りません。糖尿病があると、眠っても休めた感じがしにくいことがあります。診察では、夜中の尿の回数、就寝時や明け方の低血糖の可能性、いびきや呼吸の止まりを順に確かめます。
睡眠と血糖・腎臓を当院で相談するとき
糖尿病の睡眠相談では、睡眠の記録と血糖・腎臓の検査結果を合わせて見ます。健診結果や、寝床に入った時刻と起きた時刻の記録があればお見せください。睡眠と血糖・腎臓について、保険・自費どちらの可能性も含めてご相談ください。
いびきや呼吸の止まりが気になる方には、当院の睡眠時無呼吸症候群(SAS)外来もご案内します。
まさぼ内科・糖尿病クリニック飯田橋院のご案内
受診時には、健診結果票と睡眠時間の記録をお見せください。
当院では、保険診療で糖尿病・生活習慣病を診ています。担当医は小林 正敬(日本糖尿病学会 糖尿病専門医/日本内科学会 総合内科専門医)です。対面診療とオンライン診療に対応しています。
参考文献
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- 糖尿病ネットワーク「長時間の睡眠と糖尿病性腎症のリスク」(2026年10月19日)
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 低血糖」(令和5年12月改定)
- Ikeda F, et al. Longer sleep duration and the incidence and progression of diabetic nephropathy: a prospective cohort study. J Endocr Soc. 2026;10(11). doi:10.1210/jendso/bvag201. PMID: 42852320
- Shan Z, et al. Sleep duration and risk of type 2 diabetes: a meta-analysis of prospective studies. Diabetes Care. 2015;38(3):529-537. PMID: 25715415
コメント